世界で活躍するトップモデルかつ俳優の水原希子。現在公開中の映画『徒花-ADABANA-』では物語の鍵を握る臨床心理士のまほろを演じる。
水原と言えばSNSでの歯に衣着せぬ発言が話題となり、強い印象も受ける。ただ、ここ数年で心境が大きく変化したという。以前より楽になったという今の水原について聞いた。
撮影現場では井浦新の一言に号泣
――今回の作品への出演を決めた理由を教えてください。
甲斐さやか監督は他に見ない作品を撮られるので、単純に甲斐監督の世界観に入りたいと思っていました。主演の井浦新さんもいつか共演してみたい俳優さんの一人でしたし、そのお二方がいることで決めました。
――実際に井浦さん、甲斐監督とのお仕事はどうでしたか。
本当に最高でした。甲斐監督はすごく寄り添ってくれて、撮影の数日前から悩んだ苦しいシーンが終わった後には走って抱きしめてくれたり。なんて愛のある現場なんだろうって思いました。
新さんも難しい役柄でご自身も大変だったにも関わらず、私のこともしっかり気を配ってくださって。私がその苦しいシーンを撮影している時も、新さんは帰ったふりをして、実は裏でモニターを見てくれていたんです。そのシーンの撮影が終わった後に私のところにきて、「もうこのシーンが撮れたから、この映画は大丈夫だね」って言ってくださって、もう号泣しました(笑)。
コロナ禍で訪れた仕事に対する心境の変化
――水原さんを5年ほど前に一度取材していますが、その頃は強くあろうという思いからか鋭い印象でしたが、今はずいぶん柔らかい印象を受けます。
以前は強くないと自分を保てなかったのかも。でも、今は丸くなりました(笑)。
コロナ禍の中でいつ死んでもおかしくないなと感じて。だったら自分が好きだと思えることに時間を使っていきたいと考えるようになったんです。仕事も含めて、なるべく好きなことを選ぶようにシフトしてから楽しくなりました。
ひと昔前は若さもあったけれど、とにかく動いている私と、不安を抱えて怖くて何もせずにいたいもう一人の私がいて。その二人三脚がうまくいっていない感じでした。最近は大人になってきたっていうのもあるかもしれないけれど、自分の好きなことを選んでやるようになってから、自分の心と体と頭が全部一致している気がします。
今は自分を褒めてあげられるようになった
――今は水原さんにとっていい意味で力が抜けて楽なわけですね。逆に以前は違ったのでしょうか。
私はもともとモデルだけをやっていたのに、奇跡的に映画『ノルウェイの森』に抜擢されて。でも当時は演技なんて知らないから、監督のトラン・アン・ユンさんに毎日怒鳴られながらやってました(笑)。
「ノルウェイの森」に出演して以降、本当にいろんなオファーをいただけるようになったんですが、一緒に仕事をする役者さんは子どもの頃から演技をしていたり、学校に行って、晴れてその場にいる方たち。一方で私はノウハウも知らないし、勉強もしてきていない。オファーをいただくたびに周りの役者さんと比べて「私はまだ全然ダメ」と自分を責め続けてきたんです。
でも最近は「それでも私も何かちゃんとやってきてるから、ここまで来れている」と自分でちゃんと自分を褒めてあげられるようになりました。もちろんお芝居、表現を怖いと思う部分もあるんですけど、今回の映画ではそこに対して楽しさを見出していける現場だったので。怖くもあったけど、周りの方たちに支えられて、大丈夫という感覚になれました。
“重くない女性”でいようとしていた
――8月にイベントに登壇された際、恋人であるアメリカ人ピアニストの恋人ジョン・キャロル・カービーさんとの会話でも気持ちが楽になれたと話していましたね。
そうですね。すごく面白かったのが、デートを重ねるうちに彼が悩んでいる顔になって「希子はいい子だし、僕は本当にラッキーだけど、でもいい子だけではいてほしくない。もっと希子のありのままの姿を見たい。希子にだってエモーショナルな面もあるだろうし、僕に気遣ってそういう面を見せないようにしてくれるけれど、逆にそうすると僕も自分が出せなくなる。今まで悩んできたことや過去の恋愛、君の人生の物語を遠慮せず話してほしい」と言われて。
これまでの恋人には、例えば私が父親と母親の離婚で感じた葛藤だったり、過去の恋愛の話をしたら「ちょっと重すぎる」と言われてきたし、そんなことを言ったら嫌われるんだって思ってました。なので、知らない間に男の人といる時は“重くない女性”、いい子でいなきゃいけないというフォーマットができていたことに気づいて。それは衝撃的な体験でした。
その彼の発言からどんどん自分から悩みや過去の体験を話すようになると、話せば話すほどどんどん癒えていく。彼も重いと思わず、面白がってそういう話を聞いてくれるし、自分の体験を話してくれたり、寄り添ってくれて。女性としてでなく、一人の人間として見てくれている気がして救われました。
男性同士こそ「“女々しくて”いいから、吐き出して」
――そうした考え方は外国の方自体がそうなのか、彼氏が特別なのか。どちらでしょうか。
アメリカの方が日本より文化的にオープンマインドだとは思うんですけど、私の友達の彼氏もそう言うことに対してはオープンです。なのでどこの国出身と言うよりも本当に人だとは思います。
――水原さんみたいに人に抱えたものを言うことで楽になると言うのはありますよね。ただ日本人、特に日本の男性はそこが苦手な気もします。
日本の男の人って私は大変だと思うんです。「男たるもの」みたいな教育を、子供の時から気づかないレベルで受けてきているから、知らない間にそうなっちゃう。友達みんなとボートに乗ったことがあったんですけど、友達の子供がそこで転んだ時、そこにいた男性が男の子に対して「男だろう」って言ったんですよ。その時に「あっ、これを子供の頃からずっとされてると結構きついかも」と思って。「大丈夫?」とかじゃなく、男同士ってどこか突き放すような感じがあるじゃないですか。
そういう意味で孤独な男性ってすごく多いと思うんです。女性同士は感情で話せるけれど、男性が感情を話すことは許されてない感覚ってあるじゃないですか。女性って繊細だけどすごいタフな部分もあるし、強い。でも男性って私から見ると女性と同じですごい繊細だけど、感情的になることが許されていない。男性同士こそ、もう“女々しくて”いいから、感情を吐き出したり、自分の苦しみとか、悲しみを出してほしいなって思います。
【水原希子】
1990年、アメリカ生まれ。’03年に「ミスセブンティーン」に選ばれモデルデビュー。’10年には映画『ノルウェイの森』で俳優デビューも果たす。さらに現在は自然派コスメブランド「kiiks」のディレクターも務める。日仏合作映画『徒花-ADABANA-』は、延命のため特権階級だけがクローンを持てる世界が描かれ、水原は主人公の新次(井浦新)を担当する臨床心理士まほろ役を演じる
<撮影/鈴木大喜取材・文/徳重龍徳ヘアメイク/池田 奈穂©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ>
【徳重龍徳】
大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年に外資ウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを多数担当。その後、某テレビ局のウェブメディアの編集長を経て、現在はフリーライターとして雑誌、ウェブで記事を執筆するほか、グラビア評論家としても活動している。Xアカウント:@tatsunoritoku YouTube:www.youtube.com/@gravurebanashi
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