10月10日(木) 7:00
2024年4月からスタートした「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」をはじめ、2025年からは断熱等級4以上をクリアすることが新築住宅に義務化される。国は2050年のカーボンニュートラルに向けて、段階的に省エネ性能の基準を引き上げつつあり、断熱性能の高い住まいづくりへの関心は広がっている。そこで、今回は断熱性能を最も重視して家づくりを行った滋賀県大津市にお住まいのOさん家族にお話を伺った。
家づくりの絶対条件は結露しないこと6歳の長男、4歳の長女、3歳の次男と3人の元気いっぱいな子どもたちを育てるOさん夫妻が、断熱性能等級6の家を建てたきっかけは、築30年の社宅マンションの結露問題だった。
「6年間で3度引越しましたが、最後に住んでいた社宅は築30年くらいのマンションで、エアコンの効きがとても悪く、冬は結露がすごくて寒い家でした。あれこれ結露対策グッズを使ってみましたが、気持ち程度しか改善されず悩まされていたんです。将来、自分たちの家を持つ時には、断熱性能が高くて住み心地のいい家がいいなと考えていました」と妻。
Oさんが困っていたという「結露」は、室内外の温度差によって起こる現象だ。湿度が高い場所や気温差が激しい場所では、季節に関係なく結露が発生し、夏場は特に目の届かない壁の内側や、床下に結露が見られることもある。結露はカビやダニの発生原因ともなり、身体にもよくない。また、結露を放置すると建物の劣化原因にもつながり、人にも住まいにも影響を及ぼしてしまう。3人の子どもを育てるOさんにとって、家族の健康を維持するためにも、結露しない住まいづくりは絶対条件だったという。
■Oさん邸 工法木造階数・間取り2階建・4LDK建物面積120.23m2竣工年月2023年11月世帯構成夫32歳、妻33歳、長男6歳、長女4歳、次男3歳住宅性能断熱等級6Oさんが暮らしていた社宅の入居には期限設定があり、いずれは持ち家を検討する必要があったそう。3人の子どもたちの誕生に合わせて、2年ごとに少しずつ広い社宅マンションに移り、育児に励んできたというが、前述の結露問題もあり、長男の小学校入学を前にして新しい環境を整えるべく、新居購入の準備をスタートさせた。
「当時、会社の規定であと3年しか社宅には住めないこともあって、そろそろ持ち家を検討し始めないと、と思っていたんです。そんなとき、『実家の敷地内に家を建てたらどうか』と夫の両親からありがたいお話をいただいたんですよ」(妻)
実家の敷地内に家を建てられるなら、土地探しの心配もなく、コストも大幅に抑えられる。なにより、両親の近くで子育てできる安心感もあって、その提案に乗ることにしたという。
土地探しの心配がなくなり、家を建ててくれる会社探しを始めたOさん。まずは情報収集をするなかで見つけた、高性能な住まいづくりを提唱する工務店へ行ってみることにした。そこでは、気になっていた断熱性能についてとても詳しく話を聞くことができた。
「性能にこだわるなら、一番高い等級の家づくりをする会社で建てるべきなんじゃないか、となんとなく思っていたんですよね。はじめに気になっていた会社は、標準仕様でも国が定めたZEH基準を大きく上回る性能を備えているとのことで、とても魅力的でした。ただ、価格帯がちょっと高かったので悩みました。そんなとき、土木関係の仕事をしている父が、ここにも話を聞いてみては?と別の会社を紹介してくれたんです。それがこの家を建ててくれることになった会社との出合いでした」
Oさんが新たに話を聞いた会社は、ZEH基準を大きく上回るHEAT20のG2基準をクリアした高断熱な住まいづくりが特徴だった。冬は暖房の熱が逃げにくく、夏は外気の熱が室内に伝わりにくい構造で光熱費を大幅に削減することができ、一年を通して快適で健康に過ごせるという説明を受けた。そこで、モデルハウスへ行き、実際にその環境を体験してみたそうだ。
「ともに住宅性能にこだわりを持つ2社の説明を聞き、さらに体感してみたことで、自分たちが求めているものを理解することができました。私たちが建築を予定していた滋賀県大津市なら、一番高い等級の住まいでなくても、十分な効果があることが実感できました。最終的には、自分たちが住む環境に合う性能を備えていて、さらに予算に見合った価格で家を建てられる会社にお願いしようということになりました」と最終決定の経緯を夫は振り返る。
ライフラインは別々の考え方を改めて性能の高さとコストパフォーマンスの良さを総合的に判断した結果、Oさんは太陽光発電も採用することにした。
「最初にお話を聞いた会社で、太陽光発電の売電システムについて詳しくご説明があったので、興味を持って調べてみました。いままでは、事故や故障など万が一の場合に備えて、ガスや電気などのライフラインは別々にしておきたいという考えを持っていたんです。でも、最近は電気代が高騰していますし、できるだけ光熱費を抑えられるような仕組みを取り入れられたらいいなと思って。そうすると、オール電化が一番光熱費を抑えられるということで、オール電化にして、太陽光発電も採用することにしました。太陽光発電の売電価格は年々下がってきてはいるものの、設置費用も同様に下がってきていますし、総合的に判断して取り付けようということになりました」
Oさんが依頼した建築会社は「子育てエコホーム支援事業」の登録事業者であったため、エネルギー価格などの物価高騰の影響を受けやすい子育て世帯が、高い省エネ性能を有する新築住宅を建てる際に交付される補助金制度を活用することができたという。
共働きで平日の昼間は不在がちだというOさん夫妻。
「今年2月に新居の引き渡しを受けて、住み始めたのは4月からです。5月はまだエアコンを使っていなかったので、電気代は8821円、売電価格は15392円でした。6月からはエアコンをつけ始めました。昼間は不在にしているので、18時頃に帰宅してすぐにリビングのエアコンをつけ、寝る時に2階の寝室のエアコンに切り替え、朝までつけっぱなしという具合です。そんなライフスタイルで6月の電気代は11944円、売電価格は15568円でした。夏休みに入って7月はマイナスになりましたが、8月は売電効果が高く、プラスになりました。社宅暮らしの時は光熱費に4~5万かかることもあったので、いい感じのスタートだなと感じています。大きな太陽光パネルを採用してよかったですね」
■電気料金 月買電売電差額5月8821円15392円+6571円6月11944円15568円+3624円7月11944円10720円-1224円8月16584円17184円+600円光熱費削減のほかにも、オール電化にして良かったことがあるという。
「最新のIHクッキングヒーターの湯沸かしの早さに驚いています。お茶を淹れたり、パスタを茹でるときなど、たっぷりのお湯を沸かす時、以前はウォーターサーバーのお湯をよく使っていたんです。今は早くお湯が沸くので使わなくなりました。子どもたちを待たせることなく夕飯の支度が捗って、とても助かっています。以前の社宅マンションは今より狭い空間でしたが、光熱費は今より数倍高かったから、新居の性能にこだわって本当に良かったなと実感しています」(妻)
安心して子育てできる広さと環境寝る時以外は1階のLDKで家族揃って団らんのひとときを過ごすことが多いというOさん家族。
「LDKは広くして、家族みんなで一緒に過ごせる間取りになっています。キッチンカウンターで仲良く並んで勉強ができるように、学習チェアも揃えました。まだ下の子たちは未就学なので、LDKに隣接する和室におもちゃ箱を置いて、子どもたちがのびのび遊べるスペースもつくってあります。和室にもエアコンは設置してあるのですが、今のところLDKのエアコン1台しか使っていません。断熱性能の高い構造のおかげで、和室のドアを開けていても、十分に快適に過ごせる温度環境が保てています。全熱交換型24時間換気システムのおかげで、室内の空気もカラッとしているんです。梅雨時期もジメジメせず、かなり過ごしやすいですよ。何より、結露に悩まされることがなくなって、とてもうれしいですね」と妻。
家族そろって仲良く過ごせる広いLDK、そして安心して快適に過ごせる温度環境にとても満足している、と住み心地の良さを語ってくれたOさん夫妻。取材中も元気いっぱいに遊ぶ子どもたちの姿が印象的だった。社宅マンションから2階建て高性能住宅へと、広さも住宅性能もグレードアップした結果、家族の健康にも、家計にもやさしい暮らしを手に入れたようだ。
●取材協力
敷島住宅
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