9月から始まった「FIFAワールドカップ26アジア最終予選」は10月にも試合が行われ、日本代表は10日(日本時間11日)にサウジアラビア代表と、15日にオーストラリア代表と対戦。敵地で行われたサウジアラビア戦は2-0で勝利、続くホームの埼玉スタジアム2002で開催されたオーストラリア戦は1-1で引き分けという結果に終わった。9月の中国戦、バーレーン戦のように大量得点による快勝とまでには至らなかったが、同グループの強豪を相手にしっかりと勝ち点をもぎ取り、ワールドカップ出場に近づいた。
予選を突破するのは当然。目標はその先に
今回で4試合を終えて残り6試合。日本は勝ち点10でグループCの首位に立っている。次の試合は11月で、15日にインドネシア戦、19日に中国戦とアウェイでの連戦が控えている。続いての試合は年明け3月になり、20日にバーレーン戦、25日にサウジアラビア戦とホームでの連戦になる。グループの上位2チームがワールドカップ出場権を獲得し、3位と4位はプレーオフに進出することになるのだが、日本は最速で3月にはワールドカップの出場権を得る可能性がある。
3月に決められるかは断定できないものの、よほどのことがないかぎり予選突破はできるだろう。ただ、現在の日本はアジアの地区予選突破が目標ではない。ワールドカップ優勝が目標と公言しており、出場権の獲得はあくまでも過程なのである。
予想と異なる展開になったサウジアラビアとの一戦
大きな目標を掲げる日本代表だからこそ、さらなる高みを目指して改善に臨んでもらいたい点がある。今回の2試合を振り返ると、「慎重にやらせていただいたところはあります」と森保一監督がコメントしたように、日本も対戦相手もリスクを避けた戦術で向かいあった印象だ。
サウジアラビア戦では相手が3バックのシステムで臨んでくることも予想されたが、蓋を開けると4-3-3といった配置だった。混乱する様子もなかったことから、日本は想定してトレーニングしてきたのだろう。そして前半14分には、相手4バックの弱点を突くかたちで右から左へ大きく展開し、最終的には鎌田大地が押し込み先制点を挙げた。その後は後半36分までスコアは膠着した。
戦前には激しいサイドの攻防が見られる展開が予想されたのだが、どちらのチームも守備に重きを置いたため試合展開自体も膠着したような状態になった。日本の攻撃を恐れたサウジアラビアは攻撃に多くの人数を割かなかった。特に、サイドバックが高い位置を取ることはほとんどなく、攻撃は前線の選手による突破という単発で厚みのないものだった。
相手の戦術を見抜くことができていれば…
相手の比重が後ろにある状況が続くなか、相手のサイド攻撃を恐れた日本の比重も昨今の試合に比べると後ろになっていた。相手の攻撃のほとんどが前線の3人だけで行われるなかで、日本は堂安律と三笘薫を下げて最終ラインに5人を並べて守った。相手の中盤選手が参加して5人での攻撃となった場合でも、日本は5人並んだ最終ラインに遠藤航、守田英正を加えた7人の守備体制を組んだ。この結果、攻撃的な3バックと呼ばれるシステムの特長が半減するとともに、守備時には前線の人数が少なくなりプレッシャーが軽減するという展開を招いた。
堂安と三笘にはサイドのスペースを埋めるタスクが課せられていたのだろうが、そのスペースへ入り込んでくるのが相手の3トップのみでサイドバックが入り込むような狙いは見られなかった。仮に相手の戦術を見抜いて両サイドを高い位置に上げられていば、日本はもっと多くのチャンスをつくり出せたことだろう。
交代後に得点は生まれたものの…状況は悪化?
オーストラリア戦は最終ラインの裏に蹴り込まれたロングボールの処理で3バックのポジショニングが崩れたところ、ボールを奪い返されて修正しきる前の空いたスペースからクロスボールを入れられて失点してしまった。3バックにおけるカバーリング後のポジショニングにミスはあったものの、クロスを入れられた瞬間にはゴール前にしっかりと人数もそろっており、再現性のある失点ではなく単なる不運なオウンゴールといえるものだった。
とはいえ、負けるわけにはいかない日本は伊東純也を投入し、続けて鎌田大地と中村敬斗をピッチに送り込んだ。サイドにフレッシュな選手が入ったことでギアを上げた日本は、中村のドリブル突破で同点ゴールを呼び込んだ。
この得点をピックアップして采配的中と主張する人もいるだろうが、交代策は決して褒められるものではなかった。たしかに中村は左サイドを活性化した。得点となった局面だけを見れば、中村が突破するスペースを生かそうした三笘のポジショニングや相手をブロックした動きは秀逸で、素晴らしいコンビネーションによる突破だったことは間違いない。しかし、中央寄りのシャドーの位置を任された三笘は、明らかに不慣れなプレーでミスが多くなった。
また、中村と同時に起用された鎌田は持ち味を出してチャンスメイクする場面が何度かあったが、ボールを前線へ運ぶ際のビルドアップでは後方へ引いてきて受けようしていた。そのため、後方からのパスコースが少なくなり前線との関係が寸断。日本はボールを前方へ運べなくなる状態に陥っていた。
はっきりいうと、交代で得点は生まれたがそれだけであって、状況を打開するどころか悪化させた交代策だったと評価せざるを得ない。
メンバーを固定し、同タイプの選手を招集するのは…
オーストラリア戦後に森保監督は、4バックのシステム採用について「選択肢としては持っていました」と回答した。だが、招集メンバーで唯一左サイドバック経験者の長友佑都をベンチ外にしているため、その回答には疑問符をつく。
サウジアラビア戦もオーストラリア戦も、相手の戦術を考慮すれば4バックのほうがうまく試合を展開できたことだろう。今回は負傷者が続出して思うようなメンバー構成ではなかったことは采配面を評価するうえで考慮しなければならないが、先述のように長友をベンチ外としたことで戦術の幅を自ら狭めたことは否めない。
また、メンバー招集時点でも疑問符はつく。森保監督は「人が変われば戦術も変わる」と公言してきた。それは、それぞれの個が持つ異なる特長を生かしたサッカーを目指しているということで、特長に違いのある選手を招集することで戦術の幅を広げるということでもあると理解できる。実際に、今の日本代表候補となる選手は特長も多種多様でそれぞれのレベルも高いので、それは高水準で実現可能だと考えられる。
しかし、最終予選に入ってからはある程度メンバーを固定しているため、同タイプの選手を招集している傾向にある。たとえば、上田綺世と小川航基はさまざまなことをマルチにこなせる同タイプのFWだ。オーストラリア戦の後半は運動量も落ち、最終ラインの裏へ抜け出す動きが少なくなっていた。そういった状況では、小川より古橋亨梧の特長のほうが生きたことだろう。
今の日本代表は「個の能力が高いだけ」
先日公開した記事では「慎重にやらせていただいたところはあります」という森保監督の発言をピックアップしたが、それは最終予選全体を対象としており、起用選手をある程度固定して戦術面の確認事項を少なくするという狙いを持っている。
何よりも勝利が最優先となる最終予選において、チャレンジより着実性に重きを置くことは理解できる。しかし、戦術は相手が変われば変わるものであるため、自ら狭めるという考え方には賛同しかねる。日本はすでにさまざまな戦術下でも力を発揮できるだけの対応力を身につけており、多角的な戦術を展開できることがチームの強味のひとつとなっている。そのさまざまな戦術を相手に応じて展開すればいい話であって、戦前から戦術をひとつに絞るようなことをしていては自らの首を絞めているようなものだ。
最終予選はここまでで4試合を終えたが、戦術で勝利したといえる試合は1試合もない。適した戦術展開は見られず、単純に個の能力差だけで勝ち点を積み重ねているといった状況だ。おそらく今後も戦術が適さなくても勝つことができ、最終予選を突破することだろう。それほどまでに今の日本代表は個の能力が高い。しかし、それだけなのだ。
同等あるいは上位と対戦して勝利を収めるためには、適した戦術が絶対に必要になる。そのときのために爪を隠しているだけとポジティブにとらえたいが、最終予選でも少しはその片鱗を見せてもらいたいところだ。
<TEXT/川原宏樹撮影/松岡健三郎>
【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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