日本の四季が二季になる!?
年々夏が長引いているような気がするこの頃。しかし、それは気のせいではない!実際に今年は1年の4割以上を「夏日」が占める異常事態だったのだ。日本の四季はどうなっちゃうの!?気候変動の専門家に話を聞いたところ、さらに驚きの未来予測が......!
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■異常気象はもはや〝新たな普通〟
今年の夏も異常な長さだった。「9月になってもまだ暑い」どころの話ではない。10月7日に大阪市で30.4℃を記録し、年間の真夏日(30℃以上)最多記録を更新した。さらに、東京都心も16日に26.6℃を記録し、夏日(25℃以上)が149日目となり、年間夏日の最多記録を更新している。
清少納言が『枕草子』で、「春はあけぼの」などと四季の美しさをうたったように、古くから日本の特徴は豊かな四季にあるとされてきた。
しかし、今や1年365日のうち、140日以上(実に4割以上!)が「夏日」という時代だ。紅葉シーズンの到来も徐々に後ろ倒しになり、10月になっても葉は色づいていない。夏の終わりが9月から10月になり、「秋」と呼べる季節は1ヵ月足らず、という状況になってきている。
「このまま夏が長引くのが当たり前になれば、『紅葉はまだかな』なんて思っているうちに雪が降ってくるようになるでしょう。つまり、〝秋の消滅〟がすぐそこまで迫っています」
そう警鐘を鳴らすのは、三重大学で気候変動を研究する立花義裕教授だ。このままでは日本から秋が消えていくって、本当ですか!?
「消えるのは秋だけではありません。夏の始まりが早まり、春も消えていきます。これからの日本は1年の半分近くが夏で、季節の変わり目としての短い春と秋があり、残りは冬という環境になっていきます。〝四季の国〟ではなく、〝二季の国〟となるのです」
この夏のような猛暑は〝例外的な異常〟ではなく、今後の日本の〝ニューノーマル〟になると気象学の専門家の間では予測されているというのだ。
「昨年、『地球沸騰化』という言葉が新語・流行語大賞トップ10に選ばれました。温暖化によって、地球はもはや沸騰していると警告した言葉ですが、特に沸騰しているのが日本です。2023年は『観測史上で最も暑かった異常な年』といわれました。
しかし、今年も同じくらい暑かったように、この異常気象はもはや〝たまたま〟ではありません。それほど日本の気候には近年、レジームシフト(根本的な構造変化)が起こっています」
■北極の温暖化が日本に猛暑を招く!
日本の気候に起こっている根本的な変化とは何か。立花氏が次のように解説する。
「主な原因は地球温暖化です。まず、急激な温暖化により、北極の海氷が解け始めました。北極が極寒な理由のひとつは、そこが雪と氷に覆われた白い世界だからです。白い部分が多いと太陽光を反射し、温度の上昇を防いでくれます。
しかし、海氷が解けて白い部分が減ると、太陽光を反射できず、ほかの地域に比べて温暖化が加速しやすくなります。
しかも北極の海氷が解けると、北極周辺の海に太平洋の暖かい水が流入しやすくなります。海水温が上がることで周辺地域の気温も上がり、シベリアの永久凍土も解け、そこに閉じ込められていたメタンガスが放出されています。
メタンガスにはCO2の約25倍もの温室効果があるため、さらに北極の温暖化が進むという悪循環にはまってしまっているのです」
しかし、北極は日本からはるか遠い地域だ。いかに温暖化が深刻な状況とはいえ、なぜ日本の気候まで大きく変えてしまうのか。
「日本に異常気象をもたらす大きな要因は『偏西風』の蛇行です。偏西風は北の冷たい空気と南の暖かい空気の間で、西から東へと吹きます。シベリア大陸と熱帯地域に挟まれた日本は、その影響を受けやすく、もともと天候が変化しやすい地理条件にあります。
偏西風は川の流れと同じように、流れが速いと真っすぐ進み、流れが遅いとダラダラと蛇行します。大陸から吹いてくる偏西風は日本付近で北に曲がります。
温暖化で陸地の温度が上がり、それを避けるように北へ北へと向かうようになったのですが、その蛇行が2010年頃を境に激しくなりました。そのため、熱帯の暖かい空気が日本の上空に入り込みやすくなり、日本が狙い撃ちされたように猛烈に暑くなりました。
そして、偏西風の流れというのは、南北の温度差が大きければ速くなり、温度差が小さければ遅くなります。近年に偏西風の蛇行が激しくなったのは、北極と赤道の温度差が北極の温暖化によって縮まってきたからです。それだけ北極の温暖化は急激に進んでおり、その影響が偏西風を通して日本にまで及んでいるというわけです」
偏西風は、北極と赤道の温度差が大きければ強く吹くため、本来の蛇行は緩やか。しかし、現在は北極の温暖化により赤道との温度差が小さくなり、偏西風が弱くなって大きく蛇行するように。結果、ちょうど日本のあたりに暑い空気がとどまるようになった
さらに、日本が暑くなったことで、日本近海の海水温も上がっている。
「日本近海の海水温の上昇率は世界トップです。今や例年より5℃、海域によっては7℃も上がっています。海水温の高い場所では水蒸気を多く含んだ雨雲が発生しやすく、それが日本に大雨をもたらしています。
熱帯から暖かい海水を運んでくる黒潮も寒流に阻まれることなく北上しており、それもさらなる海水温の上昇を招いています。
今年の夏は観測史上で最も落雷が多発しました。多くの人が『やけに雷が多いな』と感じたはずです。暑いだけなら雷雨にはなりません。
雷が鳴る重要な要素は水蒸気を大量に含んだ雲です。それが海水温の上昇によって発生しやすくなりました。ゲリラ豪雨どころかゲリラ雷雨まで頻発するようになった理由は、ここにあります」
■冬はゲリラ豪雪!夏は基本40℃!
しかも、温暖化がもたらす気候の変化は、日本の夏の猛暑化や長期化だけにとどまらない。立花氏が続ける。
「偏西風は夏に北へ蛇行しますが、冬は南へと蛇行します。すると、今度は日本に北の寒い空気が入り込む。しかも、日本の北には極寒のシベリア大陸があります。
夏と同様に偏西風が大きく蛇行するようになり、その寒さが日本に直接来るようになりました。そのため、猛暑でも冬はしっかりと寒くなります。冬が寒いからと温暖化を否定する人がいますが、これも原因は温暖化にあります」
しかし、最近の日本では温暖化の影響によって降雪量が減少し、各地のスキー場が困っているなんて話もよく聞くのだが......。
「確かに日本全体の平均では降雪量は減少傾向にあります。しかし、北海道や東北地方のように、温暖化で気温が2、3℃上昇しても雪が解けないほど寒い地域では、むしろ『ドカ雪』のリスクが高まると予測されています。
その理由は夏に豪雨が増えているのと同様で、海水温の上昇に伴って大気中の水蒸気量が増加するからです。寒い地域では雨の代わりに雪が降ります。それも瞬間的にドカッと降る。要するに、ゲリラ豪雨ならぬゲリラ豪雪がやって来るわけです」
すると、何が起こるか。
「短時間で大量の雪が降ると除雪作業が間に合いません。交通機関がまひし、物流もストップします。家屋の倒壊やインフラの崩壊といったことも生じるでしょう。今年の夏に各地を襲った豪雨被害のようなことが、冬にも起こるようになります」
一方、夏の気温もまだまだ上がっていくという。
「温暖化の影響を巡っては気象学の専門家でもさまざまな見解がありますが、ある程度一致しているのは、『日本の夏は40℃が普通になる』という予測です。これは今だったらトップニュースですが、それがわざわざ騒がれないほど当たり前になります。大阪も名古屋も東京もそうなっていくのです」
今年7月29日に40℃を記録した埼玉県熊谷市。このままだと、2040年には日本各地で40℃が普通になってしまうかもしれない......われわれに残された時間は数年のみだという
夏は40℃が当たり前なんて、とても耐えられそうにない。いったい、それはいつ頃?
「以前なら数十年後なんていわれていたものです。しかし、今は温暖化の進行が専門家の予想よりも早まっています。このままCO2排出量が増え続ければ、私は2040年には40℃社会が到来してもおかしくはないと考えています」
■残された時間はあと数年のみ!
あと15年ほどしかない!
「甘めの予測でも、間違いなく現役世代が生きている間にはやって来るでしょう。今以上の猛暑と豪雨に悩まされる夏を耐え忍んだと思ったら、次は寒さと豪雪に悩まされる冬が来ます。気温が程よく過ごしやすい春と秋はわずかしかない。それが『二季になる』ということです。
今はまだ想像できないかもしれませんが、私は90年代に新聞の1面で『体温超えの暑さ』と夏の猛暑を報じていた時代を覚えています。35℃超えを〝異常気象〟と呼んでいたのです。これと同じように今は異常だと思っていた気候が、そう遠くない未来には普通になるのです」
もはや秋の風物詩がなくなるなんてレベルの話ではない。このままでは日本がまともに暮らせない国になってしまう。今からこの未来を避けることはできるのだろうか。
「今につながる気候変動のティッピングポイント(転換点)は過去2回ありました。最初は偏西風の蛇行が激しくなり、日本で夏の猛暑が連日報じられるようになった2010年頃。
2度目は日本近海の海水温が急激に上昇した昨年です。そして、現在は次が到来するかどうかという瀬戸際にいます。このポイントを越えたら、もう日本に四季は戻ってこないでしょう。
というのも、多くの研究で『産業革命前の世界の平均気温との温度差が1.5℃を超えると後戻りできない』と指摘されているからです。そのラインを越えると北極の海氷やシベリアの永久凍土が取り返しのつかないほどに解けてしまいます。そうなってからCO2を削減しても氷が再凍結するわけではないため、完全に手遅れとなります」
しかも立花氏によると、世界の平均気温は昨年の時点でプラス1.45℃とギリギリのところまで迫っているという。
今月11日、ラオスの首都ビエンチャンで開かれた日本と東南アジア諸国などによる脱炭素化に向けた連携「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の首脳会合に参加する石破茂首相(中央)。共同声明では、気候変動への対応などの原則が再確認された。果たして、日本は「地獄気候」の到来を防げるのか!?
「日本政府は2030年までに温室効果ガスの排出量を大幅に削減すると宣言していますが、それは深刻な危機が目前に迫っているからです。
もし実現できなければ、日本は二季の国になります。夏は外に出ることが危険なほどの暑さです。しかも、夏も冬も交通機関がしょっちゅうまひするようになり、経済活動も大きく停滞するでしょう。
このように地球温暖化は決して人ごとではありません。多くの人は『北極の氷が解けてシロクマが困っている』といったイメージを持っているかもしれませんが、日本人にとってもすごく身近な危機なのだということを自覚し、少しずつでいいから、ひとりひとりがCO2削減を意識して生活してほしいと思います」
今年の夏をはるかに超える異常気象を日本の〝ニューノーマル〟にしないために私たちに残された時間は、わずかしかない。
●立花義裕(たちばな・よしひろ)
1961年生まれ、北海道出身。三重大学大学院生物資源学研究科気象・気候ダイナミクス研究室教授。北海道大学大学院理学研究科・地球物理学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。専門分野は気候変動や異常気象など
取材・文/小山田裕哉イラスト/ぱいせん写真/時事通信社
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