勝因は「心のリセット」また一人アジアからPGAツアー優勝者が誕生【舩越園子コラム】

幼い頃からの夢を叶えた瞬間、ユ・チュンアンはよろこびを爆発させた(撮影:GettyImages)

勝因は「心のリセット」また一人アジアからPGAツアー優勝者が誕生【舩越園子コラム】

10月7日(月) 12:00

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PGAツアーのフェデックスカップ・フォール第2戦「サンダーソンファームズ選手権」の最終日は驚きの展開になった。トータル20アンダーの単独首位で最終日を迎えたのは米国のキース・ミッチェル。1打差の2位には、同じく米国のボウ・ホスラーで、ホスラーから1打差の3位には台湾のユ・チュンアン(登録名:ケビン・ユ)がつけていた。



優勝トロフィーが“超個性的”【写真】


ミッチェルは2019年の「ホンダ・クラシック」を制したPGAツアーの優勝者だが、ホスラーとユは未勝利。優勝経験があるミッチェルが、やや有利かと思われたが、3日目の夜、ミッチェルは最終日に襲われるプレッシャーを警戒するかのように、こんなことを言った。

「明日はサンデーだ。これまでの3日間とは、まったく異なる1日になる。これまで僕は何度も最終日最終組になり、そこで失敗することを繰り返してきた。でも明日は過去の失敗から学んだことを活かし、決して同じ失敗はしないつもりだ」

しかし72ホール目の18番でミッチェルは悪夢に襲われた。1つ前の組でプレーしていたユが18番で長いバーディパットを見事に沈め、先にトータル23アンダーでフィニッシュした。最終組のミッチェルとホスラーは23アンダーで並んで最終ホールの18番へ。ホスラーはティショットを左に曲げ、木の後ろからのショットを余儀なくされる窮地に陥った。

一方、ミッチェルはグリーンを捉え、バーディなら優勝、パーならプレーオフ。だが、アグレッシブすぎたバーディパットは1.5メートルもオーバー。返しのパーパットも外し、まさかの3パットでボギーを喫し、またしても「サンデーの失敗」に唇を噛み締めることに。ピンチに直面していたホスラーは、うまくリカバリーして18番をパーで収め、ユとのサドンデス・プレーオフへ突入した。

1ホール目の18番でピン1.5メートルを捉えたユが、プレッシャー下では外しごろでもあったそのバーディパットを見事にカップに沈め、両親が見守る中で夢にまで見た初勝利を決めた。

ユは台湾出身の26歳。アリゾナ州立大学を経て、2021年にプロ転向。下部ツアー経由で2023年にPGAツアーに辿り着き、これまでは3位が自己最高位だったが、ツアー2年目にして待望の初優勝を挙げた。

勝因は「心のリセットだった」。レギュラーシーズンをフェデックスカップ・ランキング90位で終え、来季シード権を確保したものの、プレーオフ・シリーズ進出を逃したユは、「ウインダム選手権」終了後は母国・台湾へ戻った。

「それまでは6試合、いや7、8試合の連戦続きで疲れ果てていたけど、台湾では友人たちとフィッシングを楽しんだ。そのおかげでメンタル面がリセットされ、心が新鮮になり、これなら戦えるという気持ちになった」

母国で過ごしたオフの間、ゴルフはほとんどせず、技術的な調整についても「特に何もしなかった。コーチいわく、僕のパットは練習グリーン上では素晴らしいのに、コース上では同じようにパットできていなかったそうだ。でも心がリセットされたら、練習のときと同じグッドパットが試合でもできるようになった」。72ホール目のバーディパット、そしてプレーオフ1ホール目のバーディパットは、まさに、その典型だった。

「優勝できたことは、文字通りのドリーム・カム・トゥルーだ。この瞬間を僕は5歳のときから夢見てきた。いろんなことを犠牲にして僕を支えてくれた両親には感謝の気持ちでいっぱいだ。両親の目の前で初優勝を挙げることができた」

感無量のユの満面の笑みはとても眩しく、また1人、アジアからPGAツアー優勝者が誕生したことが、とてもうれしく感じられた。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)


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