ティム・バートンの最新作『ビートルジュース ビートルジュース』(公開中)は、同監督の出世作ともいえる1988年の『ビートルジュース』のなんと36年ぶりの続編。これだけのインターバルが空きながら、何人かのキャストが前作から続投している。なかでもウィノナ・ライダーが同じ役で復帰したことは、当時彼女のファンになった人には最高のプレゼントになったのではないか。
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■『ビートルジュース ビートルジュース』でハマり役を36年ぶりに演じる
自身の当たり役に長いブランクを空けて戻ってきた例といえば、『ブレードランナー』(82)→『ブレードランナー 2049』(17)のデッカード役、ハリソン・フォードの“35年ぶり”があったが、今回のライダーはそれをさらに1年上回る。『ビートルジュース』で彼女が演じたリディアは、引っ越し先の家に棲みつく幽霊たちと仲良しになる不思議少女。リディアの一家を追い出そうとする奇抜なキャラ、ビートルジュースからも好かれるのだが、両親には複雑な思いを抱く屈折感と、そのメイクやファッションから“ゴスっ娘”として人気となった。そんなリディアのキャラクターにライダーが完全にマッチし、彼女は一気にブレイクすることになる。
■『ビートルジュース』や『シザーハンズ』でアイドル的人気を博す
『ビートルジュース』の全米公開時、ライダーは16歳。映画デビューは2年前の『ルーカスの初恋メモリー』(86)で、バートン監督は同作の彼女を見て、リディア役をオファーしたという。ライダー自身も、この役はどうしても掴みたかったとのちに告白している。『ビートルジュース』公開翌年の『ヘザースベロニカの熱い日』(89)では、高校でいじめに遭うライダー演じるヒロインが、ヤバい転校生男子の協力で過激な殺人を企てるブラック青春コメディ。『ビートルジュース』のように大ヒットしたわけではないものの、ライダーのファンを激増させ、のちの同タイプの映画にも大きく影響を与えたカルト作として記憶される。
さらに、バートンとの再タッグとなった『シザーハンズ』(90)において、ジョニー・デップ扮する“ハサミ男”とのせつないラブストーリーを体現したライダーは、トップスターの地位を確立。『恋する人魚たち』(90)では、得意のアウトサイダー的な感情を見事に表現し、演技も絶賛されてゴールデン・グローブ賞ノミネートを果たす。このように1980年代後半は、日本の映画ファンの間でもライダーの人気はアイドル的に過熱。外見はもちろんだが、演じた役柄も相まってオタク心も刺激する存在だったのである。
■アカデミー賞ノミネートを果たすなど演技派としての道も歩んでいく
1990年代に入るとライダーは、ジム・ジャームッシュ(『ナイト・オン・ザ・プラネット』)にフランシス・フォード・コッポラ(『ドラキュラ』)、マーティン・スコセッシ(『エイジ・オブ・イノセンス汚れなき情事』)と世界的巨匠の作品に次々と呼ばれ、『エイジ・オブ・イノセンス』ではアカデミー賞助演女優賞にノミネート。実力派スターの道を歩み始める。ジェネレーションXの青春ドラマ『リアリティ・バイツ』(93)は日本の同世代にも熱い共感を呼び、これをライダーの代表作として愛する人も多い。
■“使いにくい”俳優から「ストレンジャー・シングス」で完全復活!
『若草物語』(94)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたライダーが、このまま大女優としてキャリアを着実に築いたかといえばそういうわけでもない。もともと精神的な危うさを抱えやすいタイプで、プロジェクトからの降板もチラホラ。恋愛関係も華やかで、『ヘザース』のクリスチャン・スレイター、『シザーハンズ』のデップ、『エイジ・オブ・イノセンス』のダニエル・デイ=ルイスなど共演者とすぐに恋におちたケースは多数。2001年にはビバリーヒルズで窃盗容疑によって逮捕されるなど、ハリウッドでは“使いにくい”俳優というレッテルを貼られてしまう。
しかし2006年くらいから俳優業に真摯に取り組むようになり、特に2016年に始まったNetflixドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」では、ライダーのキャリアの原点である80年代へのオマージュと共に、彼女の演技も賞賛され、ゴールデン・グローブ賞ノミネートなどで完全復活を遂げた印象だ。
■少女時代の面影と共に現在の新たな魅力も振りまく『ビートルジュース ビートルジュース』
こうした山あり谷ありのキャリアを経たライダーが、自身の“原点”でもある役に戻ってくるのだから、映画ファンには感慨深いばかり。『ビートルジュース ビートルジュース』でのリディアは、テレビ番組「ゴーストハウス・ウィズ・リディア・ディーツ」の司会者で10代の娘もいる。ゴスっ娘が多くの経験を積んで、どんな大人になったのか。そしてマイケル・キートン演じるビートルジュースとは、どんな関係になるのか。バートンが愛情たっぷりにカメラで捉えたライダーのリディアは、少女時代の面影を呼び起こしつつ、ベテラン俳優としての新たな魅力も振りまいている。
文/斉藤博昭
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