高知の暮らしや人々に深く根付いている「おきゃく」文化。祝いの酒宴に「お客」を招くことが語源で、うたげそのものを指すようになった。高知の人は「おきゃく」が大好きで、3月には高知市内の商店街にコタツが並び、土佐式の「返杯」「献杯」で街中が盛り上がるイベントも行われている。
おきゃくで振る舞われるのが皿鉢(さわち)料理。皿鉢料理は、伊万里や九谷、有田焼など鮮やかな大皿に、高知県の恵まれた自然が生む山の幸、海の幸がぜいたくに盛り付けられる。おきゃくの規模は皿鉢の枚数でわかるという。この皿鉢料理に欠かせないのがすし。すしも地域ごとに特色があり、新鮮な魚介類を使ったものから山の幸まで、独特の食文化が育まれている。
高知県の中西部に位置する津野町では、魚や昆布、のりなどが手に入りづらかった時代に、地域の人々が知恵を出し、ゆず酢を効かせた酢飯と、りゅうきゅう(はすいもの茎)やみょうが、こんにゃく、たけのこ、しいたけなど山の幸を使ったすしで客をもてなしてきた。津野町久保川地区の生活改善グループは、山の幸を使った全国的にも珍しいすしを、農水省の「全国ふるさとおにぎり百選(1986年)」に「田舎ずし」と命名し応募。見事入賞し、津野町久保川地区は「田舎ずし」発祥の地として知られるようになった。
津野町久保川地区では、「田舎ずし」の伝承を目的に、すし作りの体験会を2年前から行っている。現在は、久保川生活改善グループの7人が指南役となり、県内外から体験希望者を受け入れている。体験会は、2024年3月に県内で行われた「オススメどっぷり高知旅コンテスト」で、応募があった166件の体験型企画の中から受賞したほか、久保川生活改善グループは郷土料理の卓越した知識や技術を持ち、食文化の伝承活動に取り組む団体として「土佐の料理伝承人」にも選定されている。
体験会は、田舎ずしのルーツや、食材の特徴、料理方法を説明する紙芝居から始まり、厨房(ちゅうぼう)で作られた食材を使ったすしづくりに進む。
■りゅうきゅう(はすいもの茎)りゅうきゅうは久保川地区の特産品。夏の定番の野菜でクキを調理して食べる。ハウス栽培では3mほどの大きさに育ち、6から11月にかけて収穫される。りゅきゅうは、皮をむき、30cmほどに切り、2~3本切れ目を入れて塩を振る。しんなりとしたら、塩抜きをしたものを甘酢(ゆず酢、砂糖、みりん、塩少々)につける。
■たけのこたけのこ(孟宗竹)は、4月に山から採ってくる。成長が早いたけのこの収穫は、イノシシとの勝負だそうだ。収穫後も傷みやすく苦みが出やすいため、採りたてのたけのこは、皮をむいて縦半分に切って下ゆで後、塩漬けにしてタルに保存する。使う前には、一晩かけて流水に浸し塩抜き後、だし、砂糖、しょうゆ、塩少々、みりんで煮て、一晩かけて味を染み込ませる。
■みょうがみょうがは、つぼみが開花する前に収穫。津野町では8月に収穫することが多いという。みょうがは、縦半分に切って湯通し後に塩をふり、甘酢(米酢、砂糖、塩少々)に浸す。酢につけることで綺麗な紅色に変化する。そして、シソにつけて冷凍。
■しいたけしいたけは、干しシイタケを使用。水で戻したあとに軸を切り、かさの部分に十字の飾り切りを入れる。だし、砂糖、しょうゆで甘辛く煮る。
■こんにゃくこんにゃくも津野町産。切れ目を入れた後に、だし汁、砂糖、しょうゆ、みりんで甘辛く煮る。こんにゃくずしはいなりずしのように、こんにゃくの内側にすし飯を詰めて作る。
■すし飯四万十川の恵みをたっぷり含んだごはんに、酢、塩、さとう、きざみしょうが、だし、いりごま、ゆず酢を合わせる。ゆず酢は香りを生かすため最後にかける。切るようにまぜて、冷めたら完成。ほのかに酸味の効いた酢飯がさわやかな味わいだ。
田舎ずし作りの参加者には田舎ずしのレシピも提供される。体験会の参加者とは地域間の交流につながるケースも多いという。久保川生活改善グループのみなさんは「田舎ずしのおいしさを通じて、津野町の食文化を伝え、未来に継承していきたい。後継者不足が課題だが、私たちもまだまだ現役で頑張る」と普及・保存に取り組み続ける。
田舎ずしはゆずの風味が効いていて、作りたてが一番おいしい。特に、りゅうきゅうやしいたけ、こんにゃくは足が早いため、涼しくなった季節の体験がおすすめだ。
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