ウィーンでの世界初演、欧州ツアーを経て、ついに日本初演。岡田利規、『リビングルームのメタモルフォーシス』を語る

岡田利規

ウィーンでの世界初演、欧州ツアーを経て、ついに日本初演。岡田利規、『リビングルームのメタモルフォーシス』を語る

9月12日(木) 17:00

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チェルフィッチュ × 藤倉大 with アンサンブル・ノマド『リビングルームのメタモルフォーシス』が、9月20日(金)、東京・東京芸術劇場シアターイーストで開幕する。ウィーン芸術週間の委嘱作で、2023年5月に同芸術祭にて世界初演、その後ヨーロッパツアーで上演された音楽劇の日本初演だ。国際的に活躍する演劇作家、演出家でチェルフィッチュ主宰の岡田利規と、ロンドンを拠点に活躍を続け、オペラや他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも多く手がける作曲家、藤倉大との初のタッグ。日本初演に向けてのリハーサルを重ねる稽古場で合同取材に応じた岡田に、「音楽劇」への挑戦、作品に込めた思いを聞いた。

滑稽だけれど、皆にとって重要な問題

「人間中心の芸術形式である演劇で、人間中心的なものから逃げていくようなもの、逸脱し、超えていくようなものを作ってみたくなりました。そのような試みをすることは、意味のあることだと思うんです」と、本作のテーマについて述べた岡田。本作に登場するのは、ある家のリビングルームに集う住人たちだが、彼らは家の管理会社から理不尽な立ち退きの宣告を受け、次第に何かの気配、さらには不穏な闖入者の存在に怯えるようになる。

チェルフィッチュ× 藤倉大 with アンサンブル・ノマド『リビングルームのメタモルフォーシス』メインビジュアル宣伝美術:岡﨑真理子(REFLECTA, Inc.)

「とてもわかりやすい構成の作品です。前半では、登場人物たちが人間中心的な問題、つまり、この家は誰の家であるとか、権利があるとかないとか、そういう話題にかかずらう。滑稽ですよね。だってそもそも大地は地球のものであって、あなたのものではないでしょう。と言いつつ、それはわたしたちの多くにとって馴染みのある、切実な問題でもあります。けれども物語の中心は、だんだんそこから離れていく。そんなことはどうでも良くなって、全然次元の違う、スケールの違うことに呑み込まれていく。そういう内容です」

日本初演に向け、岡田はあらためて稽古の最初のステップである読み合わせの時間をたっぷりと設け、テキストに真正面から向き合う。変容していくリビングルームで、得体の知れない力に呑み込まれていく様を表現していく俳優たち。岡田はその台詞の抑揚、助詞の選び直しに至るまで、一字一句丁寧に、表現を見直していく。

「日本語がダイレクトに伝わる場での上演だから言葉の伝わりかたをブラッシュアップするモチベーションが自然と上がりますし、なにより、上演を重ねるということは作品を成熟させる機会でもあるので、とにかくそれをやっていきたいんです。舞台上で発せられる言葉がお客さんの中に入っていくことは、シンプルだけど、とても大事。それを、やりたいんです」

リアルで自然な口語と、一見ぎこちなくも見える身体の動きによる独特の表現で知られるチェルフィッチュの舞台。読み合わせの場では、俳優たちが岡田の導きに即座に反応。その度に、台詞の響きは説得力を増す。「発せられた言葉が観客の中に入ってくるようにする。そこには割と心を砕いています」と明かす岡田。稽古中の彼の言葉には、俳優への信頼感、リスペクトがたっぷりと込められる。

歌わない音楽劇

岡田が受けたウィーン側からの委嘱は、「音楽劇」。思い浮かぶのは、俳優たちの歌唱が散りばめられる舞台だが──。

「まず、作品を作るならば全幅の信頼をおける役者と一緒に作りたい、それはマスト、と思ったんです。そして、僕が念頭に置いていた役者は、歌えない。この時点で、作品で歌う、という選択肢はなくなりました。藤倉さんも『歌わないほうが面白い』と。登場人物の感情だとか情景描写を増幅させるために機能するというのではない仕方で音楽がある、というのがやってみたいな、と思ったんです。音楽と演劇が併置されているもの、拮抗したような状態にあるもの」

世界初演(Wiener Festwochen 2023)より(C)Nurith Wagner-Strauss

ウィーンでの舞台写真や記録映像におさめられているのは、6人の俳優たちと、ウィーンを拠点とする世界屈指の現代音楽アンサンブル、クラングフォルム・ウィーンの7人の演奏家たち。日本の公演では、藤倉がアーティスティック・ディレクターを務める東京芸術劇場「ボンクリ・フェス」の常連でもあり、日本を代表する現代音楽アンサンブルのアンサンブル・ノマドの奏者たちが演奏を担う。彼ら奏者が、リビングルームの装置が配された舞台奥で演じる俳優たちの前に出て演奏する光景は、独特だ。

「音楽と演劇が併置され、拮抗し、同列にあるようなものを作るためには、まずビジュアルとして、音楽のほうを前に持っていくことに」と岡田。劇場ではきっと、藤倉の音楽の力、その魅力を大いに実感させられることになる。

音楽がなくても、演劇は作ることができる

ロンドンに住む藤倉とのオンラインでのクリエーションには、2年の時を費やしたという。

「藤倉さんは、オンラインでのクリエーションはメリットしかない、と言ってましたね。藤倉さんにとってもじゅうぶんインスパイアリングなものだったみたいです。リハーサルを見て、音楽を試して、ここはうまくいっていなかったからもう1回試そう、ということを即座にするための設備が藤倉さんの自宅にはあったし、それを可能にする環境を稽古場でも整えてクリエーションしましたしね」

藤倉大(c)Alf Solbakken

互いに心強いコラボレーターであったことは想像に難くない。が、岡田は藤倉に、「音楽がなくても演劇って作ることができる」と話したとも。

「ぼくにとって、照明も舞台美術も衣裳もなくても、演劇はできるんですよね。でも、だからこそ、美術家、音楽家、舞台衣裳家、照明家などと一緒に仕事をするのであれば、作品を、かれらの創意を発揮したくなるプラットフォームにしたいし、できる、とも思っているんです」

この作品を「音楽劇」と呼ぶことについて、「それはもう、渋々です」と言って皆を笑わせる岡田。彼のもとで、作品はさらなる深化へと踏み出した。

「上演の中で働く言葉の力を強くしていきたい。言葉は、それを受け取った人の中で、その言葉を聞かないと起こらない何か、聞いたからこそ起こる何かが起きた時に、働いた、と言える。東京公演のみならず、国内での上演がそのあとにも待っているので、そこに向けて、言葉の働きをできるだけ強くしていきたいです。そのとき、音楽との関係の質感も、新しいものになるでしょう」

取材・文:加藤智子撮影:藤田亜弓

<公演情報>
東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション
チェルフィッチュ × 藤倉大 with アンサンブル・ノマド
『リビングルームのメタモルフォーシス』

作・演出:岡田利規
作曲:藤倉大
出演:青柳いづみ、朝倉千恵子、川﨑麻里子、椎橋綾那、矢澤誠、渡邊まな実
演奏:アンサンブル・ノマド

2024年9月20日(金)~9月29日(日)
会場:東京・東京芸術劇場 シアターイースト

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2453650

公式サイト:
https://www.geigeki.jp/performance/theater371/

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