映画『シサㇺ』は、松前藩が蝦夷地と呼ばれる現在の北海道の領有を始めた江戸時代前期を舞台に描かれる人間ドラマ。松前藩の若き侍が、旅の途中でアイヌの人々に命を助けられたことにより、彼らの文化を知り交流を深めてゆく物語。
「小学生のときに、学習塾の課外行事のようなもので、アイヌの集落に2週間ほど滞在する機会があったんです。当時はアイヌの歴史のことも何もわからなかったけれど、独自の生活だったり、循環という考え方だったりは記憶に残っています。ただ子供だったので、今回の作品を通して知ったことが多いですけれど」
寛一郎さん扮する高坂孝二郎は、手厚い看護を受けてアイヌの集落に滞在する間に、和人(アイヌと区別するために用いられる日本人の呼称)からの不当な支配や差別、そこに端を発した彼らの怒りに直面し、その生き方や思想に共鳴してゆく。「知らない文化に対して排他的になってしまうのって、誰しもあると思
うんです。でもアイヌの人々のあたたかさに触れて、僕が小学生時代に訪れたときのような若い柔軟さで孝二郎は文化を受け入れていったんだと思います。同じ人間なのだから和人とアイヌが共存できないのかという彼の問いは、政治的な視点で言ったら幼い考え方かもしれないけれど、その純粋さが素敵だなと思います」
演じるにあたり、当時の世相や文化などを学び撮影に臨んだ。
「時代の空気を知らないと、その人間としてどう立てばいいかわからないんです。今回の役に関しても、孝二郎が存在している座標がどこにあるのか…彼の立場において何が良くて何が悪いのか知っておかないと、目の前で起きることに対して相対的に見られない。たとえば彼の立場として上役に逆らうということがどういうことなのかとか、今の感覚ではわからないですし。そこの価値観を一致させながら、感情や感覚みたいなものを自分と重ねていきました」
ゆっくりと自分の中にある答えを探すように、作品や役について語る寛一郎さん。その様子からどれだけ真摯に取り組んでいるかが伝わる。
「『1984』というSF小説の中で、この世の中には解決というものはなく決着と言うのが適切で、その決着をつけてきたのは暴力である、という描写があるんです。戦争がなくならない理由はそこだと思うんですけれど、作者は言葉という人間最大の文化を使ってその虚しさを後世に残していくと語っていて、すごく素敵な考え方だと思います。僕はこの映画がアイヌ文化や歴史を知るきっかけになればとも。それを作品として未来の人たちに残せることが嬉しいし、それが映画のよさのひとつだと思っています」
映画『シサㇺ』
松前藩の藩士の息子・孝二郎(寛一郎)は、アイヌとの交易のため蝦夷地に向かう。しかし道中、使用人の裏切りに遭い…。
監督/中尾
浩之脚本/尾崎将也出演/寛一郎、三浦
貴大、和田正人ほか9月13日公開。
©映画「シサㇺ」製作委員会
かんいちろう1996年8月16日生まれ、東京都出身。2017年に俳優デビューし、翌年には日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞。現在、『ナミビアの砂漠』、今年冬には『グランメゾン・パリ』と出演映画の公開が続く。
シャツ¥38,500(ユーゲン/イデアスTEL:03・6869・4279)バングル、太各¥22,000細¥15,400(以上アダワット トゥアレグTEL:050・5218・3859)その他はスタイリスト私物
写真・角田 航(TRIVAL)スタイリスト・坂上真一(白山事務所)ヘア&メイク・KENSHINインタビュー、文・望月リサ※『anan』2024年9月11日号より。
(by anan編集部)
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