さまざまな事情から、賃貸物件を借りにくい人たちが増えていることを知っていますか?それは他人事ではなく、老後の住み替えや働き方の変化などに応じて、私たちの誰もが当事者になるかもしれない身近な問題です。そこで今回は、今実際に起きている問題と、困っているかたたちをサポートする制度や取り組みにについてご紹介します。
約7割の大家が、“住宅弱者”に対して拒否感を抱いている
先ごろ、通常国会で「住宅セーフティネット法」が改正(※1)されました。「住宅セーフティネット法」とは、高齢者をはじめ、障がい者、低所得者、子育て世帯などの住宅確保に配慮が必要な人々「住宅確保要配慮者」への支援を目的とした制度のこと。こうした法整備のみならず、現在、さまざまな社会的立場の人が平等に住む場所を得るためのサポート体制が広がりつつあります。今、住環境においてどのような社会問題があるのでしょう? また、それをサポートするサービスにはどのようなものがあるのでしょうか。株式会社LIFULLが運営する、“住宅弱者”にフレンドリーな不動産会社を検索できるサービスLIFULL HOME’S「FRIENDLY DOOR」の事業責任者である龔軼群(キョウイグン)さん(以下、キョウさん)にお話をうかがいました。
――まず「住宅弱者」について、どのような人を指すのか教えてください。
キョウさん年齢、国籍、セクシュアリティー、経済力、社会的立場などを理由に、住まい探しに困難を抱えるかたがたのことです。
国では、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、シングルマザー・シングルファザーを含む子育て世帯、外国籍などを「住宅確保要配慮者」と定めていますが、LIFULLではフリーランスや家族に頼れない若者たち、LBGTQ+なども加えて「住宅弱者」と定義し、サポートする取り組みを実施しています。
――「住宅弱者」が不動産オーナー(大家)から賃貸住宅を貸してもらえない、いわゆる「貸し渋り」される主な理由はなんですか?
キョウさんそれぞれ違ったいくつかの理由があります。たとえば低額所得者やシングルマザー・シングルファザーを含む子育て世代、勤務先というバックグラウンドのないフリーランス等は、経済状況の不安定さから支払いが滞ってしまうのではという不安があると思いますし、また高齢者であれば認知症による徘徊等の行動や孤独死の問題、外国籍の人であれば言葉の違いによる他の入居者とトラブルなどが懸念されるのだと思います。
事故や事件が発生した場合、次の入居者に告知する義務があり、新しい入居者を探しづらくなってしまいます。家賃を下げるなどして対応した場合、不動産オーナー(大家)の収入に影響が出てしまうため、敬遠されてしまうのでしょう。
2023年の国の意識調査では、7割の不動産オーナー(大家)が高齢者や障がい者に対する拒否感をもっているという結果も出ています。
――住宅弱者のなかでも、もっとも多数を占めるのが高齢者ではないかと思います。賃貸住宅を借りたい高齢者にはどのような不具合が起こるのでしょうか?
キョウさん65歳を過ぎると賃貸住宅を契約することが難しくなります。先ほども述べたように、認知症による徘徊等の行動や孤独死などの懸念があるためです。
「高齢社会対策総合調査」(2023年度)によると、65歳以降に入居を断られた経験のある人のなかでも、とくに単身者や世帯収入が120万円未満の人の割合が高くなっています。
夫婦ふたりで入居する、万一のときの身元引受人や家賃の連帯保証人がいるというかたなら契約してもらえる場合もありますが、身よりのない単身高齢者への貸し渋りは顕著ですね。
――資産があれば問題ないのでしょうか。
キョウさん支払い能力があったとしても単身者の場合は敬遠されることが多いと思います。
――それはなぜでしょう?
キョウさん人が亡くなって2、3日のうちに発見されれば「自然死」ですが、1週間以上経過し、腐敗が進んだ状態で見つかると特殊清掃を入れなければなりません。つまり、「事故物件」ということになり、物件の資産価値が下がってしまうのです。
――不動産オーナー(大家)からすると「いかに早くご遺体を見つけるか」ということが重要になるのですね。でも単身者だと、見つけるのが遅くなってしまう可能性が高い、と。
キョウさんそうですね。ですから、見守りサービスや、孤独死保険(孤独死により事故物件となった場合、原状回復や特殊清掃のための費用や、減額した家賃等の損失をカバーしてもらえる保険)等の対策をしていない不動産会社は「高齢者お断り」ということになりがちなのです。
居住支援法人らの見守り体制が鍵
――高齢者をはじめ、住宅弱者をサポートする仕組みには、どのようなものがあるのでしょうか。
キョウさんまず、都道府県から指定された「居住支援法人」が挙げられます。住宅弱者に対して、賃貸住宅へのスムーズな入居の促進を図るため、次のようなことを実施しています。
電話やメール、面談による相談 他の支援団体や不動産会社との連携による情報提供やマッチング 登録住宅の入居者への家賃債務保証 見守りなどの生活支援 安否確認や緊急連絡先の提供 入居後の相談
この他にも各法人によって、さまざまなサポートをしています。
たとえば、鹿児島の「NPO法人やどかりプラス」では、担当ひとりと地域の高齢者が4人1組になってLINEグループを作り、毎朝「おはよう」と挨拶を交わす取り組みを行っています。そうすることによってスムーズな安否確認ができる。
大人数だと埋もれてしまう可能性がありますが、少人数のグループであればコミュニケーションも取りやすいですし、話し相手や友人を作ることも可能です。シンプルですが画期的な見守りのスタイルだと思います。
こういう居住支援法人が見守っているとわかれば、不動産オーナー(大家)も安心して物件を貸すことができるのではないでしょうか。
――第三者による見守りやケアが必要不可欠になっていくのですね。
キョウさんそうですね。今、多種多様な見守りサービスが増えています。警備会社と契約しておけば、体調に異常があるとき緊急ボタンを押すと警備員が駆け付けてくれるサービスをはじめ、24時間以内に電球がON/OFFにならなければ、設定したメールに通知がいく「HELLO LIGHT」社のサービス(※2)や、お弁当を届けて安否を確認する「見守り配食」などがあります。
お弁当やドリンクを配って安否確認するサービスについては、民間だけでなく行政でも行っているところもあります。また、困窮世帯に対して見守り器具の補助金を出してくれる自治体もありますので、ぜひお住まいの市町村窓口に問い合わせてみてください。
住宅弱者は情報弱者?
――住宅弱者に対する、その他の取り組みについて教えてください。
キョウさん住宅弱者は不動産会社への来店自体を断られるケースもあり、物件探しのスタート地点にすら立てないかたもいます。そこでLIFULLでは、各住宅弱者カテゴリーのかたに対して親身になって住まい探しの相談に応じる不動産会社を集約して掲載し、検索できるようにしたサービスLIFULL HOME’S 「FRIENDLY DOOR」(※3)を開始しました。
住宅弱者と、住まい探しに寄り添ってくれる人(不動産会社)をマッチングするサービスで、現在、約6,000軒の不動産会社が参画しています。
今年6月には、「FRIENDLY DOORサポートデスク」(※4)を開設し、情報提供をしたり、理解のある不動産会社や居住支援法人につなげたりしています。ライン等で気軽に相談していただけるので、ぜひ利用していただきたいですね。
また、「LIFULL HOME’S PRESS」(※5)等の自社メディアで、住宅弱者にまつわる問題や、それに取り組む不動産会社を紹介したり、不動産会社が抱える問題点を記事にしたりして発信しています。
――住宅弱者が「情報弱者」にならないための、素晴らしい取り組みですね。
キョウさん住まい探しにおいて誰も排他されない社会が理想です。会社としても個人としても、その一助になれるように今後も活動を続けていきたいと思っています。
Information
<教えてくれた人>
龔 軼群(キョウイグン)さん
LIFULL HOME’S「 FRIENDLY DOOR」責任者。1986年、中国・上海出身。5歳から日本で暮らす。中央大学総合政策学部を卒業後、2010年に株式会社LIFULL新卒入社。家族や自身が、国籍を理由に日本での住まい探しに苦労した経験から、希望する住まいを借りることができない「住宅弱者」の問題に気づく。2019年、住宅弱者問題を解消するため、住宅弱者にフレンドリーな不動産を検索できるサービス「FRIENDLY DOOR」を立ち上げ、事業責任者に。目標は「世の中からFRIENDLY DOORが必要なくなること」。そのほか、機会の平等による貧困削減を目指す認定NPO法人「Living in Peace」でも活動し、18年から代表理事を務める。
取材、文・髙倉ゆこ
【関連記事】
注文住宅を建てた人が「後悔したこと」とは? 不動産専門家が教える! 間取りの「失敗ポイント」
家を買うために貯金してはいけない!? 不動産専門家が教える! 知らないと損する「家づくりのNG行動」3選
不動産会社の経営者が教える! 早めにやっておきたい「実家売却時の備え」