世界中で社会現象を巻き起こした『ジョーカー』(19)でオスカー俳優の仲間入りを果たし、その5年ぶりの続編となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(公開中)でふたたび“悪のカリスマ”ジョーカーを演じたホアキン・フェニックス。今年の10月28日で50歳を迎える彼は、子役時代から40年以上のキャリアを持ち、映画やテレビ作品を含め出演作は50本以上にのぼる。
【写真を見る】子役デビューから兄の死、まさかのラッパー転向を経てオスカー俳優へ…ターニングポイントとなった作品は?
そこで本稿では、この大きな節目を記念し、ホアキンの代表作をピックアップしながら、その俳優としての半生をいっきに振り返っていきたい。
■8歳で子役デビュー!キャリア初期から秀作ぞろい
兄は早世のスター、リヴァー・フェニックス。姉のレイン・フェニックスと妹のサマー・フェニックスも俳優として活躍し、もう1人の妹リバティ・フェニックスも子役として活動していた時期があるというフェニックス家5人きょうだいの第3子として1974年10月28日にプエルトリコで生まれたホアキン。8歳で子役デビューを果たすと、“リーフ・フェニックス”の名義でテレビシリーズを中心に活動。当時の代表作のひとつは「新・ヒッチコック劇場」の「父親暗殺計画」だろう。
スクリーンデビューを飾ったのは、ケイト・キャプショーが主演を務めたSFアドベンチャー映画『スペースキャンプ』(86)。NASAで開かれた夏休みのスペースキャンプに参加した子どもたちと女性インストラクターが、ひょんなことから宇宙へ旅立ってしまうという物語で、ホアキンはスペースシャトル発射のきっかけとなるいじめられっ子のマックスを演じていた。配信サービスなどでは配信されていないため鑑賞機会に乏しい作品ではあるが、見応え充分の良質な一本だ。
“リーフ・フェニックス”時代には、ほかにもスティーヴ・マーティン主演のホームコメディの傑作『バックマン家の人々』(89)などに出演したが、15歳で一度俳優活動を休止する。そして、俳優への復帰を勧めてくれていた兄のリヴァーが、ホアキンの19歳の誕生日の直後に麻薬の過剰摂取によって死去。メディアから追いかけ回される日々を過ごした後、リヴァーの代表作『マイ・プライベート・アイダホ』(91)を手掛けたガス・ヴァン・サント監督の『誘う女』(95)から“ホアキン・フェニックス”として俳優活動を再開する。
同作では、ニコール・キッドマン演じるキャスターの女性スーザンに誘惑され、彼女の夫を殺害する高校生のジミーを演じたホアキン。ファム・ファタールを演じたキッドマンの演技が批評家から大絶賛されたことで作品自体の評価も高く、ホアキンの俳優としての飛躍の大きな足掛かりとなったことは間違いないだろう。
■演技派としての才能を覚醒!一躍賞レースの常連俳優に
最大の転機が訪れたのは、リドリー・スコット監督の『グラディエーター』(00)。撮影当時24歳と、兄リヴァーの年齢を上回ったホアキンは、ラッセル・クロウ演じる主人公の宿敵となる皇帝の息子コモドゥスを演じ、数々の映画賞を受賞。アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされた。
そこから数年間は、M.ナイト・シャマラン監督の『サイン』(02)や『ヴィレッジ』(04)などのヒット作や、ディズニーアニメ『ブラザー・ベア』(03)の声優を務めるなど充実したフィルモグラフィが続き、実在のカントリー歌手ジョニー・キャッシュを演じたジェームズ・マンゴールド監督の『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』(05)でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。俳優として円熟味を増す30代の幕開けはかなり明るいものになると思われていた。
ところが2008年秋、ホアキンは突如として俳優を引退し、ヒップホップアーティストに転向。ライブで観客と乱闘騒ぎを起こすなど奇行を繰り返し、将来性抜群の演技派俳優から一転し、“お騒がせセレブ”の1人としてあらぬ注目を集めることになる。しかしこの一連の騒動は、親友であったケイシー・アフレックが監督を務めた『容疑者、ホアキン・フェニックス』(10)というフェイク・ドキュメンタリーのための手の込んだ演出であったことが判明。
かねてから丹念な役づくりをすることでも知られていたホアキン。お騒がせ続きの2年間を経ての復帰後、急激な覚醒をとげることとなる。まずはポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』(12)で、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる男に傾倒する青年を鬼気迫るほどの演技で観客をくぎづけにし、ヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞。アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされる。
翌年にはAIに恋をする男性を演じた『her 世界でひとつの彼女』(13)、さらにその翌年にはアンダーソン監督と再タッグを組んだ『インヒアレント・ヴァイス』(14)の風変わりな私立探偵役と高評価を連発し、たちまち賞レースの常連俳優となる。複雑なトラウマを抱える元FBI捜査官を演じた『ビューティフル・デイ』(17)ではカンヌ国際映画祭の男優賞に輝き、三大映画祭制覇へリーチをかけると、『ジョーカー』という一世一代の当たり役を得てアカデミー賞主演男優賞の栄光を勝ち取ることとなった。
アカデミー賞授賞式のスピーチで「演技をすることは、私にすばらしい人生を与えてくれました。もし俳優をしていなかったら、私はどうなっていたのかわかりません。演技がもたらす最大の贈り物は、自分たちの声を、声なき者たちのために使うことです」と、ジェンダーや人種、環境問題など、世界中に蔓延するあらゆる問題に言及したホアキンは、「愛をもって救え。そうすれば平和がやってくる」と、兄リヴァーの書いた歌詞を引用し世界中の感動を誘った。
これまで4作品でタッグを組んだジェームズ・グレイ監督や、近年久々の再タッグを果たしたガス・ヴァン・サント監督やリドリー・スコット監督。さらにはアンダーソン監督やアリ・アスター監督、そして「ジョーカー」シリーズのトッド・フィリップス監督など、巨匠と呼ばれる監督から世界中の映画ファンが注目する鬼才まで、多くの映画監督から絶大な支持を集めるのは、表情ひとつ動きひとつで多くのことを語るその計り知れない表現力の持ち主だからにほかならない。
最新作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では前作に続いて大幅な体重の減量に挑み、前作とは異なるベクトルの怪演を披露。次回作ではエマ・ストーンと共演するアスター監督の『Eddington』や、パートナーであるルーニー・マーラと共演する『Polaris』と『The Island』などが待機しているホアキン。50歳という人生の大きな節目を越え、さらなる進化をスクリーン越しに見せてくれることだろう。今後も俳優ホアキン・フェニックスの動向から目が離せなくなりそうだ。
文/久保田 和馬
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