作家、エッセイストとして活動する五十嵐大の自伝的エッセイを『そこのみにて光輝く』(14)の呉美保監督が映画化した『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が9月20日(金)に公開される。耳のきこえない両親のもとで育った耳のきこえる子ども、“コーダ”の主人公が感じる情緒や葛藤が繊細に描かれている本作。MOVIE WALKER PRESSでは、公開に先立って行われた試写会にて参加者にアンケートを実施。観客からは、感動の声が数多く寄せられている。
【写真を見る】吉沢亮の演技に涙を誘われる…『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の魅力を観客の声からひも解く
「自分の体験にもつながり、涙が流れるとともに両親への感謝の想いがあふれて連絡したくなりました」(30代・女性)
「コーダという特殊な環境、関係性がテーマだが、普遍的な親子の愛情や葛藤、関係の難しさを描いていて素直に感動した」(40代・男性)
「思春期で親と話したくなくても手話をしなければ伝わらない世界で葛藤する主人公が、どんな人生を歩んでいくんだろうと心配になりつつ、どんどん引き込まれていきました」(40代・女性)
「とにかく呉美保監督の演出がすばらしい作品でした」(30代・女性)
作品への満足度も5段階中4以上と回答した人が93%と、映画ファンからの評価も高い本作の魅力を観客のコメントと共にひも解いていく。
■ふたつの世界を生きる青年の葛藤を描いたどこにでもある物語
宮城県の小さな港町に生まれた男の子、大。ほかの家庭と少しだけ異なり、耳のきこえない両親を持つ大にとって、大好きな母の通訳をすることも小さなころからの日常だった。しかし徐々に周囲から特別視されることに戸惑いを覚え始めると、大好きだったはずの母の明るさも疎ましく思い、20歳になると家から逃げるように東京へ旅立つ。
劇中で日本には2万人ほどいると語られるコーダ。本作では、大のマイノリティな悩みがアイデンティティへと変わっていく様子が描かれる。紆余曲折を経ながら自らの境遇を受け入れていくという、人生のなかで誰もが経験しうる感情に思わず共鳴した人も多かったようだ。
「コーダという特殊な環境ではあるが、誰にでも当てはまる物語で共感でき、親に申し訳なく思ったり、子育てのシーンで子どもを思い出したり、自分自身に置き換えてしまうシーンが多く、自然と涙があふれました」(30代・女性)
「境遇の違う人生なのに、懐かしさを感じる場面が何度もありました」(40代・女性)
「1人の人間が苦悩しながら成長する過程を丁寧に描いた作品だなと思いました」(30代・女性)
■年齢によって変わる感情をすくい取った吉沢亮の演技力に脱帽
中学生から大人まで主人公、大の人生の大半を演じている吉沢亮。母親に対して厳しい口調で苛立ちをぶつけたり、うわの空でパチンコを打ったり、ろう者の智子(河合祐三子)ら東京で新たに出会った人々に笑顔を向けたりと、その時々の感情を繊細かつ表情豊かに体現している。
「ほんとに同じ人?って思うぐらい表情や行動や見た目が全然違くて。でも心の奥にある大の気持ちはずっと同じという感じもして、改めて演技の上手さに度肝を抜かれました」(20代・女性)
「(上京前の、母親と電車に乗るシーンを観て)小さいころの大好きな母に素直に接していた大と根幹は変わってないのだと、笑い合う2人を見てあたたかな気持ちになりました」(40代・女性)
「智子さんと初めて出会った時のやり取りに、大くんの根底の優しさが表れていて、ユーモアもあっておもしろかった」(30代・女性)
これらの言葉にもある通り、吉沢の演技や巧みな演出によって大の奥底に存在する“人間的な温かみ”を浮かび上がらせている。なかでも物語の終盤に大の母への感情がいっきに込み上げるシーンには、「いろんな想いがあふれ出した瞬間、一緒に涙があふれた」(30代・女性)など、心を揺さぶられたという声が多数見受けられた。
■演技とは思えない、自然な親子の関係性がグッとくる
きこえる世界ときこえない世界で板挟みになる多感な息子を体現した吉沢に対し、共にろう者の俳優である忍足亜希子と今井彰人が温かみを持って演じている両親の姿も人間味があり印象的だ。
「障がいを抱えながらも、常に笑顔で子どものことを第一に応援する姿勢とかける言葉には、子を持つ親として心に刺さった」(40代・男性)、「お母さんの笑顔がとてもステキで、大になにを言われても大切に想う気持ちが伝わってきました」(40代・女性)と言及されているのが母の明子。思春期を迎えた息子に疎まれてもなお明るく接する一方で、その裏ではせつない表情も浮かべるなど、顔つきやしぐさで息子への深い愛を丁寧に表現している。
一方の「登場シーンは少なかったが、父親の存在の大きさを感じた」(50代・女性)という父、陽介は「大は大丈夫だよ」と明子に声をかけたりと一歩後ろから家族を見守っており、人生に迷う大の背中を押すなど、要所で存在感を発揮。
「(陽介の)過去の話を歩きながら語るシーンが、本当の親子がする会話のテンポに思えてとてもすてきでした」(50代・女性)、「愛情深さと力強さ、たくましさ。いろいろな苦悩を経験していまがあるのだろうと感じました」(30代・女性)といった言葉が示しているように、家族の歴史を感じさせるリアルな距離感も見事で感動を誘う。
「自然な親子の姿でした。愛情深い両親の姿が伝わってきました。とてもすばらしかったです。ろう者の役者さんが演じられていて、リアリティがあって、より感情移入できたと思います」(40代・女性)
「まず2人が本当の夫婦にしか見えませんでした。夫婦2人の手話での会話シーンはとてもほのぼのとした雰囲気で、息子の写真を撮る様子が幸せそのものを表現していると感じました。吉沢亮さんとの距離も感じませんでした」(50代・女性)
吉沢は忍足、今井と共に手話での稽古を2か月にわたり行ってから撮影に臨んだそうで、手話はもちろん、その関係性がにじみ出た演技には「ナチュラルだった」との声が多く寄せられていた。
「きこえる世界・きこえない世界がテーマではあるけれど、相手に伝える、気持ちを届けることがどういうことなのか、考えさせられる作品」(30代・女性)
「ふたつの世界に胸が張り裂けそうになりながらも、両親と同じ世界にいる人たちに出会い、理解を深め成長していく姿が描かれていてよかった」(30代・女性)
「人生のステージで自分の環境の捉え方は変わっていきます。コーダでもコーダでなくても悩みはあるだろうし、それに気づいた大の人生を賞賛したいです」(40代・女性)
自分の住む世界や周囲とどうやって向き合っていくのか、1人の青年の成長を軸に普遍的な物語を描いた『ぼくが生きてる、ふたつの世界』。「子を持つすべての親に、親と子の愛情のすばらしさを再認識できる映画として薦めたい」(40代・男性)、「観たあと家族に会いたくなる映画。親視点でも子ども視点でも感じるものがある」(40代・女性)など、親を持つ子、子を持つ親、多くの人の心にスッとしみ入るような感動を与えてくれることだろう。
構成・文/サンクレイオ翼
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