9月19日(木) 18:00
Text:兵庫慎司Photo:藤井拓
2024年9月12日(木)、EX THEATER ROPPONGIで、GRAPEVINEのライブイベント『MAGNIFIK GRAPEVINE×betcover!!』が行われた。
以前からGRAPEVINE(グレイプバイン)は、自分たちが注目する、主に後輩・新人のアクトを招いて対バン企画を行っており、これまでにSuchmos(サチモス)やSchroeder-Headz(シュローダーヘッズ)、中村佳穂等、多数のアーティストと共演してきた。あ、「主に」と付けたのは、先輩や同世代と共演するときもあるからです。今年7月6日に高知で行った、田島貴男(Original Love)との対バンのように。で、今年2024年は「ダブル・ヘッドライナー公演」として『MAGNIFIK』と銘打ち、5月1日に恵比寿ザ・ガーデンホールでHedigan’s(ヘディガンズ)と共演、このbetcover!!(ベットカバー)との対バンが2本目となる。
というわけで、まず最初はbetcover!!のステージ......と書いて気がついたが、GRAPEVINEのファンだからこのレポを読み始めた、でもbetcover!! のことは知らない、という人もきっといらっしゃいますよね。なので、ちゃんと説明した方がいいですね。
betcover!!(柳瀬二郎)betcover!! は、東京都調布市出身の柳瀬二郎という男のソロ・ユニット。2016年に、優勝すると『COUNTDOWN JAPAN』に出演できるコンテスト『RO69 JACK』に優勝、フェスに出演したのが、世に名を知られた最初だった。確か当時、まだ高校生だった記憶がある(調べたら、1999年生まれでした)。
その後、インディー・リリースを経て、2019年にcutting edgeからメジャーデビュー。2021年からインディーズに戻り、完全DIYでの活動を始める。
それまではひとり宅録ユニットだったのが、その2021年のアルバム『時間』から、レコーディングもライブも同じメンバーのバンド編成で行うようになる。ボーカル&ギター&フルートの柳瀬二郎に、ギター・ベース・ドラム・キーボードが加わった5人編成が最小で、そこにサックスが加わった6人編成が最大。ジム・オルークや石橋英子とのコラボレーション等で知られるギタリストの日高理樹をはじめ、全員が凄腕のプレイヤーである。
全員モノトーンのスーツ姿、柳瀬二郎を囲むようにステージの中央にギュッと固まったフォーメーションで、ライブを行っている。確か渋谷のO-WESTだったと思うが、ちょっと動いたらギターのヘッドが他のメンバーの頭を直撃しそうな密集状態で演奏しているのを、観たこともある。この日はそこまで極端ではなかったが、下北沢SHELTERのステージでも大丈夫な程度には、真ん中に密集していた。
betcover!!恒例のSE、金井克子「他人の関係」(1973年のヒット曲)とともにステージに登場したbetcover!! (この日は5人編成)が、演奏したのは13曲。2023年リリースの『馬』収録の8曲はすべて演奏、その一作前の『卵』(2022年リリース)から3曲、その前の『時間』から2曲、という内訳だった。
13曲もやったのに、きっかり50分で終わったのは、ほとんどの曲と曲がシームレスにつながって、演奏されていくから。シームレスすぎて、オーディエンスが拍手をはさむ隙間もない。4曲目の「鉄に生まれたら」が終わって、5曲目の「母船」がドラムで始まる、そのほんの一瞬の間に、みんな慌てて拍手をねじこむ、というくらいの按配だった。
その「母船」のイントロに乗せてメンバー紹介をしたときと、ラストの「鏡」をやる前に、「ありがとうございました。じゃあ最後の曲やって終わります、サンキュー」と言ったとき以外は、MCもなし。で、そのライブ自体は......という以前に、「どういう感じの音楽なのか、読めば伝わるように言葉で説明しなさい、と命じられると困るチャート」の国内トップ3に入る存在が、現在のbetcover!! である。少なくとも、自分にとっては。
メロディの感じや、そのメロディに載せられる言葉の響き、あと衣装なんかも含むバンドの佇まいで言うと、昭和50年代頃の日本のポップ寄りなロックの感じ。自分が親しんできた音楽でいちばん近いのは『Reflections』の頃の寺尾聰だが、ただしAメロ→Bメロ→サビみたいな定形ではなく、本能の赴くまま自在に展開していく、みたいな曲構成である。
アレンジ面・サウンド面で言うと、そういう曲調に、USオルタナティブや音響系の要素も入ってきて、ブルースやジャズの匂いもして、シャンソンなんかの要素を感じさせる曲もあって......というふうに、ロックもロック以外も含めて、あらゆるジャンルを感じさせるのにそれらのうちのどれでもない。そんな、ダイナミズムに満ちたバンドサウンドと、それを悠々と乗りこなす柳瀬二郎の歌を生で浴びると、ただただ圧倒されてしまうのだった。
特にこの日は、EX THEATER ROPPONGIの音響システムのせいか、PAの腕がいいのか、僕が観ていた位置も関係あるのか、たぶん全部が理由だと思うが、出音自体もめったやたらと良くて、それがbetcover!! のすさまじさに、さらに拍車をかけていた。
という、唯我独尊かつ圧倒的な、betocover!! の50分が終わった後、ステージ転換を経てGRAPEVINEの時間へ。左のライザーにドラム、右のライザーにキーボード、前にギターアンプやエフェクターボードやベースアンプ、といういつものセッティングだが、betcover!! のセットが超シンプルだったせいで、何か巨大な要塞のように感じられる。
この日GRAPEVINEは、本編10曲、アンコール2曲の12曲を演奏した。
ビクター/スピードスターに移籍して今年で10周年を記念して、この10年間にリリースした曲だけでセットリストを組んだワンマン『The Decade Show』を、7月と8月に東阪の野音で行った。そして、8月31日の金沢から10月17日の大阪の追加公演まで『The Decade Show : Club Circuit 2024』というタイトルで、同様の趣旨のツアーを行っている。その途中にこの日のライブは行われたわけだが、それとはまったく異なるセットリストだった。
本編は、最新アルバム『Almost there』(2023年)から4曲。そのひとつ前の『新しい果実』(2021年)から1曲。そのさらにひとつ前の『ALL THE LIGHT』(2019年)から1曲。そのふたつ前の『BABEL,BABEL』(2016年)から3曲。なぜ『ROADSID PROPHET』(2017年)からはゼロなんだ? という気もするが、まあそういうときもあるでしょう。あと、出たばかりの新曲「NINJA POP CITY」は、もちろん演奏した。
GRAPEVINE 田中和将(vo/g)GRAPEVINE 西川弘剛(g)アンコールは「光について」(1999年)と「Glare」(2008年)──という選曲が、まず素晴らしかった。「Alright」「EVIL EYE」で始まり、「HESO」「Scarlet A」「アマテラス」「雀の子」という中盤を経て、後半に「実はもう熟れ」「NINJA POP CITY」「ねずみ浄土」「SEX」を固め撃ちする、という曲順も最高だった。
あえてケチをつけるなら、アンコールだろうか。「Glare」はいいけど「光について」はやらなくてもいいですよ、フェスとかは別だけど、ワンマンやこういう対バン企画に来るようなファン(自分を含む)が聴きたいのは、「今のGRAPEVINE」と「レアなGRAPEVINE」ですから。と、言いたくなった。まあでも、それは俺がちょっとアレなだけで、バランス感覚としてはやる方が正しい、と思う。
そして、betcover!! と同様、GRAPEVINEも音がめったやたらといい。おかげで、歌とコーラスとすべての楽器の演奏を、くっきりとクリアに把握できる。西川弘剛(g)がリードのときも、田中和将(vo/g)がリードのときも、ふたりともリードのときも、ふたりともリードじゃないときもある2本のエレクトリックギター、それぞれの音。「アマテラス」の中盤以降などで、曲をひっぱる役割を果たす金戸覚(b)のベースの響き。シンプル極まりない、余計なことはしない、あってほしい音をあってほしい場所に確実に置いていく亀井亨(ds)のドラム。「音を広げる」と「音を混沌に導く」役割を一手に担う高野勲(key)の鍵盤。「HESO」などで時折入ってくるリズムマシンの音、など。
GRAPEVINE 金戸覚(b)GRAPEVINE 高野勲(key)特にこの日は、西川弘剛のギターの1曲ごとの音の違い、鳴り方の違い、そのレンジの広さを楽しめる選曲だった気がした。そして田中和将のボーカル、今日も絶好調。めちゃめちゃ声が出ているし、とにかく楽しそう。「今のこの人、本当にライブが楽しいんだな」と、観ていて思うことが最近多いが、その極み、みたいな状態である。
登場するなり「ギロッポーン!」と叫んでから「Alright」に入る。次の「EVIL EYE」も「行くぞギロッポーン! ギ・ロッポーーン!!」から始まる。その2曲を終えたところのMCでは、「最高にかっこよかったです!」とbetcover!! を称賛してから、「今日はしょうもないことは言いませんよ。なんせギロッポンやからね」。とにかく「ギロッポン」と言いたいようである。
GRAPEVINE6曲目を演奏し終えて「今の曲が10億回再生の「雀の子」という曲でした。10億1回目を、誰か再生してください」。で、「電話なんてやめてさ、六本木で会おうよ、今すぐおいでよ」と、岡村靖幸「カルアミルク」のサビの言葉をはさんでから、次の「実はもう熟れ」にいく。「NINJA POP CITY」のイントロでは、ウチワを手にステップを踏んだ。
そして、東阪の『The Decade Show』では、(たぶん)敢えてセットリストから外されていた「ねずみ浄土」、やはり、圧巻。ドラムロール→ドラムのフィル→リズムを刻み始める、そして田中&亀井が歌い始めた瞬間に場の空気が変わるのを、各地で何度も体験してきたが、何度食らってもゾクゾクする。曲終わりの拍手の長さが、その威力を象徴している気がした。
GRAPEVINE 亀井亨(ds)続く「SEX」(この曲を本編の最後に持ってくるところもたまらない)を、シンセの残響音のリフレインで終え、一度ステージを下り、アンコールを求めるハンドクラップに応じて出てきた田中は、「非常に今日はいい夜になりました。刺激もいただいたし」と、再度betcover!! に感謝を伝えてから、「光について」を歌い始めた。
『The Decade Show : Club Circuit 2024』の本編が、名古屋で終わった2日後=9月25日に、2024年3月28日Zepp DiverCityの映像作品『Almost There Tour extra show at Zepp DiverCity』がリリースになる。それ以降のGRAPEVINEのアクションに関しては、10月17日のツアー追加公演=umeda TRAD以外は、何もアナウンスされていない。名古屋、あるいは梅田が終わると同時に、何か発表があるとみた。楽しみに待ちたい。
なお、umeda TRADは、10月31日で営業が終了になる。バナナホールというライブハウスだった頃に、GRAPEVINEが初めてワンマンを行った場所である(1997年12月)。
<公演情報>
『MAGNIFIK GRAPEVINE×betcover!!』
2024年9月12日(木) 東京・EX THEATER ROPPONGI
出演:GRAPEVINE/betcover!!
betcover!!
01.翔け夜の匂い草
02.バーチャルセックス
03.狐
04.鉄に生まれたら
05.母船
06.イカと蛸のサンバ
07.不滅の国
08.火祭りの踊り
09.炎天の日
10.あいどる
11.メキシカンパパ
12.フラメンコ
13.鏡
GRAPEVINE
01.Alright
02.EVIL EYE
03.HESO
04.Scarlet A
05.アマテラス
06.雀の子
07.実はもう熟れ
08.NINJA POP CITY
09.ねずみ浄土
10.SEX
En.Glare
En.光について
<関連情報>
■GRAPEVINE公式サイト:https://www.grapevineonline.jp/
■betcover!! 公式サイト:https://www.instagram.com/betcover_official