サッカー日本代表はワールドカップ出場を懸けた戦いにおいて、10月に山場のひとつを迎えることになる。10日(日本時間11日午前3:00キックオフ)には敵地でサウジアラビア代表と、15日には埼玉スタジアムでオーストラリア代表と戦う。いずれも第2、第3シードグループに入った国でグループリーグでは日本に次ぐ強豪との連戦になる。
山場とはいえ、日本は9月の2戦を大量得点無失点で連勝して好調の波に乗っている。一方、サウジアラビアは最終予選初戦のインドネシア戦で引き分け、続く中国戦では退場者を出して苦戦し終了間際のゴールで逆転し薄氷の勝利となり、結果から見ても決して上向きではない。
オーストラリア代表にいたってはバーレーンに敗れた後にインドネシアと引き分け、監督が辞任するという緊急事態に直面している。そういった状況を鑑みれば、日本代表は10月も2連勝し、実質的にワールドカップ出場に当確となる可能性は十分に考えられる。それほど現在の日本にはポテンシャルの高く、いい選手が多いのだ。
主力である冨安と伊藤は怪我で招集できず…
しかし、その才能豊かな選手らがすべてそろっている状態ではない。特に、守備を担う選手の招集状況は危機的といっても過言ではない。
イングランドのアーセナルに所属する冨安健洋は負傷により未招集。ドイツのバイエルンに所属する伊藤洋輝も同様に負傷が理由で今回のメンバーには招集できなかった。ただ、冨安は5日の試合で途中出場し実戦復帰。伊藤はチーム練習に復帰している状況で、Aマッチウィークがもう1〜2週間遅ければ、2人とも招集できた状況だったのは森保一監督にとっては運がなかった。
9月も同じ状況だったわけだが、パリ五輪代表だった川崎フロンターレの高井幸大が出場機会を得て活躍。現在の日本代表は層が厚いことを証明してみせた。しかし、その高井も今回は負傷で辞退。代わりに招集されたのは4バックの右サイドを主戦場とする柏レイソルの関根大輝で、新たにセンターバックの選手は追加しなかった。
このことで今回のDF登録の選手は長友佑都(FC東京)、谷口彰悟(シント=トロイデンVV/ベルギー)、板倉滉(ボルシア・メンヘングラードバッハ/ドイツ)、町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ/ベルギー)、瀬古歩夢(グラスホッパーCZ/スイス)、菅原由勢(サウサンプトン/イングランド)、望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)、関根大輝(柏レイソル)となっている。
そう、左サイドバックがいないのだ。
三笘がいれば、左サイドバックはいらない?
センターバックの負傷による未招集についてピックアップしたが、実は左サイドバックがいないのだ。今回招集されたメンバーのなかでは長友が左サイドの経験もあり、今季も所属先で左を務めたこともある。また、左利きの町田もサイドバックを担った経験はあるが、やはりそれなりのクオリティだった。そういった状況で、今回のメンバーには左サイド専属は一切いない。
森保監督としては3バックのシステムを採用し、左サイドは三笘薫に任せればいいと考えているようだ。結果としてそれが最適解で勝利をもたらす可能性は十分にあり、左サイドバック不在問題は杞憂に終わるかもしれない。しかし、本当にそれでいいのだろうか。
招集メンバーを見れば、相手は日本が3バックで臨みサイドには三笘など攻撃的な選手を配置してくることを容易に予想できるが……。
戦術が絞られる=対策されやすい状況に…
今の日本代表の強みには、4バックと3バックを使い分けられる戦術の幅の広さが挙げられる。しかも、起用する選手によってさらに戦術の幅を広げられる。ただ、その方法でしか戦術を構築できないのが弱味といえる。これを踏まえると、今回の招集メンバーを見れば、日本の戦術はかなり絞られることになり、対戦相手にとってはかなり対策がとりやすい。
サウジアラビアとオーストラリアが、勝利のために割り切ったスタイルを徹底した場合、日本は為す術がなく敗れてしまう可能性がある。
サウジアラビアには強烈なアタッカーがおり、サイド攻撃を得意とする。そのことについて森保監督は、「イメージはできている」と語っている。
「まずは相手のことを分析して個々の能力、チーム戦術をしっかりと把握したうえで、対策を練っていかなければいけない。その対策についてはすでに進めています。相手のことについても大切ですけど、我々が個々そしてチームとして持てる力を最大限に発揮できるように戦術的な準備、役割の準備をしなければならないと思っています。サウジアラビアのサイドアタッカーのこともイメージできています。サイドだけでなくて中央からも突破をしてきます。9月の活動ではセットプレーで高さを生かして、そしてデザインしてゴールをねじ込んでくるというところもあり、すべての部分を対策しなければいけないかなと思っています」
メンバー発表会見でそう話した森保監督は、その会見終了後に「サイドの攻防はめちゃくちゃ楽しみにしていただきたい」というコメントとともに不適な笑みを残していった。それはこの10月シリーズの2戦に相当の自信を持っているように見えた。
おそらく今回の日本代表は攻撃的な3バックのシステムを貫き、勝利を目指すのだろう。ひょっとすると、ガチンコの打ち合い勝負になっても打ち勝つ想定をしているかもしれない。となると、今回の2戦では多くのゴールが見られる派手な試合になりかねない。一般人にもわかりやすい内容でファンの心をつかもうと企んでいるなら、森保監督は想像以上の策士である。
<TEXT/川原宏樹撮影/松岡健三郎>
【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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