【今週はこれを読め! SF編】異星遺物の脅威と冷酷企業の支配に抗して〜マーサ・ウェルズ『システム・クラッシュ』

『システム・クラッシュ: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)』マーサ・ウェルズ,中原 尚哉東京創元社

【今週はこれを読め! SF編】異星遺物の脅威と冷酷企業の支配に抗して〜マーサ・ウェルズ『システム・クラッシュ』

10月22日(火) 11:15

大量殺人とその記憶削除という過去を抱えた、人型警備ユニット"弊機"(人間の部分と機械の部分がまじっている)を主人公とする人気シリーズの最新長篇。物語としては、二番目に邦訳された長篇『ネットワーク・エフェクト』の直接の続篇にあたる。

舞台となるのは、異星由来の遺物から発生した汚染(感染した者は意識を支配されゾンビのようになる)を被った植民惑星。この惑星をビジネスとして開発するBE社は、取り引きが禁じられている異星遺物の採掘を進めようと目論んでいる。住民(生存者は四百二十一人)はそんな事情を知らされぬまま、救援を待っていた。弊機を含む調査隊の面々は、『ネットワーク・エフェクト』からの行きがかりもあって、住民の自由を後押ししようとする。いっぽうで遺物汚染の脅威に立ちむかいつつ、またいっぽうでBE社をうまく出しぬかなければならない。かなり難しい状況だ。

植民惑星の住民たちからすれば、BE社への不信はあるものの、突如あらわれた弊機たちも同じくらい(あるいはそれ以上に)信用していいかわからない相手だ。そこで、弊機は一計を案じる。

アクションの場面もたっぷりとあるが、この作品の読みどころはなんといっても弊機がめぐらす機略と、弊機が淡々とした口調でもらす皮肉やぼやきの楽しさである。弊機の趣味は連続ドラマの視聴であり、ことあるごとにお気に入りのドラマを引きあいにして、あれこれと論評を加える。

そういうメンドクサイ性格と、過去を失っている翳り。このキャラクターが読者に大いに受けて、このシリーズは人気を博し、これまでヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を何度も受賞。また、Apple TV+でのドラマ化も決定している。弊機を演じるのはアレクサンダー・スカルスガルド。

(牧眞司)



『システム・クラッシュ: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)』
著者:マーサ・ウェルズ,中原 尚哉
出版社:東京創元社
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