10月18日(金) 7:00
障がいのある人とない人が共に暮らしている「コレクティブハウス大泉学園」。シェアハウスとはひと味違う、居住者たちがフラットに話し合いながら、住まいの運営や、暮らしのルールなどを決めていく、コレクティブハウスの仕組みとは?コレクティブハウスの運営をサポートするNPO法人、コレクティブハウジング社・理事の宮前眞理子(みやまえ・まりこ)さんと、入居者であるKさん(54歳)、Nさん(57歳)に話を聞きました。
住人同士が緩やかにつながる「コレクテイブハウス」とはコレクティブハウスとは、北欧を中心に始まった住人たちが「共に創り、共に暮らし、共に生きていく集合住宅」をコンセプトに、住む人たちがフラットな話し合いを重ねて共同生活を自主運営する住まいです。この、隣人と協働しながら助け合う暮らしのアイデアは、1990年ごろに日本にも入ってきました。
コレクティブハウスの仕掛け人の一人であり、建築士でもあるコレクティブハウジング社(以下、CHC)の宮前さんが最も大切にしているのは「多様性」。暮らす人は、若者でも高齢者でもOK。国籍や考え方もいろいろあっていいという考え方です。
シェアハウスとの違いの一つは、個人が暮らすスペースが部屋ではなく独立した住戸であること。誰しも、具合が悪いときや人とは顔を合わせたくないときもあるはず。家が一人で過ごせる快適な場所であることが大事です。そして住人誰もが行き来できるコモンスペースがあること。ただ共用部分があるだけではなく、住人たちが自然とコモンスペースに集う仕組みがあるのが特徴です。定期的に一緒に食事をつくって食べたり(コモンミール)、ハウスの暮らしを維持していくための役割を分担したり、運営方針を決めていく話し合い(月一会、つきいちかい、月に1回の定例会)をしたりすることで、住人の間に緩やかなつながりができます。
コレクティブハウス大泉学園は、建設会社(ライト工業)の元独身寮を不動産会社(平和不動産)が借り上げてリノベーションし、 CHCが支援するコレクティブハウスとして活用しています。さらに、オープンの5年後から、全13室のうち5室を地元で障がい者支援をしている社会福祉法人「つくりっこの家」が借りあげ、「グループホームみなとや」として精神疾患のある住人の生活サポートをし、入居を支援している点が特徴です。
多様な人たちがともに自主運営して暮らすコレクティブハウスは、20世紀中頃にスウェーデンで生まれ、1970年代にスウェーデン・デンマークで普及。今では北米を中心に世界中に広まっている暮らし方ですが、障がいのある人とない人が共に暮らすのは、日本ではまだ難しいのが現状です。自立して暮らしたい障がい者を受け入れる賃貸物件がなかなか見つからない中で、つくりっこの家がコレクティブハウジング社に相談したのを機に2010年にコレクティブハウス大泉学園が誕生しました。みなとやが借り上げている5室以外の住戸には障がいのない人や障がいがあっても自立している人が入居し、障がいのあるなしに関わらず、個々を尊重し合い、対等な立場で暮らしています。
「コレクティブハウスに住んでいる人たちは、一人ひとりは自由で、お互いに顔を知っている関係。友達でも、同僚でも、家族でもなく、一緒に暮らす仲間です」と話すCHCの宮前さん。その理念を浸透させるためのワークショップ開催やパートナーとなる事業者探しなど、コレクティブハウスの開設・運営のための活動は多岐に渡ります。
運営の主体はCHCではなく、あくまで住人たちの居住者組合。さらに建物の所有者から建物をサブリースし、リノベーションして居住者に転貸している事業主(平和不動産)が加わった3者によるパートナーシップで事業は成り立っているのです。
リノベーションにおいてはCHCが話し合いのコーディネートをしながら、「生活保護を受給する人でも入居できるように家賃が4万円代の部屋も欲しい」(つくりっこの家)、「トイレは共用ではなくて各部屋に」(居住希望者)、「家賃から逆算すると建物全体のリノベーションにかけられる予算は3500万円まで」(平和不動産)と、いうように、それぞれの意見を出し合って形にしてきました。
「コレクティブハウスでは、どのように運営していくかを決めるため、住人たち自身で居住者組合を組織しています。大切なのは、多数決にしないことです。多様な人たちが集まっているのだから考え方や意見が違って当たり前。一部の人だけがたくさん話して意見が偏らないよう、話していない人にも意見を言うように促し、全員が納得するまでとことん時間をかけて話し合っていきます。
効率的とは言えませんが、そうすることによって入居者同士、お互いの考え方を理解しつつ、顔の見える関係を築いていくのです」(宮前さん)
2024年8月末現在、コレクティブハウス大泉学園では家賃5万6000円のワンルームが2室、家賃4万8000円の浴室をシェアする部屋1室の空きがあるとのこと。入居者募集の方法もとてもユニークで、不動産会社や大家さんが募集するのではなく、居住者組合がCHCとともに、見学会やハウス訪問、イベントなどを通じて行います。
「入居を希望する人はCHCの開催するオリエンテーションを受けてハウス訪問をした後に、定例会を傍聴したり、コモンミールに参加したり。住人のみなさんとの出会いやさまざまな情報を得た上で、最終的に自分で入居について考えていただきます。その基準は『自分がコレクティブハウスで暮らしたら、楽しいだろうなと思えるか?です」(宮前さん)
また、入居に際しては身分証明や収入証明などは必要ですが、居住者組合が保証人にもなるシステムのため、保証人のいない人も、入居できる可能性が広がります。
「新しい人が入ってくるのは、素敵なことです。日々の生活の中でみんなが当たり前になっていることも、当たり前と思わない人が入ってくると、もう一度そのことについて考えるようになりますから」(宮前さん)
気になる居住者の暮らしはというと、共有部分の掃除や備品の補充、月に一度みんなそれぞれ行う調理当番、暮らしに必要な組合の自主運営の仕事の担当、敷地内のガーデニングやブログの更新など、さまざまなことを役割を分担するシステム。もちろん、みなとやで暮らす人たちも同様です。みなとやで利用者のサポートをしている世話人の明星マサさんは、「みなとやの利用者をお客さま扱いはしたくない」と話します。
「全てを面倒見てもらうのではなく、やれることは自分でやり、できないところはSOSを出して手伝ってもらう。コレクティブハウスでは隣人として対等な立場で『やるべきことはやれ』と言ってくれるので、自立していく良いシステムだと思います」(明星さん)
精神障がいのあるKさんは毎日みなとやからつくりっこの家の作業所に通いながら、敷地内の植物の世話をしたり、居住者組合の会計係をNさんと一緒にやっています。
「これまでは家族と暮らしており、家事などをやったことがなかったので、自分にできるか不安でした。でも、ほかの住人に『あなたも入居者としてできることをやるべき』と言われてやってみたんです。面倒と思うこともありますが、やってみればそれほど苦ではありませんでした。今では月に1回、みんなの夕食をつくる『コモンミール』の食事当番も問題なくできるようになって、おいしいと言ってもらえるとやっぱり嬉しいですね」(Kさん)
一方、居住者の一人であり、つくりっこの家の支援や薬剤師としても働いているNさんは「最初は、精神障がいのある人と関わったことがなかったので、うまくやっていけるか不安だった」と言います。しかし、今では「仲間」だと思っているそう。
「例えば、Kさんは会計の仕事で集金や計算がきっちりしていて、今まで1円たりと誤差を出したことがありません。ほかの住人との心地よい距離感を探すのに時間がかかるなど、暮らしを共にする上で苦労する部分もありますが、人それぞれに特技があって助け合えているところが、ここの暮らしの魅力だと思います」(Nさん)
コレクティブハウス大泉学園での暮らしは、障がいのある人にもない人にも、互いに良い影響を与え合っているようです。
コレクティブハウス大泉学園は、つくりっこの家との協働による精神障がいのある人の住まいの支援に注目が集まりがちですが、宮前さんはそれも「多様性の幅が広がっただけ」だと言います。コレクティブハウスは多様な人がつくる住まいなので、どういう人がいるのかに合わせて運営方針や対応が柔軟に変わるものだという考えからです。
「誰だって歳を取れば高齢者になるし、離婚して子どもがいればシングルペアレントになります。いつ支援が必要となるかわからない。障がいの有無やマイノリティであることを特別視する方がおかしいと思います」(宮前さん)
実際、障がいのある子どもを持つ親の団体などからの問い合わせが多いそう。自分の土地を活かしてコレクティブハウスの事業オーナーとして運営を担ってみたいという人も。宮前さんは、「ぜひ、いろいろな人たちにこの新しい暮らし作りや、暮らし方にチャレンジしてほしい」と話します。
「コレクティブハウスの仕組みは、私たちの専売特許ではありません。どの地方都市でもできるし、空き家を利用することも可能です。地方によってコミュニティのあり方が変わっても、これまで同様、運営の主体となる方々と試行錯誤していくことに変わりありません」(宮前さん)
コレクティブハウスの、住人自身が主体となって自分たちの暮らしやハウスの運営を決めていくシステムは、個々の独立性を保ちながら多様な人たちとの共生、互助、持続を可能とするものです。制度やルールでガチガチに固めるのではなく、住人たちやその考え方によっていかようにも変化する柔軟さが成功の鍵ではないかと感じました。
多様な人の多様な暮らし方、そして高齢者や障がいのある人など、住まいの確保に配慮が必要な人たちへの支援のあり方にもヒントになることがたくさんあるのではないでしょうか。このような集合住宅が、日本全国に広まり、住まいの選択肢の一つとなることを期待したいです。
●取材協力
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特定非営利活動法人コレクティブハウジング社
・ライト工業株式会社
・平和不動産株式会社
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