10月16日(水) 11:00
「石破さんが自民党総裁に選出された直後、株価が大幅に下落したことで“石破ショック”と呼ばれました。
しかし、石破首相が自前の政策をこのまま推し進めるのであれば、短期的には『円高・株安』の流れになりやすいでしょう」
こう話すのは、市場の動向に詳しい経済評論家の加谷珪一さんだ。
10月1日の臨時国会で第102代首相に選出され、その後に新内閣を発足した石破茂首相(67)。
前日9月30日の東京株式市場では、日経平均株価が大幅下落し、終値は1千910円安の3万7千919円に。
円相場は1ドル143円台の取引となり、夏場までの円安から一転、「円高・株安」の様相なのだ。
「アベノミクス以後10年、日本は金融緩和策を取り続け、株価を上げて景気の上昇を見込んできました。
しかし結果、物価だけが上がって、国民の所得はほとんど増えませんでした」(加谷さん、以下同)
その一因は、アメリカと日本の「金利差」にあるという。
「アメリカは2022年に金融引き締め(金利を上げる方向)にシフトしましたが、日本は、金融緩和でマイナス金利やゼロ金利の政策を続けてきたため、日米で金利差が拡大しました。
するとアメリカドルが買われ、円は売られました。その『円安』で、日本企業の輸出売上が増え、株価も上がった。それで『円安・株高』状態になったのですが、その利益分だけでは思うような賃上げに結びつかなかったんです」
そんななか、就任した石破首相の政策は「金融引き締め」なのだという。
「石破さんは、ご自身の政策案としても利上げに積極的でした。
7月には一時1ドル160円台にまで円が下落しており、円の価値を維持するため日銀も金融引き締めをしたい状況でしたので今後は徐々に金利を上げていくでしょう。
すると円高となり、海外輸出が強みの日本企業の業績は悪化し、株安の傾向になると思われます」
■国民全体の所得は上昇しているはず
では、石破首相が進めようとしている「金融引き締め」ひいては「円高・株安」は、私たちの暮らしにどう影響するのだろうか。
加谷さんは、「石破首相が自前の政策を進められること」を前提に、次のように見立てる。
「まず、これまでの数年間ずっと値上げされっぱなしだった、食品など、私たちの主要な購入品は、来年以降、値上げ幅が小さく、緩やかになると思われます」
これは、私たちには朗報だ!
帝国データバンクが発表した10月の値上げ食品は、主要食品メーカー195社でなんと2千911品目にものぼる。
「10月1日~」の値上げ各カテゴリーには、お菓子や飲料、ハム・ソーセージなど、食卓の必需品が相変わらず並ぶ。なかには30%以上値上げする品目もあるが……。
「これらの食品がここ数年、ずっと値上げが続いていたのは、世界的な物価の上昇、燃料費の高騰などの影響に加えて、円安による原材料費の輸入価格の高騰が大きな要因でした。
食品の中には原材料費が販売価格の6~7割を占める品目もあり、輸入価格は販売価格に大きく影響します。よって、石破政権で円高になることで、いままでのような値上げの波が緩やかになることが考えられます」
一方で、2025年も値上げの傾向が続く項目もあると、加谷さんは見立てる。
「石破首相は所信表明演説で『さらなる賃金上昇』『最低賃金=時給1千500円(全国平均)』を目指すとしました。
各企業は『賃上げ』を迫られ、社員・従業員への支払いが増加することになります。
すると人件費などサービス料が販売価格の多くを占める業種は、値上げせざるをえない方向になるでしょう」
その「人件費・サービス料」が多くを占める業種といえば、日本郵便、宅配業、公共交通機関、そして家事代行サービスや習い事の教室、スポーツジムなどが挙げられる。
ただ加谷さんは、「これらの業種の値上げは、根底に社員の賃上げがある」として、次のようにつなげる。
「石破さんの理想は、まず賃上げで社員や従業員の給料が上がることが前提です。そのうえでの一部業種の値上げですので、首相の思惑どおりにいけば、国民全体の所得は上昇しているはず。 まずは石破経済対策のお手並み拝見というところでしょうか」
10月27日投開票予定の衆院総選挙までに、私たちは新政府の政策や国会の動向を注視する必要があるだろう。