文京区立森鴎外記念館(東京)で2024年10月12日(土)から2025年1月13日(祝)まで、特別展「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」を開催する。特別展の魅力や開催の裏側について担当者に話を聞いてみた。
【写真】出品資料から一部抜粋!夏目漱石筆 津田青楓宛 大正3年5月20日:漱石の著書『道草』『明暗』の装丁を手掛けた画家・津田青楓に宛てたはがき
――特別展「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」について教えてください。
2023年に江戸千家家元・川上宗雪さんに111枚のはがきをご寄贈いただきました。特別展では、ひとりのコレクターが独自の視点で丹念に蒐集したコレクションを一挙公開し、「はがき」という規格の中に表現された魅力を紹介します。
――特別展のイチオシのポイント教えてください。
111枚のはがきは、文学者だけでなく美術家やジャーナリストなどさまざまな分野の差出人(全89名)がおり、また、発信時期も明治20~昭和50年代と約80年の幅があるバラエティ豊かな資料です。手書きだからこそ、差出人と受取人の関係性が色濃く感じられるとともに、筆跡や絵柄など眺めているだけでも飽きません。また、一堂に展示することで、一見まったくつながりがないように思えた資料に意外な共通性を見出せたり、時代を追って見ることで、はがきそのものの変化(郵便史)や社会背景が感じ取れたりとさまざまな楽しみ方があります。
――特別展を開催するにあたり、苦労した点があれば教えてください。
展覧会を開催するためには、はがきの翻刻、内容の確認、差出人の人となりや置かれていた状況などをきちんと調査する必要があります。調査にあたり、大妻女子大学名誉教授で森鷗外記念会会長の須田喜代次さんに監修いただき、近代文学をご専門とする研究者の方々(伊藤一郎さん、松村茂樹さん、杉浦静さん、出口智之さん)にご協力いただきました。
――特別展の開催にあたり、反響はいかがでしたか?
差出人それぞれの全集や書簡集の類にも収録されていない貴重なはがきも含まれることから、各人のファンだけでなく顕彰施設や研究者の方々からも注目の声を頂いています。
■はがきの差出人(五十音順)
文学者
芥川龍之介、石川啄木、伊藤左千夫、井伏鱒二、伊良子清白、氏家信、円地文子、岡本かの子、尾山篤二郎、山本露葉、北原白秋、木下利玄、古泉千樫、齋藤茂吉、島木赤彦、杉田久女、高村光太郎、立原道造、谷崎潤一郎、田山花袋、坪内逍遙、土岐善麿、内藤鳴雪、永井荷風、長塚節、中西悟堂、夏目漱石、萩原朔太郎、馬場弧蝶、二葉亭四迷、堀辰雄、正岡子規、三木露風、宮沢賢治、三好達治、武者小路実篤、室生犀星、森鴎外、吉井勇、若山牧水、柳原白蓮、与謝野晶子、吉川英次ほか
美術家、工芸家
會津八一、梅原龍三郎、小川芋銭、織田一磨、恩地孝四郎、香月泰男、川端龍子、小出楢重、近藤浩一路、坂本繁二郎、芹沢銈介、竹内栖鳳、竹久夢二、寺崎廣業、堂本印象、富岡鉄斎、橋本関雪、平福百穂、藤田嗣治、前田青邨、松林桂月、松本竣介ほか
ジャーナリストほか
大川周明、緒方竹虎、木下尚江、幸徳秋水、高田早苗、田中正造、山川菊栄、山川均
哲学者、評論家、芸能ほか
阿部次郎、安倍能成、仮名垣魯文、三遊亭円朝、寺田寅彦、新村出、西田幾多郎、野上豊一郎、久松潜一、藤原銀次郎、正木直彦、南方熊楠、柳宗悦、和辻哲郎
心のこもった手書きのはがきは時を越えて受け継がれる。内容や時代背景に心を寄せながら、たまには自分の思いを伝える手段としてはがきを書いてみるのはどうだろうか?
文=岸遥南
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