韓国で『バラサイト 半地下の家族』を超える約1,200万人を動員し、2024年No.1大ヒットを記録。さらに先日開催された第57回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞を受賞し、世界中から注目を集めている『破墓/パミョ』が、ついに10月18日より日本でも公開。
【写真を見る】韓国では『破墓/パミョ』に続き、新作『大都市の愛し方(原題:대도시의 사랑법)』も大ヒット中のキム・ゴウン
巫堂(ムーダン)のファリム(キム・ゴウン)と弟子のボンギル(イ・ドヒョン)は、米国ロサンゼルスに暮らす裕福な一家から代々、跡継ぎが謎の病で苦しめられているという相談を受ける。早速、先祖の墓に原因があると突き止めたファリムらは韓国に帰国し、墓を別の場所に移し変える改葬のためにベテラン風水師サンドク(チェ・ミンシク)と葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)に協力を求める。サンドクは埋葬すべきでない場所に建っていた先祖の墓に嫌な気配を感じ、一度は依頼を断るが、ファリムに説得されて墓を掘り起こす“破墓(パミョ)”を執り行うことに。だが、墓には恐ろしい秘密が隠されていた…。
『オールド・ボーイ』(03)で知られるベテラン俳優のチェ・ミンシクに、「コンフィデンシャル」シリーズ(17、22)でヒョンビンの相棒を演じた個性派俳優ユ・ヘジン、「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」(22)で一躍注目を集めた若手俳優イ・ドヒョンなど、豪華な顔ぶれが揃っているが、そのなかでも異彩を放っているのが巫堂のファリムをクールに演じたキム・ゴウン。MOVIE WALKER PRESSでは、ジャパンプレミアのためプロモーションでは初来日した彼女に単独インタビューを敢行。撮影秘話や、本作の演技で第60回百想芸術大賞映画部門の主演女優賞の栄誉に輝いたことなどを率直に語ってくれた。
■「出演の最大の決め手はチャン・ジェヒョン監督でした」
2012年、映画『ウンギョ 青い蜜』で俳優デビューを飾ったキム・ゴウン。新人ながら、老詩人の心を奪う女子高生の初々しさと艶めかしさを体現し、青龍映画賞をはじめ数々の映画賞の新人賞を総なめ。その後、ドラマでも次々とヒットを飛ばし、なかでも「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」(16)は一大ムーブメントを巻き起こし、今や韓国ドラマのマスターピースの一つとして数えられている。さらに「ユミの細胞たち」(21-22)や「シスターズ」(22)などファンタジーやラブコメ、ミステリーなどさまざまなジャンルやキャラクターに挑んできた。そんな彼女にとって、今回の『破墓/パミョ』のような作品は馴染みないジャンルだが、出演の決め手はなんだったのだろう。
「確かに、『破墓/パミョ』はサスペンススリラーという私にとってはあまり馴染みのないジャンルでした。でも、どんな作品にも初めての経験があり、最初は親しみのないジャンルだと思うんですね。だから、作品を選ぶうえで馴染みのないジャンルであることが躊躇する理由にはなりません。今回、出演する最大の決め手ははチャン・ジェヒョン監督でした。監督に対する信頼が大きかったというのがあります」
チャン・ジェヒョン監督は『プリースト 悪魔を葬る者』(15)や、Netflixで配信中の『サバハ』(19)などを手掛けた、韓国のジャンル映画の鬼才。この『破墓/パミョ』には韓国独自のシャーマニズムを題材に土葬文化、風水、陰陽五行などを織り交ぜているが、キム・ゴウンは初めて脚本を読んだ感想をこう振り返る。
「監督の脚本には今まで見たことのない斬新さを感じました。4人のキャラクターがとても個性的で、その4人を演じる俳優が1か所に集まって、互いに芝居の息を合わせる。そういう作品はあまり見たことがなかったんです。だから、どんな現場になるんだろうとワクワクしましたね。出演する前から、とても期待したことを覚えています」
■「一つ一つの作品での経験が次の作品に活かされ、より自分が成長できる」
巫堂のキャラクターを演じることも初挑戦だったキム・ゴウン。若いながらもカリスマ性たっぶりに巫堂ファリムを演じ、とくに破墓の時に行う“テサルお祓い”という儀式のシーンは圧巻。鬼気迫る演技は絶賛されている。役作りはどのようにしたのだろう。
「この作品をやろうと決めた時から、撮影の前に数か月間、表面的に技術や所作を学ぶのではなくて、巫堂の方たちと話をして彼女たちの人生や暮らしそのものから理解したいと思いました。そもそも私は巫堂の信仰についても知らない。だから、2年ぐらい巫堂のもとに通って、いろんな話をして関係を築いていきました。そうしていくなかで、巫堂が胸の奥に秘めている感情、根底に流れているものに気づいていけるのではないかと思ったんです。たとえば、なぜ巫堂の世界に入ったのか、その時にどんなことを思ったのか。彼女たちの心の底に流れる感情を知ることが、ファリムを演じるためには一番大事なことだと思ったんです」
チェ・ミンシクら世代の異なるキャストとの共演には、どのようなケミストリーを期待していたのだろうか。
「私たちはまったく年齢が違うのに、似た者同士だったんです。みんな、ちょっといたずらっぽくてユーモアがあっておもしろくて。だから、笑いが絶えない現場だったと記憶しています。本当にお腹がよじれるほど笑いながら、撮影に臨んでいたんですよ」と笑顔を見せながら語った。
チャン・ジェヒョン監督については、「シリアスな作品が得意な監督なので、お会いするまでは真面目でちょっと怖い方なのかなと予想していたんです。ところが、とてもキュートな方でした(笑)。ただ、自分が撮りたいと思う画が撮れるまでこだわる。いろんな意味で一番ギャップのある方でした」と明かす。
前述したように、韓国では大ヒットを記録している『破墓/パミョ』。百想芸術大賞の主演女優賞を受賞し、俳優してのキム・ゴウンの注目度はさらに増すことは間違いない。今後の俳優人生にとって、この『破墓/パミョ』がどんな意味を持つか、聞いてみた。
「この作品は、私に“1000万人動員俳優”というタイトルを与えてくれましたが、本当にこれは簡単に手に入れることはできない、大切なタイトルだと思います。どんなにすばらしい作品であっても、必ずしも観客を大勢動員できるわけでもない。さらに作品性も認められた貴重なケースだと思っています。これからの自分の俳優人生のなかで、またこんなことが起きるのかな…と思うほど。ですから、心から感謝の気持ちで受け止めていますし、長く記憶していたいと思っています」
韓国ではすでに新作映画『大都市の愛し方(原題:대도시의 사랑법)』(24)が公開され、俳優として次なるステージに向かっているキム・ゴウン。最後にこんな言葉で締めくくってくれた。
「私は、一つの作品が終わると、いつも反省の時間を持つことにしています。そして、その作品で自分の足りなかったところを振り返るんです。次の作品では同じ失敗はやらないようにと肝に銘じる。そういうことで、一つ一つの作品での経験が次の作品に活かされていく。『破墓/パミョ』も必ずそういう作品になっていくと思います。そして、より自分が成長できる、発展していけるようにと思っています」
取材・文/前田かおり
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