第37回東京国際映画祭で特集上映が行われる入江悠監督、『あんのこと』は「自分のフィルモグラフィのなかで特別な一作」

入江悠監督、「自分がどのように映画と向き合っていくかを考えるきっかけになれたら」と映画祭への意気込みを語った

第37回東京国際映画祭で特集上映が行われる入江悠監督、『あんのこと』は「自分のフィルモグラフィのなかで特別な一作」

10月15日(火) 19:09

10月28日(月)~11月6日(水)に開催される第37回東京国際映画祭(TIFF)のNippon Cinema Now部門で入江悠監督の特集上映が行われる。10月15日には日本外国特派員協会で特集に向けた会見が行われ、入江監督と東京国際映画祭チェアマンの安藤裕康、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三が登壇した。
【写真を見る】TIFFでの特集上映に向けた会見で『あんのこと』を振り返った入江悠監督

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2009年の自主制作による『SR サイタマノラッパー』(08)が大きな話題を呼び、以降ジャンルの垣根を越える形で振り幅の大きい野心作を次々と撮り続けている入江監督。今年公開された『あんのこと』も話題となり、この日は会見後に、同作の英語字幕付き上映も行われる。『あんのこと』は、実在の女性をモデルに、虐待の末に薬物に溺れながらも、更生の道を歩み始めた矢先にコロナ禍によって運命を変えられていく主人公、杏(河合優実)の人生を描く衝撃の人間ドラマ。キャストにはいま最も注目を集める俳優の一人となった河合をはじめ、佐藤二朗、稲垣吾郎ら実力派が集結。杏という女性を通していまの社会の歪みを容赦なく突きつける本作は、公開後に大きな反響を呼んだ。

東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三が、入江悠監督を紹介

市山は「『SR サイタマノラッパー』というインディペンデントな映画でスタートし、その後はインディペンデントな作品、大きな商業的な作品の両方を行き来しながら撮っている、すばらしい監督」と入江監督を紹介し、「今年は『あんのこと』を作られ、これも大変すばらしい作品。この作品ができたことをきっかけに、入江監督のこれまでの足跡を振り返る企画を組もうと思った」と明かした。続けて「入江監督の作品歴のごく一部ですが、皆さんにぜひ入江監督の作品を発見していただくきっかけにしていただきたい。『SR サイタマノラッパー』はシリーズの3作、全部を上映します。ぜひ3本続けて観ていただきたい。毎回サプライズがある映画なので、今回その3本を一緒に上映できることがすごく幸せです」とラインナップに胸を張っていた。

「この光栄を思う存分に味わいたい」と語った入江悠監督

「日本にはすばらしい監督がいっぱいいて、作家性のある方が同世代にもたくさんいる。正直、なぜ自分が選ばれたんだろうと困惑したところもある」と打ち明けて会場に笑いを誘った入江監督は、「人生に何度もありそうな話でもないので、この光栄を思う存分に味わいたい」と笑顔。「『あんのこと』ができて、この作品は自分のフィルモグラフィのなかで特別な一作になる気がしている。そのタイミングで呼んでいただけて、うれしく思っています」と喜びをにじませ、「特集をしていただけるということで、この映画祭の期間が、今後自分がどのように映画と向き合っていくかを考えるきっかけになれたらいいなと思う」と自身の足元を見つめるきっかけにもなりそうだという。また『あんのこと』だけでなく、コンペティション部門作品の『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』、『敵』にも河合優実が出演していることがわかると、会場からも驚きの声があがっていた。

今年の釜山国際映画祭ではストリーミングが存在感を示していたことから、記者からはストリーミングが映画祭に及ぼす影響について質問が上がるひと幕もあった。市山は3年前から始まった配信作品を上映する「TIFFシリーズ部門」を設けたことで、「配信作品ですばらしいものがあった場合には、TIFFシリーズ部門で上映をしている。バランス的に大きな問題は起きていないと感じています」とコメント。「ストリーミング作品を手掛ける予定はあるか?」と聞かれた入江監督は、「今年の夏にシリーズをひとつ撮りました」と切りだし、「スタッフなど作り手側としては、テレビドラマ、ストリーミング、映画という垣根がかなりなくなってきている。僕らは、映画とはなんなのかをもう一度定義しなければならない時代に来ている気がします」と語った。加えて「人材の育成、女性の活躍に焦点を当てて映画祭を展開していく」と意気込みを口にした安藤は、今年の東京国際映画祭も「興味深い映画がたくさんある。ぜひ足を運んで、たくさんの映画を観ていただきたい」と呼びかけていた。

第37回東京国際映画祭は、10月28日(月)~11月6日(水)まで、日比谷、有楽町、丸の内、銀座地区にて開催される。

取材・文/成田おり枝


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