『一つの市民権と二つの祖国: ローマ共和政下イタリアの市民たち』(京都大学学術出版会)著者:毛利 晶
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その他の書店新聞の書評欄に学術書はなじまない。しかし、知の最先端を歩む研究の残り香だけでも嗅いでおくのも、ときには悪くない。すでに五〇年以上にわたってローマ史研究の先陣を切ってきた著者の業績は貴重である。
紀元前四世紀以降の「ローマのイタリア支配」と一口に言っても、多くの地方住民は生まれ育った土地で一生を過ごしていたにすぎない。彼らが運よくローマ市民権を得てローマ人になったとしても、土着の伝統に根ざす地元意識との折り合いはどうであったのだろうか。まずもってイタリアの諸民族を服属させ、この半島で帝国にいたる支配を構築しなければならないのだ。そのイタリア支配の要点は「自治都市」と「投票権なき市民権」に求めることができるという立場から、法学史料・文献史料・碑文史料などの詳細を渉猟して、解読・解釈する作業が延々とつづく。
たとえば、市民権の不法取得返還請求法の実態を文献と碑文の断片から復元するのは苦行である。このように史料は限られているが、その経過をたどりながら帝国の原形を浮かび上がらせようとする。「二つの祖国」とは現代にも実感できる迫真さがある。
【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著作に『多神教と一神教』『愛欲のローマ史』『はじめて読む人のローマ史1200年』『ローマ帝国 人物列伝』『競馬の世界史』『教養としての「世界史」の読み方』『英語で読む高校世界史』『裕次郎』『教養としての「ローマ史」の読み方』など多数。
【初出メディア】
毎日新聞 2022年2月26日
【書誌情報】
一つの市民権と二つの祖国: ローマ共和政下イタリアの市民たち著者:毛利 晶
出版社:京都大学学術出版会
装丁:単行本(401ページ)
発売日:2022-01-31
ISBN-10:4814003765
ISBN-13:978-4814003761