残酷で痛すぎる“死のゲーム”…ホラー史を変えた『ソウ』の衝撃を振り返る

1作目公開から20周年…伝説となった『ソウ』が与えた影響/[c]2024 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

残酷で痛すぎる“死のゲーム”…ホラー史を変えた『ソウ』の衝撃を振り返る

10月12日(土) 21:30

ホラー映画というジャンルには若い才能の登竜門という性質がある。なにしろ、スターは必要がないし、描写は創意工夫でカバーできるので予算もかからない。低予算を逆手に取ることで、荒々しい雰囲気をかもしだすこともできる。トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(74)、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(81)はその好例。では21世紀のその代表作はなにかと問われたら、これはもう『ソウ』(04)一択だ!
【写真を見る】閲覧注意…眼球吸引、手足の切断など、痛すぎる“ゲーム”こそ『ソウ』の真骨頂

殺人鬼ジグソウの、真の目的と正体は…?

2004年10月に日米で公開された『ソウ』は120万ドル(当時の為替レートで約1億3000万円)という製作費ながら、全世界興収が1億ドル(同109億円)を突破。以後、雨後のタケノコのように亜流作品が作られたが、レンタルビデオ店のホラーコーナーに無数の類似作品が並んでいたのを記憶している方も多いのでは。日本でも『ソウ』に触発された無数の“デス・ゲーム”ものの映画、漫画、ゲームなどが生みだされ、いまなお大きな影響を与え続けている。

ともかく、ホラーフランチャイズはスタジオにとって費用対効果が抜群で、当然のように『ソウ』も続編が作られた。そして気づけば、最新作『ソウX』(10月18日公開)で20年も続き、10作目を数えた。本物は生き残ったというわけだ。

■緊迫感あふれるミステリー、そしてあまりにも痛すぎる死の“ゲーム”
ジグソウが仕掛ける“ゲーム”が目指すものとは一体…


もう少し深く、『ソウ』の凄さについて触れていこう。まず、設定が斬新だった。目が覚めたら、部屋の隅に拘束されている男。部屋の反対側には、同じように拘束されている男がいる。生き残るためには、一方を殺さなければならないという不条理な“ゲーム”は、誰が仕掛けたものかもわからない。シンプルだが異様な緊張感をはらんでいる、この流れの強烈な吸引力。公開当時、日本では“ソリッド・シチュエーション・スリラー”というキャッチコピーが付けられたが、以後それがジャンル名として定着してしまったことが、その強力さを物語っている。

もちろん、物語にはミステリーも宿っていた。“ゲーム”の一方で、これを仕組んだジグソウと呼ばれる連続殺人犯を追っている刑事たちの奔走が描かれ、“ゲーム”がこれまでに何度も仕掛けられていたことがわかってくる。さらに、刑事たちでさえ“ゲーム”の駒であったことも…。ジグソウは、一体どこにいて、なにをしようとしているのか。いずれにしても、ジグソウがとてつもなく頭の切れる人物であることが伺え、それがまたカリスマ的な魅力を放ってもいた。

緊迫感あふれるミステリーとしても評価を集めた『ソウ』

そしてなにより、非情に考え抜かれた、なおかつ暴力的な死の“ゲーム”。部屋に閉じ込められた男2人の生存競争には、足枷を外すために自身の片脚を切るという痛々しい選択も含まれる。また、別の被害者は顔に特殊な装置を付けられ、一定時間に課題をクリアできないと頭部が砕かれる、というゲームを強いられていた。この装置のレトロフューチャーなルックも鮮烈。指令を伝えるためにテープレコーダーを持って、三輪車で出現するジグソウ人形のビジュアルも含めて、恐怖を喚起する映像に抜かりがない。

■あの大ヒットシリーズも!『ソウ』から羽ばたいた一流クリエイター
ワンが監督した「アクアマン」シリーズは国際的な成功を収めた


これが長編デビュー作となったジェームズ・ワン監督と、脚本(兼出演)のリー・ワネルは、本作の成功により一躍注目の存在となった。ワンはこの後、「インシディアス」シリーズや「死霊館」ユニバースを世に放ちホラーの鬼才として活躍を続ける一方、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)や『アクアマン』(18)のようなエンタテインメント大作を手掛けるほどの売れっ子フィルムメーカーに。
『ソウ』演出中のジェームズ・ワン(左)

いまやハリウッドのトップディレクターの一員となったジェームズ・ワン


ワネルは、ワンのプロデュースによる『インシディアス序章』(15)で監督デビューを果たして以来、『アップグレード』(18)、『透明人間』(20)といったスリラーの傑作を連打しており、来年にはブラムハウス製作の『Wolf Man(原題)』が公開を控えている。
リー・ワネルは、『ソウ』ではメインキャストとして出演

ワネルが古典の再構築に挑んだ『透明人間』


そして、最新作『ソウX』で監督を務めたケヴィン・グルタート。実は1作目から編集を担当し、6、7作目では監督も手掛けるなどシリーズ全作に深くかかわってきた『ソウ』ワールドを知り尽くした人物で、ファンにしてみればこれほど心強いことはない。なんと最新作は1作目から直接続く物語が描かれており、1作目しか観たことがなくても十分に楽しむことができる作品に仕上がっているのだ。
『ソウ6』を演出中のケヴィン・グルタート(中央)


※これより先には、『ソウ』(04)の核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。


■観客の90%が称賛した最新作は、殺人鬼の視点で語られる1作目から続く物語
物語はシリーズで初めて、ジグソウ=ジョン・クレイマーの視点で展開する


これまでのシリーズではゲームを仕掛けられた人間が主人公のポジションを担い、ジグソウはシリーズを通してフィクサー的、象徴的な役割を果たしていた。正直なところ毎度毎度、新たなデス・ゲームが映画の中心となる構造に対しては、シリーズファンからもマンネリ化しているとの声があがっていた。グルタートはこれを打破すべく、思い切った手に出る。それは殺人鬼のジグソウことジョン・クレイマー(トビン・ベル)を主人公に据え、その人物像を真正面から描くということだ。

『ソウX』はストーリーの時系列でいうと、1作目から続く物語。本作でのジョンは末期の脳腫瘍に冒されており、少しでも長く生きる道を模索している。そんなある日、画期的な治療を行なっている医療者の存在を知り、彼はメキシコに飛ぶのだが、これは大金を騙し取る詐欺だった。一度は完治したと思わされるも再び絶望の淵に叩き落されたジョンは、この医療関係者たちを探しだし、廃墟に閉じ込めて、助手の女性アマンダ(ショウニー・スミス)と共に“ゲーム”を仕掛けていく。
人気キャラクターのアマンダ(ショウニー・スミス)も再登場


ジョン目線で“ゲーム”が描かれることによって、「命のありがたみを忘れるな」という彼の哲学がより強調されているのがミソ。裏を返せば、本作はシリーズで初めて、ジグソウ=ジョンというキャラクターのドラマを描いたとも言えるだろう。過去作では助手として冷徹に仕事をこなしてきたアマンダだが、本作では“ゲーム”の残酷さに弱音を吐き、ジョンに異論を唱える一面も。このようなドラマがしっかり描かれているからこそ、彼らが仕掛ける“ゲーム”が単に残酷なだけではなく、シリーズ中もっともエモーショナルなものに思えてくるのだ。

■眼球吸引、手足の切断…新たな“ゲーム”に隠された意味とは?
【写真を見る】閲覧注意…眼球吸引、手足の切断など、痛すぎる“ゲーム”こそ『ソウ』の真骨頂


そして、やはり最大の見どころは、趣向を凝らした“ゲーム”。眼球の吸引、首の切断、放射線などの装置に括りつけられたゲームプレーヤーたちは生き残るために、なにかを犠牲にしなければならない。その覚悟が、彼らにはあるのか?

目を背けたくなるほどバイオレントな描写もシリーズの醍醐味だし、心理戦のおもしろさも1作目をしっかり踏襲している。ジョンの天才的なアイデアに唸りつつ、そのスリルを体感できるのがうれしい。そして後半にはアッとおどろく急展開もある。ネタバレは避けたいので観ておどろいてほしいが、これが新味の一つであることも訴えておきたい。
新たに仕掛けられた“ゲーム”に逃げ道はあるのか…?


シリーズファンでなくても楽しめることは、数字にも表れている。映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」では全米公開時、シリーズ最高の観客評価90%を叩きだしており、新たなファン層の獲得にも成功している。もはやマンネリとは言わせない。これまで以上に恐ろしく、なおかつエキサイティングな『ソウ』の新章を見逃すな!

文/相馬 学
MOVIE WALKER PRESS

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