10月17日(木) 13:20
ミュージカルの最高峰のひとつであり、ミュージカルに馴染みがない人でもこの題名は聞いたことがあるだろう作品『レ・ミゼラブル』。日本では1987年の初演以降上演を重ね、これまでの上演回数は3,459回を数える、まさにミュージカルの金字塔だ。この名作が3年ぶりにやってくる。10月16日、2024年出演キャスト84名が勢揃いし、製作発表記者会見が東京・帝国劇場にて開催された。作品のホームとも言うべき帝国劇場は来年より建替えに伴う休館に入るため、今回の上演はキャストやファンにとって特に大切な公演になりそうだ。
Les Misérables JAPAN 2024-25 Official Trailer
物語は19世紀初頭、革命後の動乱のフランスを舞台に、パンを盗んだ罪で19年間投獄されていたジャン・バルジャンをはじめ、革命を志す学生たちや、苦しい生活を送る民衆たちの姿から「無知と貧困」「愛と信念」「革命と正義」「誇りと尊厳」などのテーマを描き出していくもの。この日の製作発表は報道陣のほか、一般オーディエンスも参加。なんと500名の参加枠に、約15,000通の応募があったとか。人気の高さが伺える。
主人公ジャン・バルジャン役の飯田洋輔による圧巻の『独白』で製作発表会見が幕開け会見では最初に劇中歌5曲が披露された。まずは主人公ジャン・バルジャンに初キャスティングされた飯田洋輔による『独白』。劇団四季出身で、四季時代は『美女と野獣』『オペラ座の怪人』など大作ミュージカルの主役を数々務めた実力者が、さすがの美声と豊かな声量で難曲を響かせる。
ファンテーヌ役のトリプルキャスト、昆夏美・生田絵梨花・木下晴香は『夢やぶれて』をこの日だけのスペシャルバージョンで披露続いて作品を代表する名曲『夢やぶれて』。悲運の女性ファンテーヌが歌うソロナンバーだが、今回ファンテーヌ役を務める昆夏美、生田絵梨花、木下晴香は3人全員が初役となる。この日は3人で、本番の舞台ではないこの日限りのハーモニーも織り交ぜての披露。いずれもミュージカル界で欠かせないスターらしく、安定した歌声を聴かせてくれた。続いても、よく知られた名曲『民衆の歌』。リーダー・アンジョルラスを中心に、学生たちが決起する際に歌われる勇壮なナンバーだが、湧き上がる熱を感じさせるパワーあるアンサンブルの歌声の中、アンジョルラス役に抜擢された小林唯が力強く端正な声を真っすぐ届けた。
“レミゼ”を代表する名曲『民衆の歌』を披露するアンジョルラス役の小林唯(中央)とアンサンブルキャストさらに、学生のひとりマリウスに恋をする少女エポニーヌの切なくも美しいナンバー『オン・マイ・オウン』を、エポニーヌ役の清水美依紗とルミーナのデュエットで。ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』エレナ役も記憶に新しい清水、日本出身ながらデビューは2023年の韓国版『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役という異色の経歴の持ち主ルミーナ、ともに深い表現力と歌声の美しさを兼ね備えていて聴きごたえ抜群。
エポニーヌ役の清水美依紗とルミーナが『オン・マイ・オウン』をデュエットで披露最後に、キャストが一堂に会する大ナンバー『ワン・デイ・モア』をオールキャストで披露。ソロパート歌唱はバルジャン役:佐藤隆紀、ジャベール役:小野田龍之介、エポニーヌ役:ルミーナ、マリウス役:山田健登、コゼット役:水江萌々子、テナルディエ役:染谷洸太、マダム・テナルディエ役:樹里咲穂、アンジョルラス役:木内健人がそれぞれ担当した。
歌唱披露最後を飾ったのはオールキャストによる『ワン・デイ・モア』佐藤隆紀(中央)小野田龍之介(中央)ルミーナ(中央)山田健登(中央)水江萌々子(中央)染谷洸太と樹里咲穂(それぞれマイク中央)木内健人(左側マイク中央)音楽監督・山口琇也が指揮をする迫力の歌唱披露は、製作発表記者会見とは思えぬミニコンサートのような豪華なひと時。2024年キャストに期待感を抱くに充分なアピールとなった。
吉原光夫「帝劇と仲直りして終えられたら」歌唱披露に続いて、プリンシパルキャスト26名による挨拶と質疑応答も。
ジャン・バルジャン役は2011年から務める吉原光夫、2019年から務める佐藤隆紀、初参加の飯田洋輔の3人。
ジャン・バルジャン役の吉原光夫(前列中央)、佐藤隆紀(前列左)、飯田洋輔(前列右)吉原は「2011年の初出演の時、僕も飯田君と同じく製作発表で『独白』を“歌わされ”ました。この劇場は舞台に立つと、宇宙に飲み込まれているような感覚になる。その時のトラウマでこの劇場が嫌いで嫌いでしょうがなくなったのですが(苦笑)……でも多分本当は好きなんですよ。この大嫌いな劇場をこの作品で(自分としては)幕を閉じられるというのは意味のあることだと思う。帝劇と仲直りして楽しく終えられたら」とコメント。
佐藤もまた帝劇クロージングに触れ「スペシャルでメモリアルな公演に立てることを誇りに思います。お客さまにとってもメモリアルな公演だったなと思ってもらえるよう、一公演一公演魂込めてお届けしていきたい」と話し、飯田は歌唱披露を「緊張しました。光夫さんに『宇宙みたいに感じるだろうけど気にすんな』と送り出されましたが、歌ってる途中で手が痺れてきて、本当に緊張していたんだなと」と振り返りつつ、「この役とご縁をいただき身の引き締まる思いです。作品と台本、言葉を信じ、自分らしいジャン・バルジャンを演じていけたら」と意気込んだ。
バルジャンを追いかける刑事ジャベールは、伊礼彼方、小野田龍之介、石井一彰。
ジャベール役の伊礼彼方、小野田龍之介、石井一彰(前列左から)伊礼は19年から出演、小野田は前回まで演じていたアンジョルラスから役を替えての初挑戦、石井も2007・2009年に学生のひとりフイイ役などを演じていたが、ジャベールは初。
作品への意気込みを格闘技に例えて語る伊礼彼方伊礼は「色々なミュージカルがある中で、やっぱり特別な作品だし、ジャベールはドシっとした格闘家のような軸が必要になる役。3年前の稽古を思い出しながら、また新しいジャベールをお見せできるよう頑張りたい」と語り、役替わりの小野田は「稽古を重ね、マインドはジャベール仕様になっていますが、染みついたものはなかなか取れず。歌稽古中も何度かアンジョルラスが歌うところで前に出そうになって、アンジョルラス役の皆さんに迷惑をかけてしまっている」と笑いを取りつつ「本当にやればやるほど、この作品の大きすぎる存在に圧倒される。全く違う角度からこの物語に身を委ねることができて、非常に興奮しているのと同時に、身が引き締まる思いです」と話す。石井もまた「16年ぶりにこの作品にもう一度立つことができて光栄に思っています。誠実にジャベールを演じていきたい」と話した。
作品と共に成長してきたキャスト、念願の初参加キャストそれぞれの思いを胸にファンテーヌ役3人はいずれも初役ながら、昆夏美は2013年よりエポニーヌ役として出演、生田絵梨花は2017年からコゼットを、前回2021年はエポニーヌを演じファンテーヌで3役目。木下晴香は作品に初参加と三者三様。
ファンテーヌ役の昆夏美、生田絵梨花、木下晴香(前列左から)「ひとつの作品に違う役で出演することが初めてなのですが、その初めての経験を大好きな『レ・ミゼラブル』でできて嬉しい」(昆)、「コゼット、エポニーヌに続いて3役目の新しい挑戦です。初めて帝劇に立ったのはこの作品でコゼットを演じた時でした。今回のクロージング公演、ファンテーヌとしてしっかり踏みしめていきたいです」(生田)、「いつか『レ・ミゼラブル』に携われるように頑張ろうと思っていました。合格の連絡をいただいた時、自分はこんなにも『レ・ミゼラブル』の世界で生きてみたかったんだと強く感じたほど嬉しかった。ファンテーヌの壮絶な人生に覚悟をもって飛び込んでいきたい」(木下)とそれぞれ語る。
エポニーヌ役は2019年から3度目の挑戦となる屋比久知奈、初参加の清水美依紗、日本版には初参加ルミーナの3名。
エポニーヌ役の屋比久知奈、清水美依紗、ルミーナ(後列左から2番目~3番目)「1回目は必死で、2回目はそれを踏まえて何をできるか考えながら挑みました。今回はある意味初心に戻り、まっさらな状態でエポニーヌに向き合えたら」(屋比久)、「本当にドキドキしています。歴史の長い作品に関わることができてすごく嬉しい」(清水)、「帝国劇場のラストに、大好きな作品でエポニーヌとして参加できて光栄です」(ルミーナ)。
マリウス役は3度目の出演となる三浦宏規、初参加の山田健登と中桐聖弥の3人。
マリウス役の三浦宏規、山田健登、中桐聖弥(中央右から)「2019年の最初の出演の時は10代で、お兄さんたちに必死についていっていました。気付けばなんと(3人のうち)一番年上。先輩方に色々教えていただいたように、僕も何か伝えられたらいいなと思いますが、ふたりからもたくさんのことを学ばせていただこうと思います」(三浦)、「この作品に出会えたことに感謝して、謙虚に誠実に向き合っていきたい」(山田)、「どんどん稽古も進んでいて、先輩方や仲間たちと一緒に稽古に励んで、刺激を受けています。どんどん挑戦し、中桐聖弥らしいマリウスをお届けできたら」(中桐)。
十代で初めて本作に出演し、今回は同役キャストの中で最年長と感慨深げに語る三浦宏規(後列中央)バルジャンの養女となるコゼットは前回公演に続いての出演となる加藤梨里香と敷村珠夕、さらに大学在学中でこれがミュージカルデビューとなる水江萌々子が加わる。
コゼット役の加藤梨里香、水江萌々子、敷村珠夕(左から)「2度目のコゼットへの挑戦ですが、改めて一番緊張する作品だなと実感しています。また一からコゼットと向き合い、精一杯努めていきたい」(加藤)、「また『レ・ミゼラブル』の世界で生きられることが本当に嬉しい。歴史ある素晴らしい作品の一部となれるよう、しっかりお稽古と向き合います」(敷村)、「ミュージカル初出演ですごく緊張していますが、稽古を重ねる中で、コゼットは本当に愛に溢れた女性だと感じています。私がこれまでの人生でもらったたくさんの愛を糧にコゼットとして生きていければ」(水江)と挨拶を。
「本当は手が震えるくらいの思いで舞台に立っている。そんなメンバーだからこそ」小悪党の宿屋の主人テナルディエは、2003年から演じている駒田一、3度目の出演となる斎藤司、前回に続いて出演する六角精児、2017・2019年公演にアンサンブルとして出演し今回テナルディエとしては初挑戦の染谷洸太の4名。
「21年もしぶとくこの役をやらせていただいているが、今日、みんなの歌声聴いていたら、ちょっと涙が出てきてしまった。やっぱり素敵な作品です」(駒田)、「気付けば3度目の出演です。自分の環境、状況によって作品の受け止め方、感じ方が変わってくるなというのを感じてます。私の下にも六角君と染谷君という後輩が入ってきましたので、ふたりを指導しなくてはいけない(笑)。そのために今回はパワーアップし、横隔膜を4枚ほど増やしました(笑)。パワフルな声量で立ち向かいたい」(斎藤)
21年間に渡りテナルディエ役を務める駒田一3度目の出演となるトレンディエンジェルの斎藤司「前回は色々な事情でなかなかステージを踏めず、帝劇にも数回しか出ていない。よく考えたらほとんど覚えていないんです(笑)。今回は自分にも、お客さんにも記憶に残るような舞台にしたいです」(六角)、「またこの作品に帰ってこれて感謝の気持ちでいっぱいです。テナルディエは20代の頃からいつか演じてみたいと思い続けてきた役。尊敬する先輩方からたくさん学ばせていただきながら、自分らしく楽しみながら役を全うしていきたい」(染谷)と、それぞれの個性を出しユニークに挨拶。
「自分にも、お客さんにも記憶に残るような舞台にしたい」と語る六角精児テナルディエ役は20代の頃から念願だったという染谷洸太マダム・テナルディエはベテラン森公美子、前回に続いて出演の樹里咲穂、2013年から演じている谷口ゆうなの3人。森公美子(マイク中央)、樹里咲穂(左)、谷口ゆうな(右)
森は「1997年より27年間やらせていただいております。前回でこの役は最後だと思ってウルウルしていたのですが、また受かってしまいました(笑)」と笑わせながらも「今回は体力的にも本当に最後かなと思っています。精一杯マダム・テナルディエを生きていきたい。最後の私の晴れ姿を観に来てください」と話す。
樹里は「2回目なので、前回よりマダムの欲深さを増大させて、お客さまに楽しんでいただけるように精一杯頑張りたい」と意気込みを。谷口からは「10年以上この作品に関わらせていただいていますが、初めてマダムを演じたのは28歳の時。作品とともに齢を重ねていけることが幸せです。今回は私たちの宿屋のシーンで新しいこともやるという噂も聞いています。ぜひこれまでたくさん観に来てくださっている方も新しい面を楽しみにしていただけるよう、これからの稽古を務めます」と気になる発言も飛び出した。
「また受かってしまいました(笑)」と明かし会場を沸かせた森公美子(前列右端)学生たちのリーダー、アンジョルラスは前回に続いての出演となる木内健人、初参加の小林唯、前回はアンサンブルとして出演、今回アンジョルラスには初挑戦する岩橋大の3名。
木内健人(中央)、小林唯(右)、岩橋大(左)「前回はコロナ禍まっただ中で本来のスタイルではない稽古進行、公演自体も中止が何度かありお客さまに悲しい思いもさせてしまった。今回は全公演をまっとうし、お客さまに楽しんでもらえるよう頑張りたい」(木内)、「僕にとっての初めての『レ・ミゼラブル』、初めての帝国劇場。この劇場は、終わったら(来年には)解体されちゃうんですよね。それだったらもう思い切って、劇場をぶち壊す勢いで歌っていきたい」(小林)、「今回はアンジョルラスとアンサンブルの2枠やらせていただきます。自分としても未知数な部分がありますが、自分にできることを最大限にやって楽しんでいきたい」(岩橋)と話した。
最後にバルジャン役の吉原が「ひとりの人生の大河を演じるということは、精神的にも体力的にもエネルギーがいること。でも『レ・ミゼラブル』という作品は、最後に必ず浄化が待っている。神がいらっしゃって救っていただける、最後には幸福を得られるという役を僕は演じています。(バルジャンのように)正しい人であろうと生きることは非常にしんどいのですが、たぶん生きていくということ自体がしんどいこと。最近、子どもが生まれたのですが、その子どもがオギャーと出てきた時、なんて辛そうに泣くんだろうと思ったんです。でも人は楽がしたくて生まれてくるのではなく、自分の存在意義を探し、ひとりの人生を生きようとして生まれるのではないかなと思う。だからこの作品は、自分の人生を賭けて演じればしんどくて、適当にやれば楽になる。そしてこのカンパニーは、みんなが自分の人生と照らし合わせ、この舞台で勝負しようと意気込んでいる人たちなので……好きなんですよ。
吉原光夫初出演のメンバーには、辛さも怖さも苦しみもある作品だけれど、みんな同じ気持ちなんだよと言いたい。自分が辛いんじゃなく、みんなが辛くて、その辛さを隠すように袖でふざけたりしているけれど、みんな本当は手が震えるくらいの思いで舞台に立っている。そんなメンバーだから、いいチームになれるんだと思います」と、作品のテーマを絡め、作品愛、カンパニー愛を語って会見は終了した。新キャストの多いカンパニーだが、2024年も素晴らしい作品を届けてくれるだろうことを期待しよう。
吉原光夫が作品への思いとカンパニーへの思いを熱く語り会見を締めくくった帝国劇場での東京公演は12月16日(月) からはじまるプレビュー公演を経て12月20日(金) に初日、2025年2月7日(金) まで。その後3月から6月にかけ、大阪、福岡、長野、北海道、群馬でも上演される。
取材・文:平野祥恵撮影:塚田史香
<公演情報>
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子
訳詞:岩谷時子
【帝劇公演(東京公演)】
2024年12月20日(金) 本初日〜2025年2月7日(金) 千穐楽
※プレビュー公演:2024年12月16日(月)〜12月19日(木)
【2025年全国ツアー公演】
大阪公演:3月2日(日)~3月28日(金) 梅田芸術劇場 メインホール
福岡公演:4月6日(日)~4月30日(水) 博多座
長野公演:5月9日(金)~5月15日(木) まつもと市民芸術館
北海道公演:5月25日(日)~6月2日(月) 札幌文化芸術劇場 hitaru
群馬公演:6月12日(木)~6月16日(月) 高崎芸術劇場