ホラーモキュメンタリー『イシナガキクエを探しています』番組プロデューサー・大森時生氏(左)と、大ヒットアクション映画『ベイビーわるきゅーれ』の阪元裕吾監督(右)
9月27日に公開され話題沸騰中の映画『ベイビーわるきゅーれナイスデイズ』は、殺し屋女子ふたり組による「ゆるい日常」と「本格アクション」が融合した青春アクションエンターテインメント『ベイビーわるきゅーれ』(以下、『ベビわる』)シリーズ3作目。ドラマ版も放送されるなど、ヒット中の本作を手がける阪元裕吾監督は1996年1月生まれ。
そして『このテープもってないですか?』や『TXQFICTION/イシナガキクエを探しています』(以下、『イシナガキクエ』)など、ホラーテイストのモキュメンタリー番組を多く手がけ、担当作が毎回話題を呼ぶテレビ東京の大森時生プロデューサーは1995年10月生まれ。
片やアクションに魅せられた映画監督と、片やホラーに魅せられたプロデューサー。同級生クリエーターふたりが語る、そのジャンルに魅入られたワケ。
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■作品が面白くて「ぐぬぬ」と思った
――もともとお互いのことを知っていたんですよね?
大森
阪元さんのことを知ったのは入社したての頃で、映画館で「20代の鬼才・阪元が贈る痛快エンターテインメント」って予告が流れて。ミュージックビデオとかで同世代の監督を見たことはあったけど、映画監督で同世代がもう活躍してるんだってビビりました。
それで『ベビわる』や『黄龍の村』を見て「面白いな~!」って思って、Xをフォローしたら、僕の作品をつぶやいてくださっていたんですよね。
『ベイビーわるきゅーれエブリデイ!』(テレビ東京)はシリーズのテレビドラマ版。殺し屋の深川まひろ(伊澤彩織)と杉本ちさと(髙石あかり)の日常を描く
『黄龍の村』はホラー要素の強いバイオレンス映画で、大学生8人が奇妙な村を訪れる物語
阪元
俺のポストは大森さんの『祓除(ふつじょ)』(2023年、テレ東60周年イベント内の映像とリアルイベントを融合させたホラー作品)についてやと思うんですけど、実はその前から知ってて。えっと、『このテープもってまっか?』でしたっけ?
大森
そんな関西弁じゃないです(笑)。『このテープもってないですか?』ですね。
2022年末に放送され、モキュメンタリーブームに拍車をかけた『このテープもってないですか?』
阪元
それも見てました。ただ、自分の中で「ホメられるもの」と「ホメられないもの」があるのわかります?
大森
わかります。
阪元
自分とは全然違うジャンルで面白いものだったらホメられるんですけど、近いジャンルでおもろいと思うものを同世代がバズらせてたから、やっぱ「ぐぬぬ」って気持ちもあったんですよね。
大森
名誉ですよ、阪元さんに「ぐぬぬ」なんて。
阪元
ただ『祓除』は思わずポストしちゃいましたね。あと、最新の......『イシナガキクエ』(55年前に行方不明になった女性を捜す公開捜索番組という設定のモキュメンタリー)でしたっけ?
大森
覚えづらいですよね。1000回くらい間違われてます、いろんな人に。
『TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています』は2024年4月から放送された、失踪した女性を捜す公開捜索番組という設定のモキュメンタリー
阪元
それも見て、どんどん完成していってるなって感じました。『イシナガキクエ』はアイデアだけじゃなく、仕掛けや物語のピースがハマった感じがあって。
大森さんの作品の中で珍しく、謎をひもといていく解決編があるのが面白くて。今まではなかった部分なので、そこが単純に楽しめましたね。
大森
余白のある作品が世の中にはやってありふれてしまったので、ちゃんと物語にする必要があると思ってました。
阪元
ただ、最後だけ、ほんまに意味わからない部分があって「やっぱ意味わからん!」ってなりました(笑)。
■ドキュメンタリーはフィクションかノンフィクションか
――阪元監督の作品には、『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』というひとりの殺し屋の日常や仕事の様子を描いたモキュメンタリーもあります。モキュメンタリーもおふたりの共通点ですよね。
阪元
自分は高校生のときからモキュメンタリーを撮っていました。友達が三重県に自転車で行く様子を撮影したのが最初で、ただ撮るだけじゃ面白くないなって思って、「多くの人がチャリの旅に行きたがったためにオーディションが開かれた!」って設定をつけたんです。それが映画製作の始まりです。
大森
ルーツすぎますね(笑)。すごくいい話だ。
阪元
演劇部に入っていたんですけど、演劇に辟易(へきえき)していたのでその逆張りだったのかもしれないですね。演劇ってドキュメンタリーの対極じゃないですか。
大森
というと?
阪元
高校生の演劇なんか近所に住む友達しか見にこうへんじゃないですか。だったらもう別に大阪弁でええやんって思っていたんですけど、地区大会や府大会でも東京弁でしゃべってて、しかも社会問題を暗喩する題材の演劇が多くて、それを見て審査員が喜ぶ、みたいな。
そういう違和感にずっと腹立ってたんですよ。俺は自分が面白いと思ったことをやりたいのに。そもそも演技が「フィクションをノンフィクションのように見せる行為」だとしたら、ドキュメンタリーは「ノンフィクションをフィクションのように見せる行為」だなって。
大森
確かによくできたドキュメンタリーってフィクションを見たときと同じカタルシスがありますよね。大学生の頃、原一男さんがめちゃめちゃ好きで。『ゆきゆきて、神軍』(87年)で奥崎謙三さんという元軍人を追って、さらに原一男本人が自ら出てくことによっていろいろな衝突を無理やり生み出していくっていう方式がおもろいなと思って。
もちろんノンフィクションなんですけど、フィクションでもあるじゃないですか、面白いドキュメンタリーって。あの「おお!」って感じは、もうフィクションと変わらないなって思っていて。
僕自身は現場に行って殴られたりするのは怖いし痛いのはイヤだけど、ああいうヒリヒリ感をフィクションでも作ることはできるんじゃないかと思って、フェイクドキュメンタリーを作り始めたってのはあるかもしれません。
■ダンスも歌もアクションのひとつ
――おふたりは、それぞれ「ホラー」と「アクション・バイオレンス」というジャンルに取り憑(つ)かれている?
阪元
取り憑かれてるんかな(笑)。
大森
本当に微妙なジャンルの話なんですけど、僕はホラーってよりも、うっすら不気味なものとか奇妙なものが好きなんですよね。もし可能なら、フェイクじゃない不気味なドキュメンタリーを撮りたいですし。まだ自分の技量が足りていないんですけど。
阪元
なるほど。
大森
さっきの演劇の話でも、本当に社会に問題意識がある高校生っていうより、審査員の考えることを内面化してやった結果、テーマを社会問題にしているわけじゃないですか。そういう、大きな存在を想像した結果、それを代弁してその人もそういう行動する、みたいな。そういうリアルな人間が無意識に取ってる奇妙な行動とかに惹(ひ)かれます。
阪元
あー、面白いですね。
大森
自分が高校生だった頃を思い出すと、いろいろな社会問題に対して実際の問題意識はなかった気がしていて。
阪元
それを作品に昇華するなんてこの年齢でもできないですよね。それなのに完璧な脚本を、完璧に高校生たちが演じさせられてる状況って確かに不気味ですね。
――阪元さんは殺し屋をテーマにした作品が多いです。
阪元
実はバイオレンスじゃない作品も1本だけ撮っていて、音楽の話なんですけど。ただ、僕としては音楽もアクションっちゃアクションよなって思うんですよね。
言っちゃえばダンスも歌も、役者の身体能力じゃないすか。ジャッキー・チェンやブルース・リーは、バスター・キートンやチャップリンとかとそう遠くないというか。
大森
アクションっていうか「人間の身体性」に興味があるって感じなんすかね。
阪元
そうですね。あと、さっきの逆張りの話になっちゃいますけど、日常との対比を一番作れるのがアクションなんですよね。『ベビわる』もダラダラしてる女性がピストルを持ってたらおもろいなあみたいな。
大森
『ベビわる』の魅力のひとつは主人公ふたりのリアリティあふれる日常会話ですし、ジャンルに取り憑かれたというより、人間のリアルを描こうとしたら、結果的にホラーやアクションになったって感じなんですかね?
阪元
そうですね。ただ、劇場公開中の3作目は明らかに日常が少なくてアクションばっかりやってます。いろんな場所行って戦ってしかいないので、ホンマにバランスの悪い映画になっちゃって......。ドラマ版でもファンが喜ぶような主人公ふたりのやりとりよりも、全然関係ないパワハラしまくるシーンとか入れたし......。
大森
やりたいことを貫きまくっていて面白いです(笑)。
●阪元裕吾Yugo SAKAMOTO
1996年生まれ、京都府出身。『ファミリー☆ウォーズ』(18年)で商業デビュー後、『ある用務員』(20年)、『黄龍の村』『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』『ベイビーわるきゅーれ』(すべて21年)、『グリーンバレット』(22年)を発表
●大森時生Tokio OMORI
1995年生まれ、東京都出身。2019年にテレビ東京へ入社。『このテープもってないですか?』『SIX HACK』『祓除』『TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています』などを担当。2023年にForbes JAPAN 30 UNDER 30に選出
撮影/鈴木大喜
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