イリがやって来るヤァ! ヤァ! ヤァ!【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

G2P-Japan訪問ツアーを終え、東京の私のラボに戻ってきてのラボパーティーでの一幕。イリと出前…

イリがやって来るヤァ! ヤァ! ヤァ!【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

10月12日(土) 8:00

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G2P-Japan訪問ツアーを終え、東京の私のラボに戻ってきてのラボパーティーでの一幕。イリと出前寿司。期せずして「す○ざんまい」の社長のようになった

G2P-Japan訪問ツアーを終え、東京の私のラボに戻ってきてのラボパーティーでの一幕。イリと出前寿司。期せずして「す○ざんまい」の社長のようになった

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第70話 G2P-Japanの一員でもある海外の研究者を、日本に招待することになった。全国にメンバーが散らばるG2P-Japanの特性を活かし、日本各地をめぐる。そんな彼が、来日でいちばんダメだった食べ物とは?

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■イリを日本に呼ぶ2023年6月、私と熊本大学のI、宮崎大学のSの3人は、チェコのプラハを訪れて、G2P-Japanのプロジェクトを一緒に進めてきた、Jiri Zahradnik(イリ・ザフラドニク)と初対面。プラハの旧市街でピルスナーを飲みながら、サイエンスの話に花を咲かせた(41話)。

イリとのつながりについては40話でも紹介しているが、改めて。

G2P-Japanの研究活動を始めて間もない頃、新型コロナのスパイクタンパク質と、その感染受容体であるACE2の結合力を調べる実験の必要性に直面していた。どのような方法があるのか、文献を調べていたところ、イスラエルのワイツマン研究所にいる旧知の研究者がその実験に精通していることがわかり、さっそく彼に協力を仰いだ。

彼はそれを快諾してくれて、共同研究が進んだわけだが、イリは当時、その研究室に所属するポスドク(博士研究員)だった。彼がその実験をバリバリ進めてくれたおかげで、G2P-Japanの研究にも一層の厚みがもたらされたことになる。

それまでの研究業績が評価され、2023年にイリは、母国であるチェコでポジション(職)を得て帰国し、自分の研究室を運営し始めていた。それでわれわれは、彼に会うために、6月にプラハを訪れたわけである(40話)。

今や正式にG2P-Japanの一員となったイリであるが、同じ年の11月、われわれはイリを日本に招聘することにした。約5ヵ月ぶりの再会である。やはり初対面とは違うもので、「ひさしぶり!」から始まる会話はいいものである。

「外国の研究者を日本に呼ぶ」というのは、「アカデミア(大学業界)」ではよくあるイベントである。共同研究の打ち合わせとか、学会などの研究集会への招待など、目的はさまざまである。この年の9月には、この連載コラムにも何度か登場したことがある、イギリス・ケンブリッジ大学のラヴィ(15、17、56話に登場)をはじめとした共同研究者や知り合いたちを、軽井沢で開催された研究集会に招待している(ちなみに14話の冒頭の画像は、その時の集合写真)。

また逆に、この連載コラムの22話では、私がドイツウイルス学会から招待されたときの顛末も紹介している。

今回はちょっと変わった試みで、「G2P-Japanでイリを招待しよう!」という試みである。これまでも何度か紹介したように、G2P-Japanのメンバーは全国に散らばっている。その特性を活かして接待してみよう、と考えたわけである。



■イリ、来日羽田空港第3ターミナルで、ラボの大学院生と一緒にイリを待つ。イリは、大きなバックパックを背負ってやってきた。彼はこれが初来日である。

経験上、日本を含めた東アジアへの訪問経験の有無は、特に欧米人を接待する際には重要な情報となる。初来日の場合はなおさらで、生鮮食品を食べることや、公共の場で全裸になることに強い抵抗を示す場合がままあることに留意すべきである、と個人的には思っている。文化は国によって、あるいは人によってさまざまであるので、「日本文化を伝えたい!」と、良かれと思って寿司や刺身をごちそうしたり、温泉に連れて行ったりしても、それが逆効果になることもあったりする。

イリを品川のホテルにチェックインさせて、少し早いランチをとる。そばや天ぷら、洋食など、いろいろな可能性を考えていたが、上記のようなことも考慮して、まずは無難にファミレスに入る。朝の和定食とパエリア、ハンバーグを注文。まずは日本の朝ごはんにチャレンジしてもらい、難しそうならパエリアかハンバーグを食べてもらおう、という魂胆である。

イリは、「知らない文化はなんでもチャレンジしたい!」という発想の持ち主で、紅鮭の塩焼きや白米、味噌汁、豆腐、さらにはしば漬けまでなんでも食べた。味付けのりの使い方を教えたら、しば漬けを具に、器用に箸で白米を巻いて、巻寿司のようにして食べていた。こういう、異文化や知らない食べ物にチャレンジングな姿勢は、接待する側としてはやはりすごく嬉しくなるし、そういう姿勢はこちらとしても見習いたくなる。



■イリ、熊本へ翌日、品川のホテルで合流し、再び羽田空港へ。羽田では、「ザ・港屋ラウンジ」の肉そばを食べる。意外と盲点だが、メンチカツや唐揚げも、日本独自の、外国からの訪問客に人気のメニューである。そばも副菜もぺろりと食べた。

羽田空港の「ザ・港屋ラウンジ」にて。肉そばをぺろりと食べた

羽田空港の「ザ・港屋ラウンジ」にて。肉そばをぺろりと食べた

羽田から一路、熊本へ。G2P-Japanのメンバーである、熊本大学のIと宮崎大学のSと合流。ここで、6月のプラハのメンバー(41話)が全員再会した。熊本の晩餐では、馬刺しやふぐの唐揚げ、金目鯛の煮付けなどを楽しんだ。

熊本にて。6月のプラハのメンバーが、5か月ぶりに熊本で再集合した。馬刺しやふぐ(左)、ラーメン(右)を食べた

熊本にて。6月のプラハのメンバーが、5か月ぶりに熊本で再集合した。馬刺しやふぐ(左)、ラーメン(右)を食べた

翌日からの2日間、「熊本エイズセミナー」という研究集会に参加。イリはこの集会に、招待演者として参加した。昼食には、私のいきつけの煮干しラーメンの店で4人、舌鼓を打った。



■イリ、北上私はここでひとり東京に戻る。イリはその後、G2P-Japanのメンバーによるリレー形式で、新幹線で北上することになっていた。

まずは広島へ。G2P-Japanのメンバーである、広島大学のIがホストとなり、研究打ち合わせの後、原爆ドームや宮島を観光した。原爆ドームは、チェコの建築家が設計した建築物とのことで、イリが今回の来日でいちばん楽しみにしていたものだったという。

広島ではお好み焼きやラーメンをたしなみ、東海道新幹線で京都へ。京都のホストは、G2P-Japanのメンバーである、京都大学医生物学研究所のHと、京都大学iPS細胞研究所のT。ちょうど週末とかぶっていたので、ひとり嵐山の竹林を散策したりしたという。

「キノコ好き」という事前情報を得ていたので、HとTにお願いして、マツタケを振る舞ってもらった。会食には、これまたG2P-Japanのメンバーである京大病院のS先生(46話に登場)も同席してくれた。ちなみに、あとでイリに聞いた話だが、今回の来日でいちばんダメだった料理は、京都で食べたにしんそばだったらしい(「なんかしょっぱい発酵したような魚が載っているスープ」と形容していた)。



■イリ、上京そしてついに、新幹線で東京に帰還。ラボでセミナーをしてもらい、研究打ち合わせをした後で、ラボでパーティーを催した。みんなで出前寿司を堪能しつつ、イリの熊本から東京までの冒険譚に花を咲かせたりした。翌日は、私のラボの大学院生やポスドクがアテンドして、東京観光に出かけた。

こういう若いときの海外の研究者との交流が、次のモチベーションになったりする。私も京都の大学院生の頃、ラボの教授からの勅命で、外国から訪問してきた研究者のアテンドを何度かやらされたことがある。

あるときには、まったく融通の効かない年配の偉いドイツ人研究者を、先輩と一緒にアテンドし、あまりのコントロールの効かなさに、彼をホテルに送り返した後に先輩とふたりで愚痴りながら打ち上げをしたこともあった(そんな「年配の偉いドイツ人」も、それがきっかけとなり、今では仲良しになっている)。

またあるときには、「神社の鳥居はなぜみんな朱色なの?」というような、「言われてみればたしかに。でも考えたことがなかった」というようなトリビアな質問をされて慌てたりした。今は、スマホでなんでもすぐに調べることができるし、同時翻訳ツールもかなり具合が良くなってきているので、そんな苦労も昔に比べたら少なくなってきているのかもしれないが、そういうのも良い思い出である。

■イリ、帰捷最後の晩餐は、私のラボメンバーたちと焼肉に出かけたらしい(「らしい」というのも、実は私はこの日からひどい風邪を引いてしまい、参加することができなかったのである......)。

約2週間の滞在を終え、イリは、"Thank you for this awesome visit"というメッセージを残し、チェコへと帰っていった(なお、小見出しの「捷」とは「チェコ」のことらしい)。そして、どちらからともなく続く文言は、"See you again somewhere in the world!"、である。

世界中に散らばる友人たちと、世界のどこかでまた会える日が楽しみになるし、そのときに楽しくサイエンスの話ができるように、日々の研究を頑張ろう、というモチベーションが湧く。「アカデミア(大学業界)」のメンタルは、そのようなサイクルで回っているともいえる。

文・写真/佐藤 佳

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