あらゆる虚飾を削ぎ落とした一人芝居…久しぶりの主演作『まる』を機に俳優、堂本剛を考えてみる

堂本剛が久方ぶりの映画で主演を務める『まる』/[c] 2024 Asmik Ace, Inc.

あらゆる虚飾を削ぎ落とした一人芝居…久しぶりの主演作『まる』を機に俳優、堂本剛を考えてみる

10月19日(土) 20:30

テレビ番組「堂本剛のココロ見」を書籍化した「ココロのはなし」発売時の2014年、堂本剛にインタビューをした。これまで様々な人に話を訊いてきたが、彼はとりわけ印象に残っている一人だ。
【写真を見る】売れない画家という役どころで堂本剛の一人芝居が堪能できる『まる』

同書は刀匠や桜守、登山家ら独特の世界を独自に極めた賢人6人と堂本の対話を収めたものだが、その際の心づもりの話題になった時、「緊張するのは相手に失礼」という名言が堂本から飛びだし、目から鱗だった。

私は長年インタビュアーとして仕事をしてきて、なぜ自分が毎回緊張するかと言えば「相手に自分の緊張を悟られないようにする」からだと無意識に感じていた。つまり緊張をカムフラージュしようとするあまり、緊張していた。

堂本自身、人見知りで内向的な性格だからこそ、「相手に緊張させないため、自分も緊張しないようにする」と語り、これこそ対話において最も肝要なことではないかと感じ入った。私にとって堂本にインタビューすることこそ、賢人との対話だった。

唯一無二のアイドルであり、オリジナリティあふれるミュージシャンであり、特別な吸引力を放つバラエティタレントであり、ほかにも様々な領域にその表現才能を発揮している「堂本剛」を言語化するなど、そもそも無理な話だ。だが、彼が映像芝居の場に立つ時に派生させる大気について考えてみたい。

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■「たしなみ」を駆使し、ティーンエイジャーにして老成した風格を纏う

途中離脱した時期があったとはいえ、堂本はそもそも子役出身の俳優であり、アイドルとしてのキャリア以前に演技があった。彼の芝居を見ていると「たしなみ」という日本語が想起される。堂本は、その豊潤な芸歴を参照するまでもなく、芝居をたしなんできたのだ。そうして芸事を心得てきた。若い頃から、落ち着いた風情があった。若者を体現していても、沈思黙考が感じ取れた。

10代の頃は、鋭い目つきをすることもあった。しかしその鋭さは、相手を突き刺すための攻撃ではなく、己の未熟さ(あくまでも演じるキャラクターのいたらなさのことである)を照射するための眼光として存在していた。内省にティーンエイジャーならではの真摯さを書き加える堂本の手つきにはすでに老成した風格があり、多くの少年青年たちとはまるで違っていた。

若者らしさ、と大人たちが決めつける時、そこには愚かしいほどの真っ直ぐさや、世の中への反抗的な態度、あるいは青春期特有のやるせない脱力模様といったものへの侮蔑と憧れが綯い交ぜになっている。ほとんどの若年俳優たちは、いまも昔もこうした決めつけのような定型の要請に応えているが、堂本は「若者らしい若者」に収まる(それは諦めることに近い)ことがなかった。未成年もまた考え続けているし、わかりやすい生命線とは逆のベクトルに向かうことだってあるのだということを黙って体現し続けた。彼流の「たしなみ」を駆使して。

堂本剛が主演を務めた劇場版『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』

膨大なドラマ作品に較べれば映画はあまりに少ないと言わざるを得ないが、近作と言っていい『銀魂』(17)で彼がクリエイトした“高杉晋助”には、堂本ならではのカリスマがあり、オーラがあり、孤高があった。基本的にコメディテイストの作品だが、高杉晋助が画面に登場するとまるで違った風が吹いた。岩のような違和は健在だった。

■芸術家、堂本剛だからこその説得力を生みだした『まる』

久方ぶりの主演作『まる』(公開中)では、売れない画家がひょんなことからスターダムにのし上がる様を体現する。自宅兼アトリエで一人創作活動に打ち込む場面がふんだんにあり、まずは堂本の一人芝居が堪能できるという意味で大変に見応えがある。

沢田のアーティストとしての佇まいが堂本剛自身とも重なる『まる』

あらゆる虚飾を削ぎ落とした彼の一人芝居は、デッサン(素描)と呼ぶべきものあり、演技そのものがモノロームと化しており、しかし、これほど情報量が少ないにもかかわらず、滅法おもしろい。物言わず、なにかを描いていた者が、ふとあることに気づいたり、気づかなかったりする。ただそれだけのことに、私たちはなぜここまで興味を抱いてしまうのか。まなざしの好奇心を惹きつける術を堂本は熟知しているのだろう。

人気現代美術家のアシスタントとして働く沢田

主人公は自身が描いた「まる」によって不条理にも翻弄されることになるが、かつてのように鋭い視線を可視化することはない。いくつかの場面では相手を睨んでもいいはずの瞬間が訪れる。しかし、しかしはそうはならない。その代わり、現在の彼ならではの熟成した表情を浮かべる。

たまたま描いた「まる」が多額で取引されるなど一躍時の人となる沢田

それは、かつてとは比べものにならないくらい複雑で、多様で、深遠で、とりとめがなく、不思議な情緒をこぼれ落ちさせるが、堂本の芝居が依然として、己を見つめていることは特筆すべきである。

沢田の日常が「まる」に浸食されていく…

堂本剛自身が芸術家だけに破格の説得力がある物語だが、そのこと以上に、彼の演技の根本にある―自分自身をえぐる―手つきのありようにこそ、底なし沼の魅惑がある。

文/相田冬二


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