21世紀になってから大復活を遂げたベントレーブランド。その復活劇を支えたモデルこそが2004年に登場した「コンチネンタルGT」だった。それまでのベントレーといえばロールス・ロイスと車台を共有する”瓜二つ”のモデル展開の時期が長く続いたため、V8ターボなど高性能なエンジンを搭載したモデルも存在したけれど、どちらかといえば大きくて豪華なハイエンドサルーンの域を出てはいなかった。
【画像】ゴージャスで完成度の高いグランドツーリングカーに、スポーツカー的な魅力も加わった新型ベントレー・コンチネンタルGT(写真19点)
けれどもベントレーといえば、ロールス・ロイスと同体になる以前、つまり戦前1931年までのいわゆるベントレーボーイズ時代には、モータースポーツにおいて輝かしい戦績を収めた世界最高峰のスポーツブランドであった。そんなベントレーを98年に傘下へと収めたVWグループは、ロールス・ロイスとの差別化を積極的に図るべく、超大型高級車路線からよりスポーティな高性能ブランドへのイメージ転換を図る。その核心的な存在が2003年に登場したコンチネンタルGTだった。
初代コンチネンタルGTは21世紀の名車と言っていい。もちろんVWグループとしてのシナジーを強力に推し進めた結果の産物でもあり、そこにはプラットフォームやW12パワートレーンといったコンポーネンツの共有も多数あった。それでもなおコンチネンタルGTは輝いていた。そのデザインが、全く新しいクーぺスタイルでありながら、いかにもベントレーらしく、そしてモデルコンセプトを饒舌に語っているからだ。
コンチネンタルGTは大成功を収めた。それゆえ、基本のクーペシルエットはもちろん、4ライトのヘッドライトや控えめなテールランプデザイン、猛獣が力を漲らせて佇むような前後のフェンダーラインといったデザイン上の特徴もまた都合3世代に渡って継承されてきた。ちなみに個人的にはコンチネンタルGTとしてのデザイン的なバランスに優れていたのは第2世代だったと思っている。
それはともかく、流石に4世代続けてよく似た顔じゃ飽きられそうだ。そこでベントレーのデザイナーチームは、ある種の原点回帰を試みた。1950年以前の、もっといえばベントレーボーイズ時代の”二つ目”スタイルにデザインの拠り所を求めたのだ。
新しいヘッドライトはタイガーアイをモチーフにした。サイドシルエットは初代から変わらず佇む野獣のようだから、動物的な辻褄も合った新しい二つ目もなかなかの迫力である。同時にリアコンビネーションランプも変えてきた。輝き方に特徴のあるカットレンズで、とにかくゴージャスだ。控えめな表情でなくなったのは惜しいけれど。
初代デビューから20年。第四世代は最上級グレードのGTスピードおよびGTCスピードから登場した。第3世代からのビッグマイナーチェンジとも言えるが、パーツやコンポーネンツの約7割は新設計で、特にパワートレーンやサスペンションシステム、400V電気アーキテクチャなどを新たに開発して搭載している。ナカミは間違いなくフルモデルチェンジ級。そんな新型コンチネンタルGTスピードの国際試乗会がスイス北部(ほとんどイタリア)で今最も注目されるリゾート地・アンダーマットにおいて開催されたので参加した。
拠点となった”The Chedi”は、この地を新たなリゾートとして開発するにあたって核心となったラグジュアリィホテルで、今や高級車やクラシックカーの新たな”溜まり場”になっている。試乗会の当日もジャガーやメルセデスなどのクラシックカーや最新のスーパーカーが屯していた。周りを囲むアルプスの山々には素晴らしい峠がいくつもあって、何日も飽きずに風光明媚なドライブを楽しむことができるからだった。
試乗会のルートも主だった峠道を走破できるよう設定されていた。まずはGTCスピードを借り出す。路面はウェットだったが陽が差し始めている。ためらうことなくオープンに。開閉システムは先代と変わらない。
新たなサスペンションシステムによる乗り心地の良さに感心しつつ、そして最大81kmという航続距離を誇るフル電動走行のスムースさを楽しみつつ、街中を抜ければあっという間に峠道、しかもなかなか狭くてチャレンジングなワインディングロードに差し掛かった。
アクセル開度で75%、140km/hまでフル電動走行が可能なプラグインハイブリッドシステムを備えるから、ドライブモードを車にお任せの「B」にしておくとたいていの領域はBEVで賄ってしまう。それはそれで嬉しいのだが、やはり新開発のV8エンジンも味わっておきたい。電気モーターアシストを前提としたこのところの新エンジンはいずれも試し甲斐のあるスペックを誇っている。
ドライブモードをスポーツに。これまでのベントレーではあまり試さなかったモードだ。B(ベントレー)モードで十分だったのだ。もちろん今回もBはとても優秀でインテリジェントだ。けれども電気モーター&バッテリーの力を借りずエンジン単体で600psを誇るV8ツインターボエンジンも試しておきたい。
モードが変わると足元のさらに奥の方でくぐもったエンジンサウンドが立ち、すぐさま乗り手の心を揺さぶるエグゾーストノートが内からも空からも聞こえ始めた。なかなか官能的で心地よくラウドなクロスプレーンV8サウンドだ。
サウンドだけじゃない。力強さも相当だ。モーターによってターボラグは打ち消され、トルクの波は種類を変えつつもスムースに受け継がれていく。波形を大きくしながら、だ。バッテリーを後方に配置したため前後の重量バランスが良くなった。リアステア制御と相まって、ハンドリングにはもちろん、加減速の安定にも大いに寄与する。いやはや、新しいコンチネンタルGTは超豪華で快速のグランドツアラーだけにあらず、峠をものともしないハンドリングマシンになっていた。これには本当に驚かされた。
最も感心したのが制動フィールだ。コンポジットブレーキのタフネスぶりはかなりのもので、コントローラブルでよく効く。減速時の姿勢も良い。だからまた加速したくなる。コーナリングスピードも結果的にさらに早くなるから、峠道がとても楽しい。
クーペに乗り換えて、もはやコンチネンタルGTスピードとは思えなかった。まるで豪華で大きいけれど大きさと重さを不利に感じさせない出来すぎたハチロクだ。それほど前足は自由に動き、ノーズの切り込みは鋭く、軽快なサウンドを発し続けた。
コンチネンタルGTは相変わらず豪華で工業製品として完成度の高いグランドツアラーだ。そこにスポーツカー的な魅力も加わった。商品企画的には隙なし、であろう。
文:西川 淳写真:ベントレーモーターズ
Words: Jun NISHIKAWAPhotography: Bentley Motors
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