映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の公開記念舞台挨拶が9月21日に新宿ピカデリーで開催され、吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人、烏丸せつこ、でんでん、呉美保監督が出席した。
【写真を見る】吉沢亮、母親に「ありがとう」と感謝を伝えたコーダ(Children of Deaf Adults/きこえない、またはきこえにくい親を持つ聴者の子どもという意味)という生い立ちを踏まえて、社会的マイノリティに焦点を当てた執筆活動をする作家でエッセイストの五十嵐大による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を原作に、宮城県の小さな港町、耳のきこえない両親のもとで育った主人公、大(吉沢)の心の軌跡を描く本作。監督を『そこのみにて光輝く』(14)の呉美保、脚本を『正欲』(23)の港岳彦が手掛けた。
劇中で家族を演じた“五十嵐家”のメンバーが勢揃いした、この日の舞台挨拶。「(撮影地の)仙台を思い出しますね」と家族を見渡した吉沢。撮影ではそれぞれとの芝居はあったものの、吉沢が演じる場面では全員が揃った瞬間はなかったそうで「これが五十嵐家なのかという、集まった時の新鮮さを感じています」と笑顔。「おもろいっすね。すごく個性豊かといいますか、すごく楽しい家庭だと思います」と楽しそうに話していた。
大のろう者である両親を演じるのは、母の明子役に忍足、父の陽介役に今井。ろう者俳優として活躍する2人が、息子への思いを表現した。忍足は「1年ぶりに五十嵐家が家族のようにみんな揃うことができて、本当にうれしいです。本当の家族のような気持ち」とにっこり。「とても緊張している」という今井は、「お帰りなさい。ただいま。どちらでしょうか」と切り出し、「仙台では本当の家族のように顔を合わせていました。少し時間が経ち、気恥ずかしいような気持ちもします」と照れ笑いをのぞかせていた。
オファーを受けた時の感想に話が及ぶと、「呉美保監督の作品はもともと好きで観させていただいていた。いつかご一緒したいとずっと思っていた」という吉沢は、「特殊な難しい環境ではあるんですが、この作品の描いている普遍性がとてもステキだなと思った。『ぜひ』という想いでやらせていただいた」と吐露。忍足は「初めての女性監督からのオファー。非常にうれしかったのを覚えています。呉監督には、五十嵐家の家族の形、親子関係、ろう者とコーダの関係、複雑な気持ちなど、いろいろとお話しいただきました。ろう者の世界、コーダの世界を丁寧に見て、丁寧に描いて、丁寧に撮影したいという気持ちが伝わってきた。そこに応えたいと思い、出演を決めました」と呉監督の誠実な姿勢に背中を押されたという。
「もちろんとてもうれしかったです」とオファーを振り返った今井は、「実は吉沢さんとはそんなに歳が変わらないんです。3歳、年上なだけなんです」と明かして会場を沸かせながら、「父親役で大丈夫だろうか。28年間の長い期間を演じるということで、非常に緊張しました。コーダを育てた経験もないですし、どのように演じればいいのか気合を入れて臨んだ」と語る。すると吉沢が「全然、年上だと思いました」と素直な気持ちを口にして、周囲も大笑い。「さっき裏で、エレベーターを待っている時に(今井から)『吉沢さん、いくつですか』と言われて。『30になりました』と言ったら、『僕、33歳なんですよ』って。ええ!って。さっき初めて知った、衝撃の事実でした」と驚きを隠せず、「全然年上だと思っていました。ごめんなさい」と謝り、今井を笑わせていた。
続けて両親役の2人は、手話を学んで臨んだ吉沢の演技を絶賛した。忍足は「吉沢さんは、一生懸命に努力して手話を習得してくださった。手話だけではなくて、セリフもある。感情を込めた表現をしていくことになる。気持ちを込めて、五十嵐大という息子を演じてくださった」と称えつつ、「最高の息子です」と愛情たっぷりにコメント。今井も「吉沢さんの手話がとても自然。生活のなかで使う、リアルな手話を表してくれた。だからこそ、家族の関係性、会話が表現できた」と続いた。また呉監督はもともと吉沢の「ファンだった」と相思相愛の想いを打ち明け、「彼の内面にあるものを、もっともっと見たかった。いままでの作品を観させていただいても、いち観客としてもたぶんもっとあるだろうと思っていた。今回の役は手話という技術も含めて、いろいろな要素を表現してくれないと成立しない。吉沢さんならやっていただけるのではないかと思った。想像以上でした」と期待を超えた演技に惚れ惚れとしていた。
そしてそれぞれが「いま“伝えたい”気持ち」をフリップを使って発表するひと幕もあった。呉監督は「出会ってくれて、ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう!」とフリップを掲げ、「9年前に出産をした。今日は夫と長男が、映画を観に来てくれている。夫に出会ってくれてありがとう。息子に生まれてきてくれて、ありがとう」と心を込めると思わず涙。「ジャンジャン」とちゃめっ気たっぷりに自ら効果音を付けたでんでんは、「会場にいるスタッフ、キャスト、そしてお客様の皆様にありがとうございます」と感謝を伝えた。烏丸は「昨年、虹の橋を渡ったうちの猫ちゃん。元気にしているかな」と愛を込めてメッセージ。
今井は真ん中に点線を引いた丸と、ハートを並べたイラストを掲示。「これ(丸)は異なる2つの世界を表しています。この世界がくっつく時には壁や葛藤、あつれきがあるけれど結果、それを超えてハートになる。そんなイメージを伝えたい」と語り、忍成は「ありがとう」とシンプルな言葉を書き、観客を含め映画に関わったすべての人にお礼を述べた。すると吉沢も「ありがとう」と偶然にも同じ一言を書いており、これには会場からも大きな拍手が上がった。吉沢は「皆さんにありがとうという想いもありつつ、お母ちゃんにありがとう。なかなか親に、ありがとうって言えなじゃないですか。こういう場を借りてね」と照れながら、「うちは男、4人兄弟で。めちゃめちゃうちの母ちゃんは、苦労をしたと思う。ここまで育ててくれて、ありがとうございます」といつもは口にできない気持ちを告白していた。
最後の挨拶では、今井が「今回、きこえる皆さんと一緒に映画をつくりました。こういったことが徐々に広がってきています。映画館に行って、当たり前にろう者が出演者として出ているような世界になるといいなと思います。俳優を目指している、きこえない方たちもたくさんいると思います。いっぱいライバルができるかもしれない。よきライバル、いい仲間として切磋琢磨していければいいなと思います」と未来を見つめた。忍成は「コーダの数は、全国で2万2千人ほどいると言われています。まだまだ社会に浸透していないのが現状」と状況に触れ、「手話というのは、目で見る言葉。視覚言語です。相手の顔をしっかりと見ながら、会話をするコミュニケーション。相手の顔を見て話をして、気持ちを伝えることがとても大事だと思っています」と語り、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝
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