『ゴミうんち展』21_21 DESIGN SIGHTで開催中多彩なアーティストが世界の循環についてデザインを通して考察

展示風景撮影:木奥恵三提供:21_21 DESIGN SIGHT

『ゴミうんち展』21_21 DESIGN SIGHTで開催中多彩なアーティストが世界の循環についてデザインを通して考察

10月11日(金) 18:00

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一度聞いたら忘れられないタイトル。『ゴミうんち展』が21_21 DESIGN SIGHTで2025年2月16日(日)まで開催中だ。館長でグラフィックデザイナーの佐藤卓が、文化人類学者の竹村眞一と共同ディレクションし、「ゴミ」や「うんち」という概念をきっかけに、デザインを通じて世界の循環を考察する。
「循環」をテーマとして、アーティストの井原宏蕗、発酵デザイナーの小倉ヒラクら20人を超えるデザイナー、クリエイター、アーティストらと取り組んだ。

筆者にとっても生きることに直結するテーマである。自治体の設備、予算、人口によってゴミの分別が異なるため、東京では「燃えるゴミ」になるものも、私の住む街では細かい分別が必要だ。自ずと「ゴミ」の認識や作業にも違いが出る。また、母を介護するなかで「排泄」は切実な課題でもある。近年は被災時についても気になる。

プレス内覧会で佐藤はこの展覧会の動機を語った。
「日本では、江戸時代までは堆肥として循環するなど、自然界ではゴミもうんちも残り続けるものではほとんどありませんでした。人は一生で4トントラック分うんちをするそうなんですが、現代社会では、もともと自分の体内にあったものなのに、いったん体の外に出ると汚いものとして排除する、あるいはトイレに流せば消えてしまうので簡単に“ないもの”となってしまう。考えるきっかけをつくりたいと思いました」。

佐藤卓《TIME-B》。オレンジ色のボールを外さないとひっくり返せない砂時計で、一人ひとりの手でしか地球環境を循環に導けないことを表す。黒い砂は産業廃棄物の焼却後に残るスラグを砕いたもの

人類学的な視点から地球環境に関する研究・開発活動を行う竹村はポジティブに語る。
「日本文化には包丁塚や針塚など使い古したものの供養や、金継ぎのような修繕など、ものを循環させる仕組みがあります。江戸の歴史からさらに地球の歴史を見ると、エネルギー資源・有用な資源としてゴミもうんちも存在しない。それを“pooploop”の環と捉え、本展にはクリエイティブな視点の転換を多数用意しました」。

竹村眞一《未来を覗く窓》。使用した水の98%以上を再生して循環利用できる手洗いスタンドなど「循環」の取り組みを紹介

まずギャラリー1は、「驚異の部屋」ならぬ「糞(くそ)驚異の部屋」。リサイクル資源、化石や貝殻、190種を超える土、廃棄物・排泄物からつくられるプロダクトなど、身近なものから宇宙まで、700種を超える膨大な「ゴミうんち」にまつわるものを展示。岡崎智弘、北千住デザイン、ザック・リーバーマンらの映像作品も組み込まれている。

「糞(くそ)驚異の部屋」撮影:木奥恵三提供:21_21 DESIGN SIGHT

ギャラリー2では、「ゴミうんち」という新しい概念をもとにリサーチを経て新しい循環や価値の提案、人間と自然の関係性を再考した作品などを展示。デザインや展覧会制作の過程で出るゴミの循環も意識し、会場デザインではリースパネルを化粧せずに展示台として積み上げるなどしている。

松井利夫《サイネンショー》。捨てがたい陶器を、高い焼成温度で再度焼き上げ、新たな価値を生み出した作品

作品単体に留まらず、それらが生まれてくるサイクルにも注目したい。アーティストの中山晃子は、顔料や染料を溶いた液体を流し、色が混ざり合い、粒子がぶつかり合う様子をビデオカメラにマクロレンズを取り付けてスクリーン上に映す《Alive Painting》を展示。その発想源は、子どもの頃の習字の授業後に排水溝に流れる墨の記憶にあるという。さらにライブ後には廃液となる液体を濾過し、再び色彩を取り出したのが《Still Life》だ。今回は、デザイナー・狩野佑真による錆の作品《Rust Harvest|錆の収穫》制作時に出る廃液も一部利用した。

中山晃子《Alive Painting》 中山晃子《Still Life》

狩野は廃棄物の有効活用を複数提案しており、LIXILと共同で行った《下水汚泥タイルプロジェクト》もそのひとつだ。トイレから流れ出た水は下水処理場へ集まり、微生物が分解してきれいになった水だけが川や海に放流されるが、その処理の最後に「汚泥」が残る。その汚泥を焼却した汚泥灰でタイルを制作。汚泥の配合率や温度変化に応じた焼成実験、釉薬の開発などを研究した。

狩野佑真+LIXIL《下水汚泥タイルプロジェクト》

また、グラフィックデザイナー・編集者・プリンターの吉田勝信は、近隣の山で採取した植物からインクを作成。そのインクで紙に刷る過程で出たゴミを培地にしてキノコを栽培。育ったキノコを食し、キノコが分解した培地や胞子をインクに活用するというサイクルをつくった。併せて人類学者3人による経緯の観察記録も展示。

吉田勝信《Observing Looping Doodling》

さらに、アメリカのアートシーンに大きな影響をもたらしたマイク・ケリーの作品《Life Cycles》も見られる。製造中から空港で働く様子、「飛行機の墓場」と呼ばれるアメリカ・モハーヴェ空港に運ばれ解体されるまでをヘリコプターから撮影した作品。ケリー自身が購入したブラックボックスを写真と共に展示している。

マイク・ケリー《Life Cycles》

会場には音が流れ、五感でも感じられる。音楽家・芸術家の蓮沼執太は《pooploop un-compositions》と題して4作品を発表。例えば、地下一階のトイレ入口にセンサーを設置し、出入りすると会場の3つの真鍮による音響彫刻から音が鳴る。また、植物センサーの開発で知られる蔭山健介教授(埼玉大学)の協力を得て、サンクンコートの樹木が吸い上げるときの小さな音を採集。1日の開館時間に当たる9時間分の音楽が会場で再生されている。

同じサンクンコートでは、生物学者・片野晃輔と造園家・西尾耀輔の造園ユニット「veig」が、空中部分に透水シート(造園で使用される使い捨て素材)を浮遊させ、日陰に生育する植物を配置した。

蓮沼執太《pooploop un-compositions》より。手前は蓮沼執太、増田義基 《フィードバック”variation“》撮影:木奥恵三提供:21_21 DESIGN SIGHT veig(片野晃輔、西尾耀輔)《漏庭》

なお、近年、現代アートの世界でも「ゴミうんち」を連想する作品は散見されるが、今後もさまざまな分野で試みが続くテーマだと思われる。地球全体の規模で考えつつ、政治や産業、あるいは個人個人ができることからやってみるヒントのある展覧会だ。


<開催概要>
『ゴミうんち展』

2024年9月27日(金)~ 2025年2月16日(日)、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2にて開催
公式サイト: https://www.2121designsight.jp


取材・文・撮影:白坂由里

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