カトリーヌ・ドヌーヴ主演『ベルナデット 最強のファーストレディ』──フランス国民のハートを鷲づかみにした大統領夫人の戦略【おとなの映画ガイド】

『ベルナデット 最強のファーストレディ』

カトリーヌ・ドヌーヴ主演『ベルナデット 最強のファーストレディ』──フランス国民のハートを鷲づかみにした大統領夫人の戦略【おとなの映画ガイド】

10月21日(月) 12:00

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フランスの元大統領夫人ベルナデット・シラクをカトリーヌ・ドヌーヴが演じた映画『ベルナデット 最強のファーストレディ』が11月8日(金)から全国公開される。シラク大統領の陰にいたベルナデットが、次第に自己改造し、”最強のファーストレディ”といわれるまでになる、ある種のサクセス・ストーリー。大女優ドヌーヴのコメディエンヌぶりと、かもしだすオーラが圧巻の、ウィットにとんだフランス映画だ。

『ベルナデット 最強のファーストレディ』

ヨーロッパ各国の今の大統領や首相の名前は?と聞かれても、わからない人の方が多いのではと思うけれど、1995年から2007年までの12年間にわたりフランス大統領を務めたジャック・シラク氏のことは、案外知っているのではないだろうか。 親日家だったので、日本で報道される機会も多かった。

本作は、そのシラク元大統領の夫人、ベルナデットが主人公。就任当初、「時代遅れ」「メディアに向いていない」と言われたファーストレディが、人気者となり、「最強」と謳われるようになるまでの大逆転劇だ。

冒頭で「この作品は事実を自由に脚色した物語」だとしつこいくらいに語ってくるのが、かえって可笑しさを誘う。なにしろ、出てくる人名はほとんどが実名、史実もそのまま描かれているのだから。

大統領府エリゼ宮の暮らしぶりや、夫のとんでもない姿がベルナデットの目線で映し出される。本音でしゃべる彼女にかかれば、サルコジ(シラクの後継者)なんて、調子のいい裏切り者よばわりだし、シラクの女性スキャンダルも結構あけすけに描かれる。

しかもベルナデットを演じるのが、フランスを代表するカトリーヌ・ドヌーヴとくれば、向かうところ敵なしのキャスティング。

ドヌーヴは明日(10月22日)が誕生日で、ことし81歳になる。まちがいなく超がつく“美魔女”だ。『シェルブールの雨傘』の清純な役でスターダムを駆け上がり、その後は、妖艶ともいえる美しさと演技で、数々の名作に出演し観客を魅了してきた。まさにフランス映画の顔、という存在。プライベートでは、ファッショナブルなタトゥーをしていたり、マルチェロ・マストロヤンニをはじめ、さまざまな相手とのラブ・アフェアでも知られている。

日本の吉永小百合さんもそうだけれど、時代や文化に順応しながら常に主役を張り続ける大女優だ。

最近は、セドリック・カーン監督の『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』や是枝裕和監督の『真実』など家族の物語に、落ち着いた母親役で出演することの多かったドヌーヴだが、本作のオファーを受け、「(最初は)え? ベルナデット・シラク……? でした。伝記映画には興味もありませんでしたし。けれど、監督のレア・ドムナックとクレマンス・ダルジャンのシナリオがとてもよく書けていて、すごく笑えた。事実をそのまま映画にするのでも、ベルナデットに似せようとするのでもなく、ただ役の心を演じればいいのだということを理解した」のだという。

夫のシラク(ミシェル・ヴュイエルモーズ)を大統領にするため、県会議員をしながら常に陰で働いてきたベルナデット。就任したあとも、内助の功を大切にして、大統領夫人としての仕事を与えられない日々が続こうが、亭主関白のシラクから「おれと結婚してよかっただろう」と上から目線で言い放たれようが、広報を担当する娘(サラ・ジロドー)から軽視されようが、じっと耐えていた。

それが、あることをきっかけに彼女はキレる。つまり「なめんなよ!」と爆発したのだ。そこからは、最強のファーストレディになるべく、出世できないおひとよしの参謀“ミッケー”ことベルナール・ニケ(ドゥニ・ポダリデス)を味方につけ、着々と手を打ち始める。

王道のリベンジ物語だが、冴えないおばさんが、マスコミを手玉にとりながら、みるみるカッコいい人気者になっていく痛快さは、やはりワクワクものだ。

華麗な変身を遂げるのに、欠かせないのは見た目の変化。ダサイとなじられているベルナデットの服が自分の過去にデザインしたものだと知ったモード界の帝王カール・ラガーフェルドが、最新の作品を携えてエリゼ宮に乗り込んでくるシーンがある。正直、ドヌーヴなので、野暮ったい服を着ている時もオーラを隠せていない感じはあるが、新デザインの服に着替えてカーテンを開けた時の姿はやはり、さすが!

堂々たる貫禄。毒舌で多少愛嬌もあるこの役をドヌーヴ自身が楽しんで演じている。そんな雰囲気が、心地良いテンポやしゃれた会話とともに伝わってきて、上映時間は1時間30分ほど。コメディはこのくらいの長さが最高です。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

植草信和さん(フリー編集者・元キネマ旬報編集長)
「……堂々たる体躯と抜群のコメディセンスで「ファーストレディ」の存在感を体現している。年齢に応じた役どころをこなしていく、女優人生の見事な転変。さすが大女優……」

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