“空き家のまま十数年放置”した実家が「ゴミ屋敷」状態に。人気小説家が直面した“実家じまい”の現実

ゴミ屋敷となった高殿さんの実家

“空き家のまま十数年放置”した実家が「ゴミ屋敷」状態に。人気小説家が直面した“実家じまい”の現実

10月21日(月) 15:54

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高齢化社会を反映して、実家の片付けと空き家化が社会問題となって久しい。人口で大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が後期高齢者となり、この問題はさらに深刻になると予想されている。

小説家の高殿円(たかどのまどか)さん も、これに直面した一人。ただでさえ、仕事・子育てに多忙を極めるなか、ごみ屋敷&空き家となった実家の処置に孤軍奮闘。その顛末を著書『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)にまとめ、話題となっている。そんな高殿さんに、“実家じまい”の現実と対策のコツをうかがった。

十数年も放置された昭和の家

――実家といってもお父さんの実家、つまりお祖父さんの家が問題となったのですね。

高殿円(以下、高殿): そうなのです。団塊ジュニアの私たちは、祖父・祖母の家が空き家になって困っているという人が多いのです。まだ子供は巣立っておらず、親の介護もあるのに、親のそのまた親の実家のことで、てんてこまいなのは辛すぎます。

自分は兵庫生まれの兵庫育ちで、その実家も兵庫県内にあります。といっても、神戸のような都会でなく、最寄り駅から徒歩30分の何もないエリアです。もともと祖父の家でしたが、かなり前に亡くなり、息子の一人が継ぎました。私の父の兄、つまり伯父にあたる人です。

その伯父もガンで急逝し、以来十数年も家を放置していました。築年数は75年を超えます。

このままでは致命的な近所迷惑に…

――今になって、そのまま放置しておけなくなった理由はなんですか?

高殿: 雨漏りがあるなど劣化が進んでいるし、屋根の瓦も台風で隣の家に吹っ飛んでいくおそれがありました。いたずらで放火されたら、もう大変です。存在自体が、近所迷惑になりつつあるなか、京都市が空き家に税金をかけると知りました。その流れは、ほかの自治体にも波及するだろうと。

いずれにしても時が来れば、私がその家を相続することになります。というわけで、対策しなきゃと考えたのです。

土壇場で400万円の買い取りの話が無効に

――それで手始めに、ご当地の不動産仲介業者に依頼したのですね。著書では、首尾よく買い手が現れ、しかも400万円の値がついてと、上々の滑り出しに見えますが、落とし穴があったと……。

高殿: 駅から歩いて30分といっても、バスは通っているし、ショッピングモールもできて、若い家族も結構住んでいるエリアです。空き家でも、売れないことはないと考えていました。

買い手の方は、更地にして新たに家を建てるつもりだったそうです。売買契約書を作って、引き渡し日まで決まってから、不動屋さんから連絡がきました。不動屋さんは、「接道義務を満たしていない再建築不可物件」と判明したから、売買できないと言ってきたのです。

法律で、公道に接していない家は、再建築つまり建て替えがダメなのです。これを接道義務といいます。実家の目の前にはちゃんと道路が通っているのですが、事情があってその部分だけが私有地だと、土壇場でわかりました。公道には1ミリも接していないのです。

それで、購入の話は流れてしまいました……。

片付け業者が80万円を提示するほどモノだらけ

――法律の規定で建て替えは無理。実家は、そのままにするしかないのは厳しいですね。打開策はどう考えましたか?

高殿: 伯父は、倒れて病院にかつぎこまれ、一度も家に帰れないまま亡くなりました。なので、家の中は住んでいたときのまま。以来、親族の手も触れることなく、15年間以上が過ぎていました。

ちょうど世の中はコロナ禍で、旅行とかしにくいうちに、片付けだけでもやっておこうと決めました。足を踏み入れると、家の中は物品がものすごくありました。車に載せて、ゴミ処理場に搬入できるレベルではないです。

古びたブラウン管テレビが3台、冷蔵庫、エアコン、給湯器など、リサイクル料のかかる家電が、めっちゃ多かったのです。調理器具なんかも、ホットプレートが何個あるねんみたいな状況。そこで、何社かの片付け業者に見積もりをお願いしたら、高い業者で80万円、安いところでも40万円もかかるそうで……。

「ジモティー」で案内したら問い合わせが殺到

――それで、一番安い業者にお願いしたのですか?

高殿: 売却も不可能に近い家に、それだけのお金はかけたくないというのが本音でした。そのとき、ネット上で告知して引き取ってもらうという手段をひらめきました。

最初は「Yahoo! オークション」での出品を考えました。でも、発送する手間暇もないので、売ります・あげますの掲示板サイト「ジモティー」を活用することにしました。家まで来て、家具からなにから、全部無料で持っていってください、と。

正直欲しがる人がいるかと思いながらの、ダメ元の投稿でした。ところが、最初の日だけで何十件もの問い合わせがあって、驚きました。

コンテナに満載して海外に売れる意外なモノ

――提供する側にはゴミ同然であっても、宝の山とみる人も結構いたということですね。どういった人たちが引き取りに来られたのですか?

高殿: 連絡のあと一番先に来たのは、商店街の古着屋さんでした。伯父は、バブル時代にクラブを経営していた人なので、所有する服が割と高級品だったのです。それで、30年経ってもふつうに着られるということで、喜んで車に積んで持ち帰っていきました。

そのあとは、若い夫婦がダイニングの家具一式。古さはありますが、DIYの技で新品同様に変えられるとか。

それから、たくさんある食器類ですね。昭和レトロなものが、実はブームになってきているそうで、ニーズは割とありました。また、こうした食器は、コンテナに満載して、インドネシアとかに出荷するとお金になるそうです。ほかにも、どう見ても使い道のなさそうなモノを、喜んでもらう人も。

「ジモティー」の威力とともに、世の中にはいろいろなニーズがあるのだなと、つくづく実感しました。

<取材・文/鈴木拓也>

【高殿円】
兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。13年に『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。主な著作に『トッカン』シリーズ、『上流階級富久丸百貨店外商部』シリーズなど。漫画原作も多数手がけている。小説以外の最新の著作は『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)。また、自費出版として『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』がある。
X:@takadonomadoka
note:https://note.com/takadonomadoka

【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki

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