10月8日(火) 14:17
アイアンはさまざまな距離からグリーンを狙うクラブです。ショットの成功率はスコアに直結しますから、プロや上級者になるほど、アイアンには強いこだわりを持っています。そして、ヘッド以上に大切にしてほしいのが「シャフト」です。本記事では、ゴルフにおけるアイアンシャフトの種類やスペック、おすすめモデルについて詳細に解説していきます。
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クラブヘッドとグリップの中間にあり、両者をつなぐ棒状のパーツを「シャフト」と言います。
シャフトにはさまざまな役割があります。ゴルフクラブはどれもヘッド部分に一番重量が集中しますので、スイングするとヘッドに引っ張られるようにシャフトが動きます。このシャフトのしなりは、クラブの振りやすさやヘッドスピード、インパクトの精度などに影響しますので、ショットの良し悪しを大きく左右する重量なパーツなのです。
特にアイアンは長さやロフト角の違う番手があり、コース上では平らなフェアウェイだけでなく、傾斜地から打つこともありますし、ラフやバンカーなど悪いライからボールを狙った距離に飛ばす必要があります。それだけに自分に合ったシャフトを選ぶことはとても大事で、プロや上級者になるほど、強いこだわりを持ってモデルを選んでいます。
アイアン用のシャフトは素材によって、大きく3つのタイプに分類できます。金属素材を使った「スチールシャフト」、ドライバーと同じ炭素繊維を使った「カーボンシャフト」、そしてスチールとカーボンを両方用いた「複合シャフト」です。シャフトを選ぶ際には、それぞれの特徴を把握しておくことが大切です。
アイアンにおいて長年定番となっているのが「スチールシャフト」です。金属素材をフープ状に成形し、熱処理や研磨、メッキ加工を施す工程で作られます。
「スチールシャフト」は金属を使用するぶん、ネジレが少なく、しなり方や量も安定します。そのため、アイアンショットの距離や方向性が正確になり、ゴルファーの感覚でボールをコントロールしやすくなります。また、比重の重い素材を使うぶん、重量のあるシャフトが作りやすいため、パワーのある男子プロを中心に愛用されています。
また、クセのない振り心地に仕上げやすいこともあって、吊るしで販売されているアイアンには「スチールシャフト」の定番モデルが装着されていることが多いです。
最近では製造技術の進歩により、60グラム台など、かつては難しいと言われた軽量なスチールシャフトも登場しています。モデル数も多く、豊富な選択肢がありますので、アイアンのシャフトを選ぶ場合、第一の選択肢となるのは間違いないでしょう。
炭素繊維、つまりカーボンのシートを裁断し、重ね合わせるようにして作られるのが「カーボンシャフト」です。「スチールシャフト」との大きな違いは、設計自由度が高く、さまざまな特性を持ったモデルを作れることです。
また、金属に比べて、カーボンは比重が軽くなりますので、軽量なモデルが作りやすいことも特徴となっています。
一般的に「カーボンシャフト」は、パワーがない人が使うものというイメージがありますが、これは半分正解で、半分間違いです。軽量なモデルが作りやすい素材ですので、パワー不足をカバーし、飛距離や高さを出しやすいシャフトが作れる一方で、設計自由度が高いぶん、パワーヒッターが思い切って叩けるようなモデルも作ることが可能だからです。
また、カーボン素材は衝撃吸収性が金属よりも高いため、同じヘッドに装着した場合に、「スチールシャフト」よりも、「カーボンシャフト」のほうが、打感がソフトに感じられる場合も多いです。体への負担も軽減できますので、手首やヒジを痛めている方などにもおすすめなシャフトになっています。
「スチールシャフト」と「カーボンシャフト」の両方の性質を持ったモデルとして、近年、海外の女子プロを中心に人気となっているのが「複合シャフト」です。
基本的な設計は、内側に設計自由度の高いカーボンを用いることで、シャフトの特性を自在にコントロール。外側を覆うようにスチールを巻き付けることで、しなり量を安定させて、弾道安定性や操作性を高めています。
また、「スチールシャフト」とも、「カーボンシャフト」とも違う独特なフィーリングになることも特徴です。弾き感がありつつ、ボールをグッと押すようなつぶれ感があったりと、他にはない打感にハマるゴルファーも少なくありません。
ドライバーのように主要メーカーから毎年必ず新製品がリリースされるわけではありませんが、アイアンシャフトもさまざまなモデルがラインナップされています。昔からある定番モデルから、細かく性能をチューンナップした最新モデルまで豊富にシャフトが揃う中で、自分に合ったものを選ぶには、基本となるスペックについて知る必要があります。
ここでは、アイアンシャフトに関連の深いスペックについて解説していきます。
アイアンシャフトの重さは、50グラム台の軽量モデルから120グラム以上の重量級まで揃っており、ドライバー以上にバリエーションが豊富です。
アイアンでは重いほど、ボールに対して上からダウンブローに打ち込みやすく、軽いほど、レベルブローに打ちやすい性質があります。例えばパワーのあるゴルファーが軽過ぎるシャフトでアイアンを打つと、ヘッドが落ち切らずにボールの上を叩いてトップのミスが出る…と言ったことがありますので、自分に合う中で、少し重いものを選ぶのがおすすめです。
ちなみに、吊るしのアイアンに標準装備されているスチールシャフトは、重さが100グラム前後であることが多いです。一方で、女子プロが使用しているシャフトはそれよりも軽い80〜90グラム台が多いです。もしアイアンシャフトの変更を検討している場合は、この80〜90グラム台を基準に考えると良いでしょう。
アイアンには基本的に、番手ごとに0.5インチずつ長さを変えたシャフトが装着されます。7番が37インチなら、8番は36.5インチ、9番は36インチといった形で長さが変化しています。
そのため、アイアンシャフトは同じモデルでも、それぞれの番手別に長さの違うシャフトが用意されています。1本のシャフトをカットする形でさまざまな番手に装着すると、番手ごとに振り心地やシャフト特性が変わってしまうためです。
余談ですが、上級者の中には、7番用のシャフトを長めにカットして8番に装着するといった工夫をする人もいます。これは「番手ずらし」と呼ばれるテクニックで、シャフトが少し柔らかく感じられるなど、通常とは違った振り心地を得ることができます。ゴルフ工房などでは対応してくれる場合がありますので、気になる方は相談してみても良いかもしれません。
スイング的な話をすると、アイアンではシャフトを長くするほど、レベルブローにボールを打ちやすくなり、打ち出し高さが得やすくなります。一方で、長くなるほど当てにくさが増しますし、上の番手になればそれはより顕著になります。そのため、アイアンの長さを決める場合は、1つの番手で考えるのではなく、セット全体で使い勝手が良いかどうか考えることが大切です。
シャフトの硬さを「フレックス」と呼びます。ドライバーと同じくアルファベット1文字で表記され、「L(レディース)」、「A(アベレージ)」、「R(レギュラー)」、「S(スティッフ)」、「X(エキストラ)」の順で硬くなっていきます。シャフトは柔らかいほど、しなる量が多くなり、アイアンでは打ち出し角が高くなって、球の高さが出しやすくなります。カーボンシャフトにこの傾向が強いですが、アイアンでは地面にあるボールを打つため、しなり量が多くなり過ぎると、ダフリやトップなどのミスが出やすくなるので注意が必要です。
前項の「フレックス」は、メーカーごとに基準が異なり、同じ「R」と表記されたシャフトでもモデルによって、硬さが違って感じられる…といったことがあります。そこでシャフトの硬さを表す新たな指標として使われることが増えているのが「振動数」です。
「振動数」は、専用の機器にグリップを固定し、ヘッド部に重しをつけて上下に揺らして、1分間に何回振動するかを示したものです。単位は「cpm」で、数字が大きいほど硬いシャフトになります。
振動数は、一部のメーカーや工房が独自に計測していることがありますが、使用する機器やヘッド部に付ける重しの重量がそれぞれ異なる場合があります。比較を行う際には、統一した基準で計測された「振動数」をチェックすることが大切です。
シャフトが最もしなるポイントを示したのが「キックポイント」です。「手元調子」、「中調子」、「先調子」などがあり、振り心地やヘッドの動きが変わってくるため、モデル選びをする際に気をつけたい要素のひとつとなっています。
一般的に、「手元調子」は切り返しのタメが作りやすく、ゴルファーの感覚でボールを操作しやすくなると言われます。一方で「先調子」は先端が軟らかくヘッドが走りやすくなるので、初心者でもボールをつかまえやすく、高いボールも打ちやすくなります。「中調子」はシャフトの中間部がしなるため、クセのない振り心地で幅広いゴルファーにマッチする特性を持っています。
ただし、「キックポイント」は基本的にシャフト中央の狭い範囲でしか、しなるポイントが計測できないため、それだけでシャフト特性を判断するのは危険です。特に最新モデルは部分ごとに細かな設計を行い、振り心地や弾道を調整していますので、「キックポイント」は参考程度にしておくほうが良いでしょう。
シャフトのネジレの度合いを示したのが「トルク」です。一定の負荷をかけたときにシャフト軸に対して、どれくらいネジれるかを基準に数値が決められており、2.0から7.0ほどの数値で表記されます。アイアンシャフトはドライバーよりも数値が小さく、ネジレの小さいモデルが多くなっています。また、ドライバーほどはスイングにおけるトルクの影響が小さくなりますので、参考程度に考えておくと良いでしょう。
ここからはお悩み別に最適なモデルを選ぶポイントを解説していきます。より詳細にモデルやスペックを絞り込みたい場合は、メーカーが主催するフィッティングイベントやゴルフショップ、工房などで相談してみると良いでしょう。
A.クラブをトップまで上げて、そこからの切り返しでクイックになる人には、手元部分にしっかりとした硬さのあるシャフトがおすすめです。切り返しの早い人は、手首がほどけてリリーされるのも早く、ボールの手前にダフッたりとさまざまなミスが出ます。手元が硬いシャフトは、中間から先端にかけてヘッドの走るモデルが多いので、リリースが早くてもボールをしっかり拾えて、つかまった球筋で飛ばしやすくなっています。
また、切り返しのテンポを調整する意味で、重めのシャフトを選ぶのもひとつの手です。軽量なシャフトだと、どんどん手先で振ってしまい、切り返しが速くなりがちですが、重いシャフトは物理的に速く振りにくくなりますので、テンポが改善できるかもしれません。
A.アイアンでより飛ばしたい場合、弾道の高さを考えることが大切です。例えば、ストロングロフトの飛び系アイアンを使っていて、高さが出ずにドロップしている人などは、軽量で打ち出し角の得やすいシャフトに変更することで飛距離を伸ばせる可能性があります。
一方で、軽過ぎるシャフトでボールが吹け上がって飛距離をロスしている場合は、重めのシャフトで高さを抑える工夫をすると良いでしょう。ボールに対して、上から強く打ち込めるようにもなりますので、球質そのものが大きく変わる可能性もあります。
また、番手ごとにシャフトを変えるのもひとつの手です。下の番手はしっかり飛距離が出ているのに、上の番手が飛ばないといったケースでは、ロングアイアンだけ軽量で、ボールを上げやすいシャフトに変更することで改善される場合があります。
ドライバーとは違い、アイアンは1つのクラブだけでなく、セッティング全体のバランスを見ながらシャフトを選ぶことが大切です。かなり複雑な調整が必要になる場合がありますので、難しいと感じる場合は、フィッティングなどを受けるのがおすすめです。
A.「カーボンシャフト」は基本的に設計自由度が高く、軽量でボールを高く打ち出しながら飛距離を伸ばせるモデルもあれば、重めで安定した距離をコントロールできるモデルもラインナップされています。それだけにシャフトの特性だけを考えたときには、どんなゴルファーにも合う可能性があると言えます。
ただし、カーボンは素材自体の比重が軽く、シャフトを重くすると重ね合わせるシートの量が多くなります。スチールに比べて、断面を見たときの肉厚がかなり太くなるので、パワーがないとしならないシャフトになる可能性があります。そのため、カーボンのメリットを一番生かせるのは軽量帯のモデルであることは間違いありません。そのため、シャフトを軽量化して飛距離を伸ばしたい人やインパクト時の衝撃を軽減して、体への負担を小さくしたい人には、カーボンがおすすめです。
さまざまなモデルが存在するアイアンシャフトですが、ここでは代表的なブランドとその特徴について解説していきます。ブランドごとの特徴を知っておくと、シャフトを選ぶときに最適なモデルが見つけやすくなります。
男子プロに根強い人気を誇る重量級スチールの代表的ブランドがトゥルーテンパーの『ダイナミックゴールド』です。発売から40年以上の月日が経っていますが、その圧倒的なコントロール性能と優れた安定性には絶大な信頼が寄せられています。
定番となっているのは130グラム前後の重量級モデルですが、最近では『ダイナミックゴールド』らしい特性を持ちながら軽量化されたモデルも増えています。最新モデルとしては最新のヘッドやボールに最適化された『ダイナミックゴールド ミッド』シリーズが発売され、人気となっています。
軽量スチールの代表的モデルとして、『ダイナミックゴールド』と並ぶロングセラーを記録しているのが日本シャフトの『N.S.PRO』です。日本シャフトはドライバーからパターまで、あらゆるクラブのシャフトを手がける総合シャフトメーカーで、特にスチールシャフトを作る技術の高さに定評があります。
『N.S.PRO』は発売当時、世界最軽量のスチールシャフトとして一世を風靡しました。カーボンに近い軽さに仕上げながら、スチールらしい振りやすさやコントロール性を持ち、粘るような挙動で抜けの良さもあるなど、アイアン用のスチールシャフトに革命をもたらした存在だと言えます。最新モデルとしては、現代のアイアンにマッチする性能、デザインが採用された『N.S.PRO850GH neo』があります。
また、同じ『N.S.PRO』を冠するモデルとして、重量級のシャフトが揃った『N.S.PRO MODUS3(モーダス3)』シリーズもプロアマ問わず人気となっています。かつては重量級ならトゥルーテンパー、軽量モデルなら日本シャフトというイメージがありましたが、『N.S.PRO MODUS3』の登場で、勢力図が一変。今では、『ダイナミックゴールド』と並ぶ重量級シャフトの人気モデルとして、男子プロを中心に使用者を増やしています。
「複合シャフト」のカテゴリで、パイオニアとも呼べるブランドが『スチールファイバー』です。元々はエアロテックというメーカーが展開していたシャフトですが、2019年にトゥルーテンパーに統合されました。
コア部分をカーボン素材で作り、外側には人間の髪の毛の約10分の1の細さになるスチール繊維を巻き付けて、2つの素材を複合しています。カーボンの設計自由度と飛距離性能、スチールの安定性を併せ持つ高性能シャフトとして、女子プロを中心に使用者を増やしています。有名なところでは、2024年のパリ五輪で金メダルを獲得したリディア・コ選手が『スチールファイバーfc70』というモデルを愛用しています。
『スピーダー』や『ベンタス』といったウッド用の人気シャフトを展開する藤倉コンポジットがラインナップしているアイアン用カーボンシャフトが『トラヴィル』です。
ボールを狙ったところに止めるための「落下角」にフォーカスして開発されたシャフトで、カーボンや金属、ゴムなどをコンポジットして、緻密な設計がされています。アイアンで高いボールが打てずに、グリーン奥に外れてしまうことの多いゴルファーには最適なシャフトだと言えるでしょう。
藤倉コンポジットにはその他にも『MCI』というアイアンシャフトを展開しており、今でも女子プロの愛用者がいるなど、根強い人気を誇っています。
ウッド用カーボンシャフトの老舗メーカー、グラファイトデザインが展開している新しいアイアンシャフトのブランドが『ラウネ』です。
カーボンの設計自由度を生かして、番手ごとに最適な弾道が出るように設計されたシャフトで、上の番手は高弾道でやさしく飛ばせて、下の番手はボールを自在にコントロールできるようになっています。
『ラウネ』はアイアン用だけでなく、ウェッジ用やハイブリッド用もラインアップされていることも特徴的です。グリーンを狙うショットをやさしくしてくれる高性能なカーボンシャフトだと言えます。
ここまでアイアンシャフトの基本的な用語の解説やおすすめなブランドについて解説してきました。自分に合ったシャフトを使うことで、狙った距離を飛ばしやすくなりますし、弾道のコントロール性能を上げることもできます。アイアンは、スコアメイクに直結する重要なクラブですので、上級者になるほど、ドライバー以上にこだわってシャフトを選んでいますし、一度決めたら、長く替えずに使用しています。
ぜひ、本記事を参考に、自分に合った最高のアイアンシャフトを探してみてください。