映画『若き見知らぬ者たち』で総合格闘家役を演じた俳優、福山翔大(左)と、UFC世界ランカーの平良達郎
10月11日より全国公開の映画『若き見知らぬ者たち』で総合格闘家役を演じた俳優、福山翔大と、同12日にアメリカで試合に臨む無敗のUFCファイター、平良達郎のスペシャル対談(全3回の3回目/1回目・2回目はこちら)。
なんの前触れもなく殺される兄・風間彩人(磯村勇斗)。その悲しみを胸に闘いの舞台に立つ弟・風間壮平(福山翔太)。内山拓也監督は兄の非情な死と、総合格闘技を通して生き抜こうとする弟の生がシンクロする瞬間を撮れないかと腐心したという。作品を見る限り、その思惑は見事に結実したのではないか。
生と死を見つめた異色の映画を媒体とした、格闘家と俳優の対談はさらに熱を帯びていく。
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平良
映画の中で、福山さんはお兄さんが亡くなった後に試合に挑むけど、見ていてモヤモヤした気持ちになりましたね。僕は「練習したことをどれだけ試合で出せるか」だけだけど、ああいうシチュエーションだったら勝っても素直に喜べない。個人的に「ああいう悲惨な状況で勝ったら、どんな気持ちになるの?」という疑問が湧きました。
福山
試合後の壮平の気持ちについて疑問を持たれるとは、さすがプロのファイターとして生きている平良選手ですね。僕自身は、チョークで一本を獲った後は燃え尽きたような感覚になりました。
映画の中で、病を患う母・麻美(霧島れいか)のその後は描かれていないけど、おそらくもうすぐこの世を去る。そういう立ち向かわないといけない問題が多々ある状況の中で、映画はエンディングを迎えるわけです。その中でも僕が演じた壮平という人間は、それでも前を向いていてほしいと思わせるキャラクターでした。映画のラストシーンで壮平が、亡くなった父から兄が引き継いだバーのカウンターで佇んでいますが、あれはまさにそういう気持ちで演じていました。
平良
僕もUFC5戦目の直前におじいちゃんが亡くなって、葬式に参列することもできずアメリカに向いました。おじいちゃんは勝利の喜びよりケガを心配する人だったので、帰国したらすぐお墓に「無事に帰ってこれたよ」と報告しにいきました。この映画の終わり方は渋かったので、チャンピオンベルトを獲ることで明るく終わるというわけではなく、壮平の人生に同情してしまいましたね。
福山
もちろん、目を背けたくなるような現実を描いている作品なので重たい部分もありますが、それでも決して諦めない。最後に壮平は祈りにも似た気持ちを抱いていました。
『若き見知らぬ者たち』の場面写真。磯村勇斗演じる兄、風間彩人(左)と、福山翔大演じる弟、壮平©2024 The Young Strangers Film Partners
──もしこの映画のように理不尽な暴力に直面したら、平良選手だったらどうしますか?
平良
反発しますね。レベルは違う話だけど、僕、中学生のとき野球をやっていたんですよ。そこには暴力を振るうコーチがいた。体格は僕より大きいので怖くて仕方なかったけど、当たり前のように手を出してくる。ある日、暴力を振るわれたとき、自分の感情を吐き出すかのように舌打ちしてしまったんですよ。そうしたらビンタされたけど、自分が暴力に反対しているという姿勢はちゃんと伝えたつもりです。
福山
そのようなことがあったんですか。映画の中身の捉え方は人それぞれだと思いますが、壮平を演じた僕としては(兄の死や暴力シーンも含め)決して後ろ向きな作品ではないと思っています。
平良
もちろん格闘シーンは興奮しました。試合前にもかかわらず(兄の死によって)壮平の気持ちがズーンと沈んでいたり、場面場面で役者さんの感情がどんどん変わっていく作品だと思いました。
福山
平良選手はもうすぐ(10月12日)試合じゃないですか。これからUFCフライ級ランキング1位の選手と闘うというのに、このような機会をいただきありがとうございます。最後にひとつ質問してもいいですか?
平良
もちろんどうぞ。
福山
普段シャドー(ボクシング)をやるときのコンビネーションのパターンはお持ちですか?体をほぐす、相手を想定してやる、打撃からタックルにいく......とか。あるいは自分ならではのコンビネーションがあったりしますか?
平良
シャドーをやるときにはまず対戦相手をイメージしながらやりますね。でも、新人の頃はもう型(かた)を繰り返している感じで、相手をイメージしてできるようになったのは最近だと思います。
福山
えっ、最近なんですか!?
平良
はい、そうです。ちょっと前まではイメージするということを知っているようでできていなかった。今は試合に近い感覚で、「今、相手の足が止まっているな」とか判断して動いたり、フェイク(決定打を放つための布石)やフェイントを混ぜながらやるようにしています。コーチとも「フェイントを入れたら、相手は一歩下がるよね」と会話をしたり。キャリアを重ねるにつれ、頭でイメージする内容もだんだん変わってきましたね。
福山
(感心した面持ちで)へぇ。
平良
だからシャドーも(表面上は)一緒のことをやっているように見えるかもしれないけど、頭の使い方は以前と全然違いますね。
福山
最初は何から入ります?やっぱりジャブから?
平良
だいたいジャブからですね。次に相手がどう動くかは想像でしかないけど、(相手が)下がるなら(自分は)一歩詰められる。右に回るなら、自分も右に行かないといけない。オクタゴンの中で僕はセンターを取ることを意識しているのでポジション取りも重要ですね。
福山
うん、うん(食い入るように聞き入る)。
平良
そういうことを意識するようになってからはスパーリングの動きも変わってきたと思います。
福山
ジャブ、ジャブ、ワンツー、ストレート......。いろいろなコンビネーションを想像しながら出していくと思うんですけど、自分の中で「これを決め技に持っていく」というものはありますか?例えばこの右ストレートで終わらせるみたいな。
平良
(呼応するように)僕も右のパンチが得意。右ストレートを当てたいと思うからこそ、その前のワンツーを打つ前にフェイクを入れたり、リズムが単調にならないように意識していますね。構えた状態から打つと相手にも読まれやすい。だったら一回身を沈めたり、右目で見ていると思わせて左目で見たり。いかに騙すかを考えながらやっています。
福山
勉強になります。本当に貴重です。うれしいです。
平良
あとはバランスですね。強いパンチを打ったら、その分、戻し(打つ前の体勢に戻ること)も遅くなる。打った後にすぐまた動けるような体勢に戻ることは難しいけど、そこを意識する。
福山
さっそく練習に取り入れてみます。映画の撮影に向け1年間ずっとMMAの練習をやっていましたが、今も格闘技の練習は続けていて、主にブラジリアン柔術とキックボクシングをやっています。もう一回基礎から積み上げていけば、MMA的な動きがもっとやりやすくなるかなと思っているので、馴染んできたら(ジムの)MMAクラスにドップリと入っていこうかと。
平良
いいと思います。
試合開催地のラスベガスで練習する平良達郎
──最後に、映画と試合についてひとことずつお願いします。
福山
『若き見知らぬ者たち』は、平良選手も注目してくれた格闘シーンもぜひ注目していただきたいです。本当にリアリティを追求している作品なので、ぜひ音響設備も整った映画館の大きなスクリーンで観てほしいです。
目を背けたくなるシーンもあるけれど、内山監督が実際に起こった事件からインスパイアされて制作した作品です。こういう境遇に置かれた人が実際にいることも知ってほしい。それを踏まえたうえで、同じような火の粉が降りかかってきたときに自分はどうやって生きていくのか。ハッキリとした答えが提示されたストーリーではないけれど、見た後に何度も思い返していただければうれしいです。
平良
今度闘うブランドン・ロイバル選手との一戦に向け、キャンプ地のコロラドで集中していい調整ができています(*この対談は、平良が渡米する際に空港で写真撮影をし、後日、オンラインで実施)。勝つというより、ただ強くなった自分の姿を相手にぶつけたい。自分がどれだけ強くなったのかを楽しみにしてもらえたらうれしいですね。
福山
ひとりのファンとして今後もずっと応援しています。今日は対談ができて本当にうれしかったです!
平良
僕も、映画をスクリーンでもう一度鑑賞できる日を楽しみにしています!
●福山翔大
1994年、福岡県出身。映画『クローズEXPLODE』(14)のオーディション参加をきっかけに芸能界入り。エキストラから出発し、下積みを経て、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」(TX)で俳優デビュー。 2017年には「おんな城主 直虎」(NHK)で大河ドラマに初出演。その後もドラマ「スカム」(MBS)「MIU404」(TBS)「恋はDeepに」(NTV)「明日、私は誰かのカノジョ」(MBS/TBS)「にがくてあまい」(THK)と出演を重ねる。映画では『JK☆ROCK』で映画初主演を務め、その他『花束みたいな恋をした』(21)『ブレイブ -群青戦記-』(21)『砕け散るところを見せてあげる』(21)など。2024年春クールのドラマ「ACMA:GAME アクマゲーム」にはレギュラー出演している
●平良達郎
2000年、沖縄県出身。高校1年のとき、パラエストラ沖縄に入会し、総合格闘技のトレーニングを開始。アマチュア修斗を経て、2018年8月プロデビュー。同年11月、修斗フライ級新人王に輝く。破竹の快進撃を続け、2021年7月に修斗世界フライ級王座獲得。2022年5月からUFCに参戦し、現在7連勝中でUFC世界フライ級ランキング5位。10月12日(日本時間13日早朝)に、同級1位のブランドン・ロイバルと対戦
■『若き見知らぬ者たち』
10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
©2024 The Young Strangers Film Partners
取材・文/布施鋼治撮影/長尾 迪
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