『八犬伝』で叶えた、最高のキャスティングと映像表現!曽利文彦監督が語る、10年以上にわたる映画化への想い

映画『八犬伝』に込めて想いを曽利文彦監督が語る!/[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

『八犬伝』で叶えた、最高のキャスティングと映像表現!曽利文彦監督が語る、10年以上にわたる映画化への想い

10月5日(土) 12:30

最先端のVFX技術と繊細な人間ドラマを融合させた作風に定評があり、『ピンポン』(02)、『鋼の錬金術師』シリーズなど、これまでに数々の話題作を発表してきた曽利文彦監督の最新作『八犬伝』が、10月25日(金)に公開される。「この物語を映画にしてみたいという想いは、もしかしたら、子どものころからあったのかもしれません」という曽利監督に、10年以上にわたる制作の道のりとキャスティング、本作に込めた想いについて聞いた。
山田風太郎の小説を読んで「クリエイター魂に火が点きました」と振り返る曽利文彦監督

江戸時代の大人気戯作者・滝沢馬琴が執筆した「南総里見八犬伝」は、現代でもマンガ、アニメ、映画、ドラマ、舞台、ゲームなど多彩なジャンルで二次創作がおこなわれ、日本のエンタテインメント作品に大きな影響を与え続けているスペクタクル・ファンタジー。曽利監督にとっても「八犬伝」は「小学生の時、NHKの連続人形劇『新八犬伝』を夢中になって見ていた」という思い出のある、なじみ深い物語だった。

■「この原作なら、正統派の『八犬伝』の物語だけでなく、馬琴と北斎の話も描ける」
山田風太郎の小説を読んで「クリエイター魂に火が点きました」と振り返る曽利文彦監督


「大人になって、映画の世界に入り、監督になってからも、いつか正統な『南総里見八犬伝』をストレートにやりたいという気持ちはずっと持ち続けていました。実際、企画でも何回か上げたこともあるんですが、本家本元の『南総里見八犬伝』を映画化するというのは、なかなかハードルが高くて…」。そんななか、曽利監督が十数年前に出会ったのが、「甲賀忍法帖」や「魔界転生」など奇想天外な娯楽小説で知られる作家・山田風太郎の名作「八犬伝」だ。

「南総里見八犬伝」を執筆中の馬琴が、画家の友人・葛飾北斎を聞き役にストーリーを語るというスタイルをとりながら、「八犬伝」の物語を紹介する“虚”のパートと、馬琴の生活や創作への葛藤を映しだす“実”のパートが同時進行で描かれるというユニークな構成。曽利監督は「読んでみて、これはすごい!とクリエイター魂に火が点きました。この原作なら、正統派の『八犬伝』の物語だけでなく、江戸時代の文化を代表する二巨頭、馬琴と北斎の話も描ける。これまでとは別の角度で『八犬伝』を映画化することができると思いました」と振り返る。

■「いまの日本で、馬琴、北斎をやっていただける最高のキャスティング」
監督たっての希望で、役所広司と内野聖陽がキャスティングされた


主人公の馬琴役として、曽利監督が当初からイメージしていたのは、日本を代表する名優・役所広司。馬琴の友人である北斎役には、前作『鋼の錬金術師 完結編』で重要なキャラ、ヴァン・ホーエンハイムを演じ、曽利監督が厚い信頼を寄せる内野聖陽。「いまの日本で、馬琴、北斎をやっていただける最高のキャスティングが、この2人だと思っていたんです。で、本作が企画として正式に動き始めた時に、役所さんと内野さんに引き受けていただけた。最高の瞬間でしたね。映画監督として長年の想いが叶ったような感じでした」。

本作では、曽利監督自身が単独で脚本も執筆。上下2巻の長編小説を1本の作品にまとめるにあたっては「まず、“実”のパートのメインとなる馬琴と北斎の絶妙な会話を、原作の印象をなるべく壊さずに再現することを意識しました」と話す。

【写真を見る】滝沢馬琴と葛飾北斎になり切った、役所広司と内野聖陽

馬琴から「八犬伝」のストーリーを聞いた北斎が、頭に浮かんだイメージを軽やかな筆さばきで描き、また、馬琴がその絵に触発され、物語の続きを書き進めるエネルギーを得る。小説と挿絵でタッグを組み、長年一緒に多くの読本を制作してきた2人ならではのバディ感が楽しく、観ているだけで、互いに影響を与え合っている2人の絆の強さが伝わってくる。

「役所さんも内野さんも完璧に演じてくださって、すごく贅沢な現場になりました。実際、撮り上がってみて、これ以上ないだろうと思うくらいすばらしかったです」。そんな2人を取り巻くキャストには、馬琴の息子・宗伯役に磯村勇斗、宗伯の妻・お路役に黒木華、馬琴の妻・お百役に寺島しのぶと、演技派の俳優陣が集まった。

「東海道四谷怪談」の名場面を、中村獅童と尾上右近が演じた

曽利監督が「本作の肝の部分として、絶対に外したくなかった」と語る、馬琴と北斎が舞台の奈落で歌舞伎作者・鶴屋南北と創作についての問答をするシーンで、南北を演じるのは落語家の立川談春。馬琴と北斎が鑑賞する歌舞伎『東海道四谷怪談』の名場面を、“本物の”歌舞伎役者の中村獅童と尾上右近が演じているのも注目ポイントだ。

「“ものづくりの醍醐味”が詰まっている大事な一連のシーンなので、落語や歌舞伎など、何百年と歴史を背負っている古典芸能の人たちにやっていただきたかったんです」という曽利監督のねらいどおり、とても見応えのあるシーンに仕上がっている。

それにしても、馬琴と北斎がこれほど親しい間柄だったことを、本作で初めて知る人も多いのではないだろうか。「馬琴と北斎の友情、その事実に出会った時の驚きと納得感は、今回の大事なテーマのひとつでした。僕自身、そこに憧れを持ちましたし、お互いに天才であるがゆえに、惹かれ合っている2人の友情を映画として、ちゃんと描きたかった。2人の友情をちょっとステキだなと感じていただけたらうれしいですね」。

■「仲間が集まっていく過程のワクワク感も出せればいいな」

 悪を打ち取るため、運命に導かれるように集結する八犬士たち

一方、“虚”のパートでは「八犬伝」の物語が描かれていく。伝説の8つの珠を持つ8人の剣士が、運命に導かれて集結し、呪いをかけられた里見家を救うために、壮絶な戦いに挑む。個性豊かなキャラクターの冒険活劇には、これぞ日本ファンタジーの原点と言いたくなる爽快感があり、北斎ならずとも、続きが観たくてたまらなくなる。

「例えば、黒澤明の『七人の侍』(54)って、めちゃくちゃおもしろいですよね。でもあれって、モチーフは『八犬伝』だと思うんですよ。なにかひとつの目標に向かって、個性的な仲間が集まってくる。そのストーリーに人はものすごく惹かれるんだなっていう。フォーエバーななにかがあるのは間違いないですよね。我々はそこから逃れられない(笑)」。

呪いを解くため、八犬士たちが壮絶な戦いに挑む「南総里見八犬伝」の物語

とはいえ、大長編である「八犬伝」の物語を、“虚”のパートとして1時間近くに収めるのは至難の業。「本家本元の馬琴の「南総里見八犬伝」の始まりをちゃんと描くと、それだけで何時間もかかってしまうんですよね。物語をかけ足で描くにあたって、どの要素を残すか、ということはすごく考えました」と曽利監督は打ち明ける。

その際に指針になったのは、監督にとって「八犬伝」との最初の出会いでもあったテレビの人形劇。「物語のすべての始まりとなる里見家の愛犬・八房や、聖母のような存在の伏姫、八犬士にとって最大の敵となる美しくて怖い玉梓など、子どものころに観た人形劇から受けた印象、重要なポイントはしっかり押さえたかった。あとは、馬琴が書いた人と人とのつながり、仲間が集まっていく過程のワクワク感も出せればいいなと思いました」。

渡邊圭祐、河合優実らフレッシュなキャストが集結

それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が入った珠を持ち、名字には“犬”の文字が入り、身体のどこかに牡丹の花の形の痣があるという風変わりな共通項を持つ8人の剣士、“八犬士”のキャストには、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平。さらに八犬士の一人、犬塚信乃を慕う幼なじみの浜路には河合優実。八犬士の敵となる扇谷定正を塩野瑛久が演じている。

今回のキャスティングは、ほぼ曽利監督の希望どおり、いまの日本のエンタテインメントに欠かせないフレッシュな顔ぶれが集結した。生き生きとしたアンサンブル演技を披露していることについて、曽利監督は「キャストの皆さん、馬琴が書いたイメージを現代に置き換えると、こういう人たちになるだろうなと思える人たちです」と胸を張る。2年前におこなわれた本作の撮影のあと、さらなるブレイクを遂げた人も多い。

美しさも恐ろしさも!八犬士の最大の敵・玉梓役を怪演した栗山千明

「また、伏姫役の土屋太鳳さんは『昔から「八犬伝」が好きで、伏姫がやりたかった』と仰っていて、想像していたとおり、“日本のお姫様”にぴったりでした。玉梓は完全に悪役なんですが、これまでに何回かお仕事を一緒にしている栗山千明さんが、美しい女性が一瞬で豹変する凄みのある怖さを表現してくれて、さすがでしたね。皆さん、現場でも楽しみながら、力を入れてやってくださったので、もう感謝しかありません」。

■アクションシーンにも注目!「数年前までは技術的に不可能だったシーンもたくさんあります」
VFXで迫力満点に表現された決闘シーン


原作の名場面として有名な芳流閣の屋根の上での決闘シーンをはじめ、VFXのスペシャリストである曽利監督が創り上げた迫力満点のアクションシーンの数々も見逃せない。「最先端のCGの技術をうまく使って、いまの時代のエンタテインメントの感覚でいくと、こういうふうに描くことができます!屋根の上で戦うとは、こういうことです!っていうのを観ていただきたかったんです。数年前までは技術的に不可能だったシーンもたくさんあります」。

本作の制作を通して「多くの人が娯楽を求めていて、それを作品として提供する馬琴や北斎が必要とされていた江戸時代と、多くの人がアニメやゲームを含め、様々なジャンルのエンタメを楽しんでいる現代。エンタテインメントのニーズって、昔もいまもほとんど変わっていないんじゃないかな」と感じたという曽利監督。

胸が高鳴るエンタメのおもしろさと、それらを生みだすクリエイターの葛藤や執念。“虚”のパートと“実”のパートが合わさったことで、その両方が味わえる本作で、エンタメの魅力の奥深さをぜひ再確認してみてほしい。

取材・文/石塚圭子


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