10月25日より全国公開となる劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』。本作は、1995年に「坊っちゃん文学賞」大賞を受賞した敷村良子の同名小説が原作。転校生の熱意をきっかけに、廃部だったボート部を幼なじみやクラスメイトと共に復活させて、練習に励む少女たちの青春を描く。クランクイン!では、主人公・村上悦子(悦ネエ)役を演じる雨宮天と、悦子と幼なじみの佐伯姫(ヒメ)役を演じる伊藤美来による対談インタビューを実施。時代を超えて新たに描かれる本作の魅力や、お芝居のこだわりについてたっぷりと語ってもらった。
【写真】雨宮天&伊藤美来のインタビュー撮りおろしが満載!
■アニメで描かれる新たな魅力
――初の劇場アニメーション化にあたり、現代に設定を変えて描かれる本作。シナリオを読まれた際の印象や魅力に感じた部分は?
雨宮:王道の青春ストーリーでありながら、非常に繊細な部分まで描いているところに驚きました。キャラクターたちの心情表現がとても細やかで、ボートという大きなテーマがありながらも、日常の中にある青春や心の機微が緻密に表現されているなと感じました。
伊藤:実写のイメージが強い作品だったので、令和にアニメ化されることに最初は驚きました。実写映画やドラマで描かれていたボート部のキラキラした青春や、思春期ならではの葛藤が、現代の背景を取り入れながらアニメならではの表現で新しく描かれているところが、今回の劇場版『がんばっていきまっしょい』の魅力だと思います。
――今回CGでのアニメ化となっていますが、美しい3D空間の演出も非常に印象的でした。雨宮さんは舞台である愛媛県松山市を実際に訪問されたんですよね。
雨宮:本当に行けてよかったです。2日間かけて作中に出てくる場所を巡らせていただいて、松山の景色がどれほど忠実に再現されているかを実感しました。地元の方が見れば「あ、ここだ!」とすぐに分かるでしょうし、アニメを見た方も実際に訪れてみたくなると思います。キャラクターが座っていた場所や歩いていた場所をそのまま楽しめるので、聖地巡礼の旅もおすすめです。
伊藤:いいな〜。私はまだ実際に松山には行ったことがないので、映画の中で描かれる海の美しさや、少し年季の入った部室の雰囲気などを早く体験してみたいです。行ったことがない方でも、アニメを見て、松山はこんなに素敵な場所なんだって、行ってみたくなると思いますね。
――そんな写実的な絵づくりだからこそ、キャラクターの声も実写に近い自然なニュアンスで表現されているように感じました。
雨宮:そうですね。とくに私の演じる悦ネエはローテンションなキャラクターなので、アニメ特有の表現に頼りすぎないように演じています。普段使っているような音や表現を使うと感情が伝わりやすいのですが、この作品は日々の気分や小さな変化を繊細に描いているので、今回はもっとリアルな音や、等身大の女子高生ならどんな声を出すのかを突き詰めて考えながら演じました。
伊藤:私もそらっち(雨宮さん)と同じく、実写に近い自然なお芝居を心がけました。私が演じるヒメは裏表がなく、誰からも好かれるような明るく優しい性格で、悦ネエやほかの子たちの表情もよく見て気遣いができる子なんです。とくに幼なじみである悦ネエのことはお母さんのような立ち位置から見守っていて、作中で描かれる彼女の成長や葛藤も隣で見ながら献身的に支える姿が印象的でした。
――ヒメは悦ネエにとって心の支えになっていましたよね。
雨宮:悦ネエも客観視はできていないものの、それはすごく感じていたと思います。いつも一緒にいて悦ネエのことを理解してくれているからこそ、必要なことは言ってくれるけれど、踏み込んでほしくないところには踏み込んでこない。そんな自然とそばにいてくれる存在で。とくに序盤の悦ネエは“自分とヒメの世界”に生きている印象を受けたので、彼女には最初から心を開いている感じを意識しました。
■リアルな状況を意識した声の出し方
――リー(CV:高橋李依)、ダッコ(CV:鬼頭明里)、イモッチ(CV:長谷川育美)も含めた5人の関係性について感じたことは?
伊藤:みんな、自分の気持ちに正直でまっすぐなんです。「負けたくない」とか「もっと上手くなりたい」とか、そんな強い思いを持っている素直な子ばかりで。
雨宮:たしかに。みんな個性がとても強く、それぞれがしっかりとしたパワーを持っているからこそ、物語を動かす原動力になっていて。悦ネエもそんなみんなから影響を受けて気持ちを動かされる部分が大きかったなと思います。
伊藤:悦ネエは最初、少し冷めたところがあって、「こんなに頑張っても……」と疑問を感じている部分があるんですが、みんなのまっすぐな気持ちに触れていくうちに、徐々にその距離が縮まって、やがてワンチームになっていく。その過程が見ていてすごく気持ちいいなって思いました。
雨宮:そうだね。あと、5人で喫茶店に行くシーンが度々あるのですが、そのときの会話のテンポや雰囲気から、みんなの性格は違うけれど、波長がぴったり合っている感じが伝わってきて、絶妙なバランスの5人組だなと感じましたね。
――そんな中、悦ネエとリーが衝突するシーンもありましたが、暖かさで満たされていた関係が、一瞬で冷え込んでしまうようなあの空気感や心情表現も非常にリアルだなと感じました。
雨宮:あのシーンは、すでに絵がかなり出来上がった状態で収録したので、私自身もその雰囲気に引き込まれました。心が痛むし、ムカつくし、自分が悪いと分かっていても、どうしても謝りたくないという、すごく複雑な感情が混ざり合っていて……。
悦ネエも友達と喧嘩をすることに慣れていないので、緊張感から思うように声が出なかったり、上ずったりするだろうと想像しながら、自分の体験を引き出して、感情を前面に出すのではなく、リアルな状況での体の反応や声の出し方を意識して、こだわって演じました。
――ヒメ視点でも心が痛む状況でしたよね……。
伊藤:そうですね。自分が怪我をしたことよりも、そのことで悦ネエが沈んでしまう姿を見ているほうが辛くて……。大人からすれば大したことない問題も、この子たちの世界ではとても深刻な問題として描かれていて、演出や音楽も相まって、私もその中に引き込まれる感じがしました。
雨宮:ヒメもよく突っ込まずに一緒にいられるよね。変に悦ネエを改心させようとせず、ボート部に入部する前の状態に戻ったかのように普通に一緒に過ごして、よそよそしい気遣いをせずに相手に気を使わせないのがすごいなって。
伊藤:本当にね。自分は全然大丈夫なのに……みたいな気持ちもヒメの中にあったと思うんですけど、そんな状況の中でもボート部を良くするために、周りを見て冷静に対応して、自分よりもみんなのために動いていたイメージがあります。
■お芝居とボート競技の共通点
――作中には「一艇(いってい)ありて一人(いちにん)なし」(ボート競技はどんなに苦しくても動きを一つにし、心を一つにしないと進まない)というボート用語が出てきますが、ご自身の中でこれに近いと思う経験はありますか?
雨宮:お芝居って、それに近いところがあると思います。自分が投げかけたセリフに相手が反応してくれないと、掛け合いがうまくいかなくなってしまうんです。見ている方がそこまで細かく気づくかは分からないんですけど、演じている側としては、テンポ感やセリフのキャッチボールがすごく大切だと感じています。
新人の頃は自分も相手の会話を聞く余裕がなく、家で練習してきたものをそのままやっていたのですが、それだと会話のテンポが気持ちよくならないことに気がついて。たとえば、2人で会話しているのに一方が遠くから話しかけ、もう一方がささやくように話すとおかしいですよね。そういう”あべこべ感”があると、やっぱりうまくいかないんです。
――お芝居もコミュニケーションですからね。
伊藤:私もそう思います。アフレコ現場でもそうですが、とくに朗読劇などでは一層感じますね。ステージの上での掛け合いはより生物感があって、照明や音響も含めて全てが息を合わせないと進まないんです。SEの後にセリフを言うタイミングや、お客さんの笑いを待つタイミングなど、全てが板の上で一体になるような感覚になります。
雨宮:たしかに。技をセリフで出しているのにSEが出ないと、「いつ発動するのかな……」ってなるよね(笑)。
伊藤:「しかし、なにもおこらなかった……」みたいな(笑)。
――そうしたお話を聞くと、本当に総合芸術だなと思いますね。最後に、映画の公開を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。
雨宮:まずは美しい絵に圧倒されると思います。カメラワークも非常に凝っていて、広がる景色やボートに乗っているときの海の風景など、臨場感がとにかくすごいんです。そして、その先に描かれるキャラクターたちの心理描写もとても繊細で、胸の深い部分にグッと刺さるような共感できる部分がたくさんあると思いますので、ぜひ劇場でその両方に没入しながらお楽しみください!
伊藤:『がんばっていきまっしょい』は、昔から多くの人に愛され続けてきた作品で、今回の劇場アニメでもその魅力がしっかりと受け継がれています。原作をご存知の方には、懐かしさと新しさを感じていただけるリメイクになっていますし、初めてこの作品に触れる方も、彼女たちの青春の輝きや一生懸命な姿にきっと共感できると思います。劇場で見ることで、音や映像がより一層心に響いてくるので、ぜひ足を運んで楽しんでいただければと思います。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』は、10月25日より全国公開。
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