阿部サダヲのサイコパスっぷりが恐ろしい…白石和彌監督が手掛ける映画「死刑にいたる病」のあらすじと見どころに迫る

「死刑にいたる病」より/(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

阿部サダヲのサイコパスっぷりが恐ろしい…白石和彌監督が手掛ける映画「死刑にいたる病」のあらすじと見どころに迫る

9月5日(木) 18:00

「死刑にいたる病」より
【写真】暗い表情で立ち尽くす水上恒司“筧井雅也”

1992年に舞台でデビューし、30年以上のキャリアを持つベテラン俳優・阿部サダヲ。味のある実力派俳優として数々の作品に出演し、常に新しい姿を見せ続けている。スクリーンでは宮藤官九郎監督と非常に相性が良く、2007年に初主演を飾った映画「舞妓Haaaan!!!」では第31回日本アカデミー賞主演男優賞を受賞。その後も、2009年公開の映画「なくもんか」でバカが付くほどのお人よしで働き者の惣菜屋店主を、2013年公開の「謝罪の王様」では少々胡散臭い“東京謝罪センター”の所長を愛嬌たっぷりに演じ、抜群のコメディセンスを発揮した。

このように“コミカルな演技”や“優しい人柄”などが印象として強い阿部だが、2022年に公開されたサイコサスペンス映画「死刑にいたる病」では、恐ろしい連続殺人鬼(シリアルキラー)役に挑戦。これまでのおどけた雰囲気を一切封印し、目から光が消え去った阿部の姿は世間に衝撃を与えた。そこで今回は、本作のあらすじや見どころを深堀りしていく。

■「冤罪を証明してほしい」凶悪犯から依頼を受けた大学生が独自に捜査を進めるが…

ミステリー作家・櫛木理宇の同名小説が原作となる本作。監督を務めるのは、「孤狼の血」シリーズをはじめ、「凶悪」「彼女がその名を知らない鳥たち」「サニー/32」などの猟奇的な作品を世に送り出してきた白石和彌監督。当時は237館と中規模での公開だったが、週末興行収入ランキングは6週連で続トップ10入りを果たし、公開から約1カ月時点で興行収入は10億円を突破。配給会社・クロックワークスの単独配給としては、歴代1位を記録するほどのヒット作となった。

物語は、大学生の筧井雅也(水上恒司)のもとにある1通の手紙が届いたことで大きく動き出す。差出人は榛村大和(阿部サダヲ)。おもに高校生をターゲットとした24件の殺人容疑で逮捕され、死刑判決を受けた凶悪犯だった。

雅也は拘置所に行き榛村と面会すると、榛村から「殺人の最後の1件は冤罪だ。真犯人を突き止めてほしい」と頼まれる。もともとパン屋で出会った優しい榛村との思い出があった雅也は、独自に捜査を始めることに。その中で、二転三転する真実や深まる謎に翻弄されながらも、雅也は想像を絶する事実へとたどり着く――。

本作は、一件の冤罪事件の真相を解明しようと雅也が奮闘する様子や、榛村がこれまで犯してきた殺人・拷問の描写が主軸として描かれているが、その一方で、雅也の母親・衿子(中山美穂)の隠された過去や、雅也の大学の同級生・灯里(宮崎優)との関係性なども同時に描かれる。周囲のキャラクターを巻き込みながら、物語は思わぬ方向へ展開していくため、終始飽きのこない構成に仕上がっている。
「死刑にいたる病」より


■シリアルキラーの“表と裏の顔”を見事に演じ分けた阿部サダヲの怪演ぶりに注目

本作では、2面性を持つ榛村のキャラクター性と、阿部の怪演ぶりに注目したい。何件もの殺人を犯してきた凶悪犯でありながらも、普段は愛想の良いパン屋の店主を演じている榛村。彼の殺人の手口は、まずターゲットを見つけたら、親身に寄り添って相手に自分のことを完全に信頼させていく。そして、相手の信頼度が最高潮になった時、彼らを拉致していたぶり、許しを懇願するターゲットに対して笑みを浮かべながらとどめの一撃を加えるという残虐極まりないものだった。

普段の榛村は殺人犯である隙をまったく見せないほど愛想が良く、駐車した自転車をわざと倒しターゲットに“おっちょこちょい”な一面を見せたり、“助けてあげたい”と思わせるなどのテクニックを使って近づいていく。そんな彼のテクニックは拘置所に入っても発揮され、最初は素っ気ない看守だったが、何度も顔を合わせる中で榛村はその心に入り込み、看守も徐々に榛村に甘くなる様子が描かれた。榛村が殺人現場で使っていた田舎の燻製小屋近くに住む住民も、普段の榛村の人柄から“あの人がそんな事件を起こすようには思えない”と言うほどだった。

そして、殺人を犯す際の榛村は大きな瞳にまったく光がなく、瞬きも少ない。瞳だけで思わず目を背けてしまうほどの恐怖感を与える榛村を、阿部は完璧に体現していた。榛村の2面性を見事に演じきった阿部に対し、ネット上では「優しそうな人柄とサイコパスなヤバイ奴を演じ分ける阿部サダヲの演技がすごい」「殺人鬼モードの時の瞳が怖すぎる…」「ふだんおもしろハッピーなキャラを演じている人が悪役をやると、余計ゾッとさせられる」など、彼の怪演ぶりを絶賛する声が寄せられていた。
「死刑にいたる病」より


「死刑にいたる病」より

■榛村の巧みな話術に翻弄されていく雅也

本作では、榛村と対話を通して心情が変化していく雅也の姿も見どころの一つ。幼少期から父親の暴力に苦んでいた雅也は、自分のことを気にかけてくれる榛村を心の拠り所として、彼のパン屋に頻繁に通っていた過去がある。希望の大学に行けず、友達もいないパッとしない生活を送っていた雅也だが、榛村が主張する冤罪について調べ始めたことで、いつしかそれが生き甲斐になっていく。

そして榛村を調べていくうちに、“本当に榛村は殺していないのではないか”という疑念のもと、少しずつ榛村に惹かれ、面会を重ねる中で心酔していってしまう…。その様子はまさに“洗脳”や“支配”と表現するにふさわしく、映画「羊たちの沈黙」のレクター博士とFBI訓練生・クラリスの関係を彷彿とさせるものだった。榛村の言葉巧みな話術によって、雅也はある行動に走るのだが、未来ある若者が闇落ちしそうな描写は本作でも印象的なシーンとなっている。

また、物語に大きく関わってくる謎の男・金山を演じた岩田剛典の演技にも注目。金山は事件の真犯人候補として途中から登場する人物で、顔の半分が髪で覆われ、怪しげな行動も見せる。普段“華やかなオーラ”を放つ岩田とは真逆の人物となっているが、作中で岩田は見事に陰気なオーラを漂わせ、金山役が岩田だと気付けないほどの演技を披露している。さらに、情緒不安定で意思が見えず、自身に大きな秘密を抱えている雅也の母親・衿子役を中山美穂が熱演。彼女の視聴者を不安にさせる演技も圧巻だ。

登場人物たちがそれぞれ“闇”を抱えている本作では、衝撃のラストを迎えることですべての点がつながり、体感したことのない感情が湧き上がってくるだろう。実力派俳優たちによる演技合戦や、先の読めない展開をスリリングに楽しめる映画「死刑にいたる病」は、現在動画配信サービス・Huluで見放題配信中。
「死刑にいたる病」より



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