今や日本の空き家は900万軒を超え、その処分に悩む子・孫世代の人たちが増加している。『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)の著者で小説家の高殿円(たかどのまどか)さんも、その一人だ。
高殿さんは、十数年も放置されていた築75年の祖父の家をほぼ独力で片付け、売却までするという困難なミッションに着手。前回のインタビュー記事では、まさかの「ジモティー」大活用で、ゴミ屋敷のモノを大放出するという作戦に着手したところまで記した。
今回は、その続き。誰も欲しがらないようなモノは、どうやって手放せたのか。そして、どうやって再建築不可物件を売却できたのかをうかがった。
想像もできない海外での仏壇の再利用法
――「ジモティー」を見て、昭和の食器や衣類を引き取る人がいたとは意外です。耐用年数はとうに過ぎた家電製品や仏壇さえも、欲しがった人はいたのですか?
高殿円(以下、高殿):
仏壇は、さすがに「誰も欲しがらないだろう」と思っていたのですが、海外で需要があるそうなのです。実家まで引き取りに来た人に聞くと、仏壇のしゃらんしゃらんな金具をパーツごとに分解して、海外ではアクセサリーやインテリアになるとか。しかも仏壇本体は、ドールハウスになるのですね。
日本人がヨーロッパの蚤の市に行ったときに、どこの誰だかわからないような白黒写真とかポストカードを買いたがるのと、似たものかなと思いました。国が違うと価値観がまるで異なるということを実感しましたね。
ちなみに、仏壇の処分で大事なのが、お寺さんに頼んで招魂抜きをしているかどうか。これが10万円とかかかるのです。うちの場合は、確認してみたところ、「弔い上げも終わっているし、そのまま処分してかまわない」とのことでした。
家電や給湯器は、大量の食器をもらってくれた方に、有償で処分をお願いしました。この方は、どうやら“残置物せどらー”らしく、とにかくいろんなものを持ち帰って、何か売れるものはないか探すのが仕事。処分費は8万円で話がつきました。
「空き家バンク」に登録するにもお金がかかる
――当初は業者に頼んで、安くても40万円はかかるところが、8万円で済んだのは良かったですね。でも、家自体をどうやって、誰に売るかという最大の難問にどう立ち向かったのでしょうか?
高殿:
全国の市区町村が運営している「空き家バンク」という、空き家のマッチングサイトがあります。ここに登録して買い手を見つけようと思いました。でも、市の担当者から、まずは家のインフラを復活させないと登録できませんと言われました。
つまり、トイレも風呂も使える状態ではなくて、自費でリフォームしなくてはいけません。それには軽く100万円はいくはずです。市から補助金が出ることもあります。ただ、それは後払いですし、出るかどうかも確実ではありません。
最終的には、リフォーム代を立て替える覚悟でしたが、その前にやれることは、やってみようと思いました。「戸建て投資」というのが今流行っています。空き家を買って、DIYで住める状態にして、賃料を得るという不動産投資です。
そうした投資をやっている人に注目。その人たちは、どんなツールを使って家を探しているのかを調べてみたのです。それが、あの「ジモティー」だったのです。「ジモティー」をあらためて見てみると、「空き家を買います」という業者さんの投稿がいくつかありました。戸建て投資をしている人は、こうやって格安の物件を得ていたのです。
「ジモティー」で家が売れる?
――なるほどー。「ジモティー」で不動産の売買もできたなんてびっくりです。
高殿:
本格的に売るには、宅建の資格を持っているなど要件があるようですが、基本的に個人での売買も可能なのです。そこで、「祖父の家を50万円で売りたいと思っています。ご興味がある方は連絡ください」という、ダメ元の軽いノリで投稿しました。
でも、投稿した日の夜には続々と通知がやってきて、驚きました。しかも、面白かったのが、購入したいという理由がさまざまだったことです。子供ができて実家のそばで暮らしたいという夫婦や、倉庫を兼ねたセカンドハウスにしたいという人など。
いちばん印象的だったのは、大学の建築学科の学生さん。自分たちの手で修繕し、NPOを立ち上げて、学生寮として活用したいとのことでした。学生でも買える価格で売り出したのは、正解だったと思いました。
打診してきた人たちに、見学日のスケジュールなどやりとりしていたある日、本当にびっくりすることが起きました。
クレカで実家を購入する人が登場して…
――それは、実家の隠れた問題が明るみになったとかですか?
高殿:
その逆で、ジモティーのクレカ決済機能で、いきなり50万円を支払って購入した人がいたのです。ジモティーの仕組みをわかっていない高齢者が、間違ってポチったのかと、慌ててキャンセル扱いにしました。
そしたら、その方から連絡があって、「あなたの家を買いたい」と。いったいどんな人かと、興味もあってやりとりを重ねたら、結構なお金持ちだったのですね。
聞いてみると、バブルの時代、できて間もない神戸ポートアイランドで酒屋の商売を始めたそうで、しがらみもない土地で儲かったと。バブルが崩壊して、商売もうまくいかなくなったとき、縁あって商店街で酒屋を再開。今は、何軒ものセカンドハウスとクルーザーを所有して、セミリタイア生活をしているそうです。
それほどのお金持ちが、なんでボロ屋を欲しがるのかと不思議に思いました。現地で待ち合わせて、内見してもらったのですが、家の価値を見る力のある人で、再建築不可物件でも扱いに慣れているのです。瀬戸内の田舎に住みたかったそうで、気に入ってもらえ、本当に購入するはこびとなりました。
面白い人だなと思って、その後もLINEでやりとりしています。リノベーションが終わったら、見に来てと誘われているので、行くつもりです。人の縁って不思議なものだと思いましたね。
<取材・文/鈴木拓也>
【高殿円】
兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。13年に『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。主な著作に『トッカン』シリーズ、『上流階級富久丸百貨店外商部』シリーズなど。漫画原作も多数手がけている。小説以外の最新の著作は『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)。また、自費出版として『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』がある。
X:@takadonomadoka
note:https://note.com/takadonomadoka
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki
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