プレシーズン4試合で存在感を示した河村勇輝photo by Getty Images
メンフィス・グリズリーズと無保証のエグジビット10契約を結んだ河村勇輝(23歳)が、まずは順調な形でNBAへの挑戦をスタートさせている。Bリーグの横浜ビー・コルセアーズ、日本代表の司令塔として活躍して来たポイントガードは、世界最高のバスケットボールリーグでもプレーメイカーとしての力量の片りんを披露。まだプレシーズン(オープン戦)とはいえ、10月12日(日本時間13日)のシカゴ・ブルズ戦ではチーム最多の8アシスト、14日(同15日)のインディアナ・ペイサーズ戦では3本の3ポイントシュートを決めて自己最多の10得点、7アシストをマークするなど、印象的な活躍を続けている。
SNSの反応などを見ても、身長172cmという小柄なスピードスターはメンフィスのファン、関係者に力を認められてきた印象がある。
そんな河村のリアルな評価を知るべく、地元紙『メンフィス・コマーシャル・アピール』のグリズリーズ番記者、ダマイケル・コール氏に意見を求めた。メンフィス出身のコール記者はテネシー大出身の28歳。10月1日にトレーニングキャンプがスタートして以降、河村の新たな船出を見守ってきた気鋭のライターの言葉には説得力がある。
【予想以上だったガードとしての資質】ここまでのユウキはすばらしいプレーを続けています。プレータイムはそれほど長いわけではありませんが、そのなかで最大限のことをやっていると思います。最初の3試合で決めたフィールドゴールショットは1本だけでしたが、稀有なパス能力でチームにインパクトを与えていますね。見事なノールックパスでジェイ・ハフ、ザック・イディーといったビッグマンたちの得点を演出し、ファンを喜ばせるシーンもありました。ユウキのパススキル、センスはグリズリーズを助けられると思います。
ユウキのプレーは事前に予想していた以上のクオリティだったと言っていいと思います。いや、グリズリーズの周囲のほとんどの人間が、ユウキに関しては何を予測すればいいのかがわからなかったというほうが正確かもしれません。NBA選手としては破格に小柄で、224cmのイディーと並んだらサイズの違いは明らかなので、それも仕方のないことでしょう。どれだけやれるのか、とファンは好奇心を持って見守っていたと思います。
ふたを開けてみれば、クイックネス、パス能力、バスケIQには特筆すべきものがありました。メンフィスのファンも「この選手にチャンスを与えるべきだ」と言い始めています。正直、まだNBAレベルでの得点力には不安がありますが、グリズリーズでプレーするのであれば、ユウキが得点する必要はないのかもしれません。プレシーズンのブルズ戦ではフリースロー2本による2得点に終わりましたが、ハフ、ジェイレン・ウェルズといった同僚たちの力を引き出し、得点を稼がせていました。それを継続的に安定した形でできるのであれば、チームメイト、ファンはユウキに好印象を持ち続けるだろうと考えます。
【課題はディフェンスも楽しむ姿勢がプラスに】最大の長所を挙げるとすれば、そのパス能力でイージーショットを生み出せることでしょう。グリズリーズの控えメンバーに目をやると、ショットを自身でクリエイトできる(1対1から得点チャンスを作り出す)選手はそれほど多いわけではありません。チーム内でベストのショットクリエイターはモラント、デズモンド・ベーン、ジャレン・ジャクソンJr.、GG・ジャクソン。ポジション的な被りを考えれば、ユウキがモラントと一緒にプレーする機会はほとんどないはずです。ベーンと一緒にプレーすることも少ないでしょう。シーズン開幕後、ユウキがグリズリーズのゲームに出場することがあると仮定した場合、それは主力選手たちが休んでいる時間帯であることが想定できます。
そういった状況で、ユウキのプレーメイキング能力が助けになる可能性はあると思います。たとえばリーグ最高級のシューターであるルーク・ケナードは得意のロングジャンパーをお膳立てしてくれるパサーが必要です。セブンフッター(身長213cm以上の選手)ながらシュート力のあるハフにとっても、イージーショットを助けてくれる司令塔がいるに越したことはありません。ユウキは今後、新たなクリエイターと呼べる存在に成長する可能性があり、その意味でもグリズリーズへのフィットは良好なのです。
ただ、もちろんすべてが順調なわけではありません。課題を挙げるとすれば、やはりサイズ不足はディフェンス面でウィークポイントになると思います。
グリズリーズのディフェンスはスイッチすること(ボールの位置によって1対1でマークする対象選手を替えること)が多いのですが、ユウキがフロアにいる際、相手オフェンスに上手にボールを回され、オープンショットを生み出されるケースは何度か見受けられました。また、ユウキがハイポスト(フリースローライン近辺)で相手をガードした際、その選手に容易にパスを出されてしまうケースもありました。ユウキは自分なりの方法でディフェンスでも貢献を果たそうとするはずで、ブルズ戦では綺麗にスティールも決めていました。ただ、複数のポジションを守れる選手ではなく、ディフェンス面の多才さに欠けていることは弱点ではあると思います。
また、得点力の面ではまだ安定したものを見せてはいないことは少々気になります。これまで述べてきたとおり、周囲のためにクリエイトすることは上手ですが、自身でシュートを打つ機会、またその機会を作り出す場面が多いわけではありません。必要に応じてジャンパーを決めることはパスゲームの助けにもなるので、改善は必要でしょう。
ここまでシーズンに向けた準備を進める過程で、グリズリーズのチームメイトたちからユウキが愛されていることは印象的でした。ユウキがいると、大抵いつも選手たちは楽しそうに笑顔で言葉を交わしているんです。みんな英語のスラングをユウキに教えたりして楽しんでいますよ。そうやって人に好かれるというのも大切な要素です。
ヘッドコーチのテイラー・ジェンキンスはユウキのエナジーを絶賛していましたが、あまり自身を真剣に捉えすぎず、イージーゴーイングな点も好感が持てます。もちろん真剣にプレーはしますが、楽しむことが好きなグリズリーズに、性格面でもフィットしているように思います。そんなグリズリーズに今後、ユウキがどうやって貢献していくか、仲間たちとどんなケミストリーを奏でるか、私も楽しみに追いかけていきたいと思っています。
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