「東京メトロが新規上場」。わずか半年で公募割れした日本郵政と“様相が異なる”理由

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「東京メトロが新規上場」。わずか半年で公募割れした日本郵政と“様相が異なる”理由

10月17日(木) 8:53

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中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

10月23日に東京地下鉄(東京メトロ)がプライム市場に新規上場します。市場から吸収する額は3200億円で、ソフトバンク以来の大型IPO。10月16日から申し込みを開始しました。その話題性から、SNSでは購入を希望する声も多く聞こえてきます。

しかし、鉄道事業を主軸とする東京メトロに十分な成長性があると言えるのでしょうか。

東京メトロが市場から調達する金額はゼロ?

東京メトロは政府が53.42%、東京都が46.58%の株式を保有しています。

「復興財源確保法(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法)」では、政府が保有する東京メトロの株式の売却収入を、2027年までに復興債の償還に充当するとされており、株式上場に向けた準備を進めてきました。

株式を上場する際は、既存の株主が持株を売却する売出と、会社が新たに株式を発行して資金を調達する公募の2つがあります。多くの場合、この2つを組み合わせますが、東京メトロの上場は売出のみ。従って、東京メトロは新規上場によって資金を調達するわけではありません。政府と東京都が売却益を得ることが目的の一つとなるわけです。

日本郵政のパターンとは「やや様相が異なる」

なお、これは2015年11月の日本郵政の新規上場も同じでした。

民営化によるIPOと聞くと、日本郵政の負のイメージを持つ人が少なくありません。日本郵政の株価は上場からわずか半年ほどで公開価格を割り込んだのです。公開価格ベースの時価総額は7.3兆円でしたが、現在は4.4兆円ほど。PBRは0.4倍と冴えません。

日本郵政は2015年3月期から9期連続で減収となるなど、収益性に問題があります。これは、デジタル化が進んでハガキなどの郵便物の市場が縮小していたことに最大の要因があります。EC取引を背景とした小包においてもすでに競合がひしめているため、強化しようにもしきれません。また、郵便事業は人への依存度が高いため、効率化を進めづらいという問題点も抱えています。

しかし、ビジネスの伸びしろと経営効率という側面において、東京メトロは様相が異なります。

2030年に「有楽町線と南北線の延伸」が

まずは足元の業績から見ていきます。

2024年3月期の売上高に当たる営業収益は、前期比12.7%増の3892億円、営業利益は2.7倍の763億円となりました。コロナ禍から急回復しているものの、売上収益・営業利益ともに2020年3月期の水準を1割下回っています。経済活動が再開したにも関わらず、完全回復はしていません。成長性は失われているようにも見えます。

しかし、伸びしろとして期待できる要素が2つあります。1つは新線の建設。もう1つが不動産開発です。

東京メトロは有楽町線と南北線の延伸を計画しています。住吉駅から東陽町、豊洲駅を結ぶものと、白金高輪駅から品川駅を結ぶものです。特に品川との接続は大きいでしょう。

東京メトロは東京都内で利用者数が多い10駅のうち、9つの駅と接続していました。6位の品川駅だけが欠けていたのです。2022年度の品川駅の利用者数は77万2000人。

東京メトロは1日平均652万人が利用しています。接続する駅が増えて利用者数が増加すれば、それだけ収益性が高まることを意味します。

延伸した有楽町線と南北線の開業は、2030年を計画しています。

“非鉄道事業”不動産開発が活発化?

収益性を高める点において、不動産事業も外せません。東京メトロは2024年3月に東京メトロアセットマネジメントを設立しました。これは不動産投資信託(リート)に進出したことを意味します。リートは投資家などから資金を集め、東京メトロが所有している不動産を売却。その不動産が生み出すキャッシュフローで投資家に還元し、東京メトロは売却した資金で開発を進められるというもの。

東京メトロはすでに「渋谷ヒカリエ」や「渋谷マークシティ」、「ハラカド」などの不動産賃貸を行っています。2029年には新宿駅西口に高さ260mの高層ビルも新たに誕生する予定。

東京メトロの不動産による営業収益は全体の4%にも達しておらず、規模は大きくありません。しかし、リートによって資金の調達環境が整えば、不動産開発を活発化させることができます。上場後の非鉄道事業の強化は注目に値するでしょう。

インフレ下でも積極的な投資。営業利益率が…

東京メトロの営業利益率に注目すると、2024年3月期は19.6%で、コロナ前の2020年3月期を上回る水準まで回復。人件費や水道光熱費が高騰する中でも、稼ぐ力そのものは取り戻しています。2023年に28年ぶりの運賃値上げに踏み切った影響もあるでしょう。

ただし、2025年3月期第1四半期の営業利益率は28.5%まで高まっています。

東京メトロは、2022年~2024年度にかけて総額3300億円の設備投資計画を立てていました。そのなかで、ホームドアの整備や新型車両の導入、変電所設備改良などに1240億円を投じるとしています。

設備を充実させて人員の削減や検査・更新周期の見直し、車両の自動運転に向けたコスト構造改革を進めていたのです。

鉄道運行に必要な経費は、コロナ前比で85%程度に留める方針だといいます。営業利益率が高まっているのは、この取り組みの成果が出ているのかもしれません。

中期的な売上の拡大、経営の効率化という面において、東京メトロは成長の潜在性を持っていると言えるのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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