10月のW杯アジア最終予選2連戦をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第109回のテーマは、10月のFIFAワールドカップ26 アジア最終予選について。アウェイのサウジアラビア、ホームのオーストラリアという強豪との2連戦を戦った日本。1勝1分けで連勝が止まった日本代表だが、「決してネガティブではない」というこの2戦を福西崇史が解説する。
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10月の代表ウィークで、FIFAワールドカップ26 アジア最終予選の第3、4節が行われ、日本はアウェイのサウジアラビア戦で2-0、ホームのオーストラリア戦で1-1という結果となりました。
まずは10日に行われたサウジアラビア戦ですが、アウェイの大観衆の非常にやりづらい中で、日本はうまく戦っての2-0という最高の結果だったと思います。なによりも大きかったのは、前半14分という早い時間帯に先制点を奪えたことです。これが日本にとって非常に展開を楽にしたと思います。
満員の観衆を背に、前から積極的に奪いに来る相手に対して、日本はMF守田英正からFW南野拓実への縦パスをスイッチに前進して右サイドで起点を作り、MF堂安律が左サイドの大外でフリーになったMF三笘薫へ絶妙なクロスを入れました。
三笘がそれをワンタッチで折り返し、前線に上がっていた守田がヘディングでさらに折り返すと、最後はMF鎌田大地が押し込みました。サウジアラビアの守備陣を三度左右に揺さぶり、見事に崩し切った場面でした。
左右の揺さぶりだけではなく、相手が積極的に奪いに来るのに対して、ボランチと3バックでうまくボールを出し入れし、相手を前後左右に走らせたことで体力を確実に奪っていきました。
そうした日本のゲーム運びを巧みに先導していたのが守田です。中盤で受けてボールをさばくだけでなく、ときに守備ラインまで落ちて相手のプレスに対して数的優位を作るなど、相手を見ながら状況に応じてポジションを取り、味方への指示も含めてどうやって優位が取れるかを常に考え、チームを動かしていました。
ビルドアップだけではなく、ボランチが攻撃へ行く、行かないという判断も的確だったと思います。先制点では南野が相手CBを釣り出すようにクサビのパスを受けると、守田はスルスルと前線に上がっていき、先制点のアシストにつなげました。闇雲に上がるのではなく、勝負どころを見極める判断はさすがでした。
守備ではサウジアラビアの左ウイングのサレム・アルダウサリのスピードは脅威でしたが、DF板倉滉のカバーリングをはじめ、3バックの安定感が際立っていたと思います。
そして15日に行われたオーストラリア戦ですが、相手が日本のことをリスペクトしてきたのか、5-4-1で日本のシステムに合わせ、かなりコンパクトなブロックを組んできました。まずは失点をしないという入り方をしてきて、崩すのは相当難しかったと思います。
そんな相手に対しても前半はかなり押し込めたことは、日本の能力の高さを物語っていたと思います。右サイドは堂安とMF久保建英、左サイドは三苫と南野という持ち味の違うコンビネーションでサイドを崩していきました。
それに対して、オーストラリアは左のDFジョーダン・ボス、右のルイス・ミラーの粘り強い守備だけでなく、インサイドハーフやボランチ、CBのカバーリングも合わせて、うまく守られました。
中央もしっかりと締められていて、サイドを突破、あるいはクロスを入れられたとしてもCBに高さのある選手を揃えていて、浮いたボールはことごとく跳ね返され、FWが良い形でシュートを打つ場面は作ることができませんでした。
守るだけではなくて、カウンターでの怖さもしっかりと見せていました。後半の相手に流れが傾いた中で、先制点はそのカウンターでの一発がオウンゴールにつながってしまいました。
そんな中でも日本は伊東純也、中村敬斗らキャラクターの異なるタレントを投入し、難しい展開でも同点に追いついたことは評価できると思います。
もっと中央から崩せればよかったと思う人もいると思いますが、あれだけ中央を固めてきた相手に対して、中を攻めるというのはカウンターのリスクが非常に高くなるし、それこそオーストラリアの狙い通りになってしまいます。
FW上田綺世は中央で起点になろうとしていたし、ハイラインの裏を狙う動きも積極的にやっていましたが、オーストラリアの裏のケアは速かったし、個々の能力は高かったですね。なにより集中力を90分切らさず、日本の攻撃を守り切ったのは見事だったと思います。
この引き分けによって日本の連勝はストップしましたが、サウジアラビアとオーストラリアを相手に1勝1分けは決してネガティブな結果ではないと思います。むしろあれだけ守られても1点を返せたのは、日本のレベルが上がったことを証明したと思います。
オウンゴール以外では3バック+ボランチの守備は安定感が抜群で、ウイングバックとインサイドハーフにより多くの攻撃的なタレントを起用できるシステムが機能したことで、前線のポジション争いはさらに激化してきました。
右サイドの久保と堂安のコンビは抜群で、伊東の突破力は相変わらず傑出していました。左サイドは同ポジションを争っていた三笘と中村が、三笘がインサイドに入ることで共存が可能になり、ウイングバックに前田大然を入れるという選択肢も生まれ、より幅が広がったと思います。
インサイドには他にも南野、鎌田と個性の異なるトップクオリティの選手がいて、森保監督はどの組み合わせがいいのかをまだ試している段階のようにも感じます。
もちろん、前線だけではなく、3バックも冨安健洋や伊藤洋輝が帰ってきたらどんな並びになるのか。森保一監督にとっては嬉しい悲鳴だと思います。11月はアウェイ2連戦ですが、どの組み合わせで挑むのか、今から楽しみです。
構成/篠 幸彦撮影/鈴木大喜
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