さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはソワソワと向かう場所だ。
実家がラブホ街にあり、学生時代はラブホで清掃員のアルバイトをしていた前田裕子さん(仮名・20代)。今回は、地方のラブホならではの“ハプニング”への対応について教えてくれた。
人間だけではない“招かれざる客”
“招かれざる客”はどこの業界にもいるが、それは「人間」だけとは限らないと前田さん。とくに夏から秋にかけては、“招かれざる客”たちへの対応で、ラブホスタッフはバタバタするそうだ。
「その時期は“虫”が発生するんです。フロントへのコールが多くなり、通常顔を合わさないお客様と協力することもあります」
前田さんが暮らすラブホ街は、山地のIC(インターチェンジ)近くにある。夜になると高速道路の照明に加え、ラブホ街のネオンは誘導灯のように虫を集めるそうだ。虫が苦手な客が多く、夏になると虫に関する出来事やフロントコールが増えるという。
「蚊がいるのですが……」との問い合わせには、ワンプッシュで退治できるスプレーを届ける。他には……。
「露天風呂に虫が浮いている」
「ベランダに蝉が」
「部屋を通り越してベランダまで行かなくてはならないときはイヤでしたね。お客様がいると、どこに目を向ければよいのか分からなくなりますし。幸い、ずっと住んでいる街なので虫は苦手ではありません。私は、スタッフの中で自動的に虫係になっていました」
ただし、そんな前田さんでもこれまでに「虫が怖い」と思った出来事もあった。
手のひらサイズの蛾が鎮座
ある日、ラブホの入り口にある案内パネルの清掃を頼まれたという。
「いつもは日中にする業務なのですが、その日は夜でした。パネルはうっすらと曇って見えたんです」
前田さんは、「軽く拭くか」とパネルに近づくと、大量発生した小さな羽虫たちがびっしりと集まっていたそうだ。前田さんは思わず悲鳴をあげたという。
「曇って見えたのは1.5メートルくらいのパネル全体に張りつく羽虫だったんです。さすがに逃げ出したくなりましたが、ラブホの虫係としてほうきで払い落としてから拭きました」
また、客室からの連絡を受けたときには……。
「女性からの『すみません、虫がいて。捕まえてください』というコールでした。電話からは、男性の『デカっ、怖っ!』と戦っている様子も伝わってきて、オーナーと客室に駆けつけました」
客室には、大人の手のひらサイズの蛾が鎮座していたのだとか。そんな日に限って満室だったため、部屋の移動をお願いできる状況ではなかったそうだ。
「田舎なのでたまに大きな蛾に遭遇しますが、いざ捕まえるとなるとかなり怖かったです。カップルとオーナーと私で捕まえて逃がしたときには、妙な連帯感さえありました」
ときには歓迎される虫もいる
しかし、決してこんな虫トラブルだけではない。いつものようにフロントコールに出ると、「あの、部屋に虫がいて」。前田さんは「ああ、また捕まえに行かなきゃ」と思ったのだが……。
「網とかってあります?」
「どうやら、ベランダからカブトムシが入ってきて、お客様は捕まえたいとのことでした。たまに、カブトムシやクワガタもやってくるんですよね。基本、捕まえた虫は逃がしますが、なかにはお持ち帰りするお客様もいます」
「わぁ、大きい! ヒラタのオスですかね」
「いや、あの顎はノコギリじゃないですか?」
と網を持ち、客と天井を見上げて盛り上がってしまうこともあるようだ。
豪雨の日はビーチサンダルで出勤
台風が直撃すると臨時休業をする企業や店舗が増える。しかし、前田さんが働いていたラブホは通常営業だったという。
「そんな日に利用する人はいるの?と思われるかもしれませんが、通常時の6割くらいの利用があるんです。傘では間に合わない強さの豪雨のなか、ビーチサンダルを履き、パンツの裾を膝まで折り返して出勤していました」
着替えも持参するため、いつもよりも大荷物になるそうだ。車や交通機関を使って出勤する人は休みになり、ラブホ街に住む近所の人たちが徒歩で出勤することになる。
出勤した前田さんは、「いつもよりも暇」ということはなく、台風や豪雨の際に必要な仕事が待っているという。
全身びしょ濡れになりながら…
「道路よりも少し低くなったラブホの1階部分が駐車場なのですが、『泳げるんじゃない?』というくらい水が浸入してきます。その水を排水するのが主な仕事です」
出勤時の格好は排水作業のためでもあるそうだ。駐車場には屋根があるため、出勤時よりはマシな状況だと前田さん。しかし、対応するスタッフたちは“妙なテンション”で水の中にいるという。
「台風の影響はスタッフの情緒までおもしろくしますね(笑)」
“T.M.Revolution”や“B'z”のPVを真似た悪ノリが繰り広げられることもあるが、仕事はきちんと行っている。そして、最終的には全身がびしょ濡れになるそうだ。
「その状態で事務所に戻ると、オーナーの奥さんが待ち構えていることが多いです。『ほら、お風呂入っておいで!』とバスタオルを渡されます」
「お風呂?」と思われるかもしれないが、ここはラブホ。空いている部屋のお風呂を各々が拝借し、そのまま掃除をするという。
「今の雷すごい!」
「わー、終業時が一番の大雨……。さっきお風呂入ったのに帰ったらまたシャワーだな」
と話しながら、いつもはできない在庫管理を行う。
「台風時のラブホ業務も意外に楽しいんです」
<取材・文/資産もとお>
【関連記事】
・
ラブホ清掃員が衝撃を受けた“熟年カップル”の利用後。部屋に散らばる大量の輪ゴムに「何が起きたんだ?」
・
バーで出会った女性とラブホに行って大後悔。目を覚ますと“ワンピースだけ”が残されていて…
・
「PTA選考委員」ラブホ不倫の大きすぎた代償。子どもの運動会中にも中抜けして…
・
田舎のラブホは高齢の客が意外と多い。密会のアリバイ工作に“軽トラック”で来るカップルも…
・
元ラブホ清掃員が困惑した客「部屋一面にろうそくのロウが」「お風呂には大量の…」