『ハイキュー‼』×SVリーグコラボ連載(6)
デンソーエアリービーズ大﨑琴未
(c)古舘春一/集英社
「"バレーボールは難しいな"っていうのが、最初の記憶です」
彼女は言うが、その感覚には中毒性があった。できなかった難しいことを、できるようになる。その喜びに次第に囚われていった。
小学5年からバスケットボールと掛け持ちでバレーボールを始めたが、もともとバスケをしていたことで戸惑った。レイアップとスパイクを打つための足の運びや踏み切りが違うため、頭の中が混乱した。しかし練習を続けることで、感覚を掴んでいった。
大﨑琴未は、成長を感じられることに充実感を覚えた。
中学2年の時、ツーセッターのセッターでプレーした際もそうだった。セットも楽しいし、スパイクも楽しい。プレーのセンスがあったのだろうが、とことんバレーにハマっていった。
名門の下北沢成徳高では、「地獄のトレーニング」と言われるメニューも乗り越えた。フィジカルトレーニングは、他校とは比べ物にならないほど厳しい。グラウンド周回では、それぞれのタイムが張り出される。だから、少しもサボれない。当時は部員同士が意見を出し合って切磋琢磨する環境で、「本気で走ってる?」とも言われることもあるなど、常に全力を出し切ることを求められた。
大﨑は、そこで愚直に頑張ることができた。その真摯さが、彼女の大事な才能のひとつなのだろう。
「ミドルブロッカーは、ある責任を担うポジションだと思っています」
大﨑は朗らかな声で言う。
「他のポジションと比べて、ボールに触る時間は少ないと思うんです。でも、ミドルのブロックが上手いか下手か、目立たないプレーができるかどうかで、チームの連係が変わってくる。少しでもサボると、後ろは拾えません。ブロックにいっても、手の出し方やタイミングが少しでも違うと、変なところにボールがいって取れない。後ろの人に気持ちよくレシーブさせられるように、一本の軸になれるかどうか、ですね」
全神経を集中させて戦い切る流儀だけに、代償を払うこともある。
今年、大﨑は左手首の手術をした。実は約1年半、痛みを抱えたまま戦ってきたという。最後は、折れてしまった骨の代わりに、偽の骨(偽関節)が突き出るところまでいっていた。
普段の彼女は愛らしい雰囲気を醸し出すが、コートではリハビリでも殺気を放っていた。
「バレーボールは、ボールを落としちゃいけない、持っちゃいけない、というのが基本なので、難しいなって思います。あと、ひとりの調子がよくても周りが悪かったら勝てないし、自分が悪くても周囲がよかったら勝てる。チーム力が試されるスポーツだなって。だからこそ、噛み合った瞬間は最高に楽しいんです!"負ける気がしない"って気持ちになるんですよ」
無敵の境地だ。彼女の本性はそれを求める。
「私が今までバレーの練習を頑張ってきたのは、"この1点のためだった"というのがあって。(昨シーズンの)NECとのファイナルの5セット目、14点目をブロックしたんです!結局、試合は負けちゃったんですけど、それを決めた時に"私が今までやってきたことは、すべて、この1点につながっていた"と思えたほどでした」
大﨑は次の戦いに向かって生きていた。すべての経験を糧に。彼女はバレーに魅入られてしまったのだ。
【大﨑が語る『ハイキュー‼』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力は?
「全部のキャラクターがよすぎて、それぞれに魅力があることですね。私はどのアニメにも"推し"がいるんですが、ハイキューだけは『この人』というのがなかなか選べない。それこそ、魅力かもしれません」
――共感や学んだシーンは?
「田中(龍之介)が『できるまでやればできる‼』と言うシーンを読んで『確かに』と思いました。"できない"ことは、できない段階で終えてしまっているから、"できない"ままなわけで。できるまでやり続ければできるんですよ(笑)。その言葉に触れてからは、練習で苦手なプレーあっても、"できない、無理"とは考えなくなりました。やり方にもよるんですけど、やり続ければできる。もっとうまくなりたいって考えて頑張ったら、いつかできるかもしれないから、諦めるのはもったいないって」
――印象に残った名言は?
「『できるまでやればできる‼』はもちろんですが、木兎(光太郎)がツッキー(月島蛍)に『"その瞬間"が有るか、無いかだ。――ただもしもその瞬間が来たらそれがお前がバレーにハマる瞬間だ』っていうセリフですかね。私がバレーが好きで、続ける理由でもあります。その瞬間を味わいたくて抜け出せないんだと、あらためて気づかされた言葉です」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「バレーを心底楽しんでいるキャラが好きですね。1位が田中、2位が木兎、そして3位が縁下(力)ですかね。縁下は、キャプテンがケガして離脱した時のレシーブ入った場面とか、たまらなかったです!」
――ベストゲームは?
「烏野と伊達工との練習試合です。あの時、烏野はいろいろうまくいかなくて、4セットずつを取り合って終わります。途中は雰囲気もよくなくなりますが、みんな何か変えようと前向きにもがくんです。うまくいかないのに、チームが落ち込んでいないっていいな、と思って。現実ではすごいストレスで、雰囲気が悪くなって余計にうまくいかなくなることが多い。だけど、この時の烏野はそうならずに成長しました。
その後、春高バレーで稲荷崎と戦った時、(東峰)旭さんがタイミングをずらしてスパイクを打って決めたんですが、その練習試合からつながっていたんです。"巡り巡って生きている"感じがいいですね。あの練習試合なくして、あの勝ちはなかった!」
(連載7:デンソー川畑遥奈は『ハイキュー‼』の名言そのままに「楽しむ為」に強さを求め続けた>>)
【プロフィール】
大﨑琴未(おおさき・ことみ)
所属:デンソーエアリービーズ
2000年8月23日、島根県出身。180cm・ミドルブロッカー。小学5年生からバレーを始める。下北沢成徳高では、3年時にインターハイと国体の二冠を達成し、2019年に東レアローズに入団。2022-23シーズンは副キャプテンを務め、今年の6月にデンソーエアリービーズに入団した。日本代表としては、2019年に日本代表のB代表としてアジア選手権に出場して優勝に貢献した。
【関連記事】
ルフィ宇野昌磨、ビビ本田真凜、ナミ望結、ゾロ田中刑事...『ワンピース・オン・アイス』2024・フォトギャラリー
1984年オールスター 江川卓の8連続三振のあとマウンドに上がった鈴木孝政はしらけムードのなか1イニングを投げた
J1残留争いの行方はいかに!? J2降格は鳥栖、札幌、磐田の3チームで本当に決まりなのか?
サッカー日本代表と引き分けたオーストラリア代表選手は「ヤバい」と警戒したドリブラーから「多くのことを学べた」
中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる