「美人やイケメンの基準が一定周期で変わる理由について、私なりの仮説があります」と語る中野信子
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えての3回目です。やはり、人は見た目で大きく判断されるようです。その理由を中野信子さんが、脳科学で分析します。そして、モテる顔が時代によって違うのも、ある理由からだそう。その理由とは?
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ひろゆき(以下、ひろ)
よく「美人とイケメンは得をする」といわれるじゃないですか。僕は、そのために美容整形するのは反対だったんです。でも、それが最近変わりつつあるんですよ。というのも、整形手術を受けた人のほうが圧倒的に社会で成功しやすいですよね。
中野信子(以下、中野)
興味深いアメリカの研究結果があります。刑務所から釈放される囚人をふたつのグループに分け、一方には整形手術を施し、もう一方には何もせずに釈放して、再犯率を追跡調査したんです。
ひろ
アメリカらしい大胆な実験ですね(笑)。
中野
で、整形手術を受けなかったグループは刑務所に戻る確率が高く、整形手術を受けたグループは再犯率が低いという結果になりました。
ひろ
やっぱり、外見が社会適応に大きな影響を与えるんですね。
中野
そうですね。社会には特定の外見の人は悪いことをするだろうという偏見が存在します。いわゆる悪人面や信頼できなそうな顔立ちだと、「この人は嘘をつくに違いない」といった先入観を持たれやすい。
ひろ
そして、そういった偏見が本人の行動にも影響を与えてしまうわけですか。
中野
はい。真面目に生きようとしても外見で判断されてしまう。すると「どうせ犯罪者扱いされるなら、本当に犯罪をしたほうが得かもしれない」という考えに至りやすくなる。整形手術によってそういった偏見を取り除くことができれば、本人にとっても社会にとってもメリットがあるといえるでしょう。
ひろ
理論的には正しいんですけどね(笑)。
中野
この考え方が一般的に受け入れられるかどうかは別の問題ですよね。むしろ、真面目に主張すると私たちは変人扱いされるでしょうね(笑)。
ひろ
でも、実際問題、人の外見が与える印象の影響力は侮れないですよね。就活とかにも影響するでしょうし。
中野
そうですね。しかも人事採用担当者に限らず、人を選ぶ側の人間は自分が顔で選んでいるとは思っていないんです。
ひろ
でも「この人は真面目そうだから採用した」「信頼できそうだった」みたいな理由づけはよく聞きますよね。
中野
これが人間の厄介なところなんです。
ひろ
人の外見に関する研究はたくさんあると思いますが、僕的には、その時代や文化で標準的とされる顔が美人やイケメンとされる傾向があると思うんですよ。
中野
確かに平均顔が魅力的だとされる根拠のひとつに「見慣れている顔」という要素があります。親近性の高さが魅力につながるという理論です。ただ、親近性が高い顔が必ずしも100%完璧で魅力的な顔とは限らないんです。
ひろ
そうなんですか?
中野
私たちには「飽き」という感覚があって、ずっと同じ顔を見ていると、新しさを求めるようになるんです。例えば、40年くらい前のイケメンの顔は、今とはかなり違いましたよね。もっと西洋的な顔立ちが好まれていました。
ひろ
例えば草刈正雄さんとか?
中野
はい。彫りの深い顔立ちの人がイケメンとされていました。
ひろ
でも、今、人気のイケメン俳優の基準は違いますよね。
中野
そうなんです。今は韓国アイドルのような顔が好まれています。この変遷こそが私たちの美の基準が常に進化し、適応していることを示しています。社会や文化の変化、そして私たちの視覚的な飽きが、新しい美の基準を生み出しているんです。
ひろ
へー、面白い。
中野
漫画家で江戸風俗研究家の故・杉浦日向子さんの分析によると、江戸時代の美人の基準は時代とともに大きく変化していったそうです。江戸時代初期には小顔でスラッとした美女が好まれていました。しかし、時代が進むにつれてその基準がどんどん変わり、江戸末期になると5、6頭身くらいの今の基準では必ずしもバランスがいいとはいえない体形の人が好まれるようになったんです。
ひろ
そんなに変わるんだ。
中野
面白いのは、この美の基準の変遷がたった40年、1世代か2世代くらいの間で起きているということです。そして、それまでいいとされていた基準から少し外れた人、いわゆる〝外れ値〟の人が「カッコいい」「いい顔だ」と評価されるようになる。これは単純に「平均顔がモテる」という理論だけでは説明しきれない現象だと思います。
ひろ
「美人は三日で飽きる」とかいわれますが、あながち間違いではないんですね(笑)。日本人はトリンドル玲奈さんとかローラさんとか外国系の顔立ちを好む傾向があるじゃないですか。この現象も新規性が影響してそうですね。
中野
そうですね。私たちには「新規性」を求める部分と「親近性」を求める部分があるんです。このふたつのパラメーターのバランスが、その時代の「最も魅力的な顔」を決定していると考えられます。
ひろ
ほうほう。
中野
例えば、ダレノガレ明美さんの顔は日本人の多くの人が美しいと認めると思います。一方で、ダレノガレさんよりもっと西洋寄りになると、キレイな人でも日本人的には好みが分かれますよね。それは日本人にとっての親近性の範囲から少し外れているので、一般的な人気につながりにくい可能性があるんです。
ひろ
だから外国人のタレントさんよりも、日系のタレントさんのほうが人気になりやすいんだ。
中野
あと、美人やイケメンの基準が一定周期で変わる理由について、私なりの仮説があります。それは、基準がずっと一定だと、それに適応しようとする人々によって、ハック(攻略)されてしまうためです。そのハックを避けるために、美の基準が自然と変化していくんじゃないかと考えています。
ひろ
男性の場合、多様な女性の好みがあるのは理解できるんですよ。遺伝子を広く拡散したいという本能があるからです。でも女性の場合は、基準を変化させる利点はないように思えるんですけど。
中野
そうとも限りません。確かに子育ての観点からすると、基準が固定しているほうが有利かもしれません。でも、遺伝的多様性を考えると女性もさまざまなタイプの男性と子供をもうけたほうが有利なんです。
ひろ
そこに子育てはあまり考慮されないんですか?
中野
子育ては環境要因が大きいんです。もし、女性がひとりで子育てできるような社会インフラが整っていれば、実は乱婚のほうが生物学的には有利です。
ひろ
つまり、私たちがイケメンや美女に飽きるのもそういった理由からなんですね。
中野
みんなが同じタイプを好きになると、多様性がないと感じて新しい特徴を持つタイプを好きになるんです。車でたとえると、みんなが「ポルシェが好き」と言い始めると、「私はロールス・ロイスがいい」と言うような感じですかね。
ひろ
モテや採用、その人が犯罪しそうかまで、人は外見に左右されすぎるんだ。面白いですね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など
構成/加藤純平(ミドルマン)撮影/村上庄吾
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