ダイナミックな“音“も主役な『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の立役者、サウンド・デザイナーを独占取材!

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』音響監督の言葉から、本作の音に込められたこだわりに迫る/[c]2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

ダイナミックな“音“も主役な『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の立役者、サウンド・デザイナーを独占取材!

10月13日(日) 11:30

分断された近未来のアメリカを描いたA24作品『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が公開。先に公開されたアメリカでは大ヒットを記録した本作は、アカデミー賞を席巻した『エクス・マキナ』(15)のアレックス・ガーランド監督作。衝撃的な設定やドキュメンタリータッチの映像と共に、大きな話題を呼んでいるのがサウンド・デザイン=音響効果。恐怖すら感じさせる効果音の数々が、映画にさらなるリアリティを加えている。そこで本作のサウンド・デザイナーのグレン・フリーマントルにリモート取材。音響効果から見た本作の魅力や見どころを解き明かす。
【写真を見る】音で体感する戦争の残酷さ…リアルが追求された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響効果

■戦争の残酷さ、醜さを表現した音響効果

連邦政府から19の州が離脱し、テキサス・カリフォルニアの同盟からなる西部勢力と、大統領が率いる政府軍による内戦が勃発したアメリカ合衆国。ニューヨークに滞在中の戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)とジャーナリストのジョエル(ワグネル・モウラ)は、ベテランの知恵袋サミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)や駆け出しカメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)と共に、大統領への単独取材を敢行するためワシントンD.C.に出発した。その道すがら、彼らは分断し歪んでしまった祖国の現実を目の当たりにする。

ワシントンD.C.が近づくにつれ、車内の緊張感も高まっていく

分断され内乱状態に陥ったアメリカを舞台にした本作は、国民どうしがいがみ合い殺し合うカオスと化した状況が戦場カメラマンたちの目を通して描かれる。まず度肝を抜かれるのが映画の序盤、ニューヨークで起きる自爆テロだ。住民と警官隊が小競り合いをする人だまりに星条旗を掲げた女性が走り寄った次の瞬間、乾いた爆発音と共に人々が四方に吹き飛ばされる。フリーマントルは本作の音響効果のテーマについて、戦争の残酷さや醜さをいかにリアルに音で描くかだと語ったが、それを思い知らされるのがこの惨劇。爆音が鳴り響いたあと、思考停止したように無音のまま10秒以上にわたって映像だけが流れていくが、大音響と静寂の強烈なコントラストは全編にわたり貫かれている。その静寂を破るのは、血まみれの犠牲者たちに向かってリーが切るシャッター音。決意表明するような衝撃的なシーンで本作は幕を開ける。

■銃撃の反射音まで計算…リアルが追求された“環境音”

静と動のギャップも印象的な本作

リーたちが目指すのは、殺し合いの最前線ではなく大統領のいるホワイトハウス。半壊した車で埋め尽くされたフリーウェイ、スーパーマーケットの駐車場で朽ち果てた軍のヘリコプター、遠くで聞こえる機関銃の音…いわゆる“戦争映画”とは一線を画した静かなシーンが印象に残る前半で、冒頭の自爆テロと並ぶ見せ場が、リーたちが同盟軍兵士に密着する銃撃戦だ。耳をつんざく銃声は、思わず身をすくめてしまうほど暴力的。これら銃声、爆発音から車両音まで、実際に銃を撃ったり走らせたりするなど録音可能なものはすべて本物の音が使用されている。

ただし自動小銃M16を連射すると、その音量は160デシベルに達するという。プロペラ機のエンジン音が120デシベルなのでかなりの大音量。フリーマントルは可能な範囲で音量を近づけたというが、彼が音単体の質感と共に重視していたのが環境音だった。この銃撃戦の舞台は鉄筋コンクリートの柱が並んだ無骨な建物。ここで銃を撃ったらどの方向からどんな反射音が返ってくるか、細かく計算することでその場にいるかのような臨場感を生みだした。さらに銃を撃った瞬間に兵士が感じるショックウェーブ(反動音)が重低音で加えられている。リアルな環境音は、多くのシアターに浸透している立体音響システムDolby Atmosによって可能になったという。

作中でもトップクラスの緊張感がある、同盟軍兵士との突入シーン

このシーンには、被弾した仲間の出血を止めようとした兵士が傷口を押さえると、「ピュー」という音と共に勢いよく血が噴き出す様子も挿入されている。この効果音はフリーマントルらサウンド・デザインチームのイマジネーションの産物。傷の直接描写はないが、音の効果で衝撃的なカットに仕上がった。フリーマントルは戦場をリアルに体験してもらうため、アメリカ海軍特殊部隊Navy SEALsの隊員に協力を要請。実際の戦場を知る彼らの体験が、本作のリアリティを支えているのだ。

■必要とされる音だけが厳選された、ミニマムな音づくり

『スラムドッグ$ミリオネア』(08)などダニー・ボイル監督作の常連で、「ファンタスティック・ビースト」などブロックバスターから『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(23)など音楽映画まで多彩なジャンルで活躍しているフリーマントル。宇宙空間を描いた『ゼロ・グラビティ』(13)ではオスカーに輝いた巨匠は、本作でサウンド・デザイナーのほかスーパーバイジング・サウンド・エディターとしてクレジットされている。担当する範囲は作品ごとにまちまちなので肩書は単なる呼び名だという彼は、自分の役割をサウンド・デザインチームを率いて監督のビジョンをリアルな音に作り上げるまとめ役だという。

今回オンラインで取材に対応してくれた、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響監督、グレン・フリーマントル

そんなフリーマントルが常に心掛けているのが、聞くだけでなく感じてもらえる効果音。映画のなかの状況に身を置いてもらえるよう、耳だけではなく頭や心に伝わる音作りを意識していると語る。最も好きなスタイルはミニマムな音づくりで、その理由はいくつものメインディッシュを一つの皿に並べると豪華に見えるがバランスが悪くなるからだという。本作の作業にあたりアレックス・ガーランド監督と話し合ったのは、楽曲を含め音を絞り込むこと。本当に必要とされる音だけを選び、映像に乗せるというフリーマントルのスタンスが本作でも貫かれている。

■ガーランド監督が求めたのは、映像に“合う”音ではなく、“高める”音

映画づくりにおいて、不必要な干渉はせず、各部門の専門家に任せるスタイルが多いという『シビル・ウォー』のガーランド監督

『エクス・マキナ』『MEN 同じ顔の男たち』(22)でもガーランド監督と組んできたフリーマントル。「28日後...」シリーズの脚本で脚光を浴びたガーランドが、ボイル作品の常連であるフリーマントルを起用しているのは自然な流れといえる。ガーランド作品の音使いの特徴を聞くと、感情を伝えるための効果音という答。映像にぴったり合う音ではなく、映像をより高めてくれる音を求めているという。

そんなガーランドのスタイルは、各パートのエキスパートに委ねること。『エクス・マキナ』でフリーマントルは編集の調整段階のラフカットを渡され、アンドロイドのエヴァがどんな動作音を立てるのか効果音を一任されたという。チューリングテストに来た若者が複雑な感情を持つエヴァに惹かれていく展開から、フリーマントルは水やクリスタルボウルなどを使って繊細で美しい動作音を作成。エヴァの圧倒的な存在感に大きく寄与した。

【写真を見る】音で体感する戦争の残酷さ…リアルが追求された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響効果

映画のクライマックスはワシントンD.C.での市街戦。ヘリや装甲車、戦車も動員したこのシーンには多彩な音響効果が投入され、戦場のまっただなかに投げ出されたような臨場感が味わえる。一方、中盤でジェシーたちが白人至上主義の民兵たちに拘束されるシーンでは、たった一発の銃弾の怖さがこれでもかと強調されている。シーンや流れに合わせ緻密に組み立てられた音響効果を意識しながら味わうのも、本作の楽しみなのである。

取材・文/神武団四郎


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