今年のモントレーカーウィークで最も印象的だった出来事は、スーパーカーブーマーの世代がその昔の若い頃フツウに憧れていた同世代のモデルが至る所で脚光を浴びていたことだった。具体的には70年代以降、80年代、90年代のモデルだ。
【画像】尖ったシェイプのスーパーカーがこれでもか!とばかりに参集。ペブルビーチで見た「ウェッジシェイプモデル」(写真27点)
例えばザ・クエイルの「モータースポーツギャザリング」は今やラグジュアリィブランドのモーターショーになってしまい近年特に世代交代が進んでいた(それでも見るべきクラシックモデルはまだたくさん出てくるけれど、以前ほどではない)けれど、それでも今年、フェラーリ250LMやイソ・グリフォA3C(ビッザリーニ) の向こうにトヨタAE86のレーシング仕様が見えたことには正直驚きを超えて感動を覚えた。
カーウィークのメインイベント”ペブルビーチ・コンクール・デレガンス”は依然、高い格式を誇ったまま、とはいうものの、世代交代(コレクター)というかネオクラシックの進出(カテゴリー)がこのところ顕著になっていることは確か。30近く設定されたクラスの中には90年代のBPR&FIA GTレースカーなんてのもあって、そこではフェラーリF40 GTEやマクラーレンF1 GTR、メルセデス・ベンツCLK GTRあたりがずらりと並ぶ。名物18番ホールのグリーン上、しかも海岸沿いに、そんな新しいしかもレーシングカーが展示されるとは!96年からかのコンクールに通っているけれど、こんな光景を目撃する日が来るなんて、なるほど30年という月日の長さを思い知る。
そして何より驚いたのが、新旧ウェッジシェイプモデル(旧:〜76年、新:79年〜)という2つのクラスが用意されて、そのクラスウィナーの1台=ストラトス・ゼロがなんとベスト・オブ・ショーノミネートの最終4台に残ったことだ。これは控えめに言っても、事件だった。
スーパーカー世代の筆者は、パッカードやタルボラーゴ、ブガッティといった、いかにもペブルビーチらしい他3台のノミネート車に混じって、ウェッジシェイプ・アーリークラスで優勝したストラトス・ゼロのほとんど地面と一体となった低く小さな姿が並ぶ様子に心からの感動を覚えた。折しも今年はじめには我らがヒーロー、マルチェロ・ガンディーニが逝ってしまっている。ストラトス・ゼロはマルチェロの最高傑作。きっと師も天国で喜んでいるに違いない。
ウェッジシェイプクラスに展示された車両を古い順に簡単に紹介しておこう。まずはV1クラス「Wedge-Shaped Concept Cars and Prototypes Early」の12台だ。
最初の完全なるウェッジシェイプカーは1968年に登場したアルファロメオ・カラボ(これもマルチェロ!)ということでエキスパートたちの意見は一致するが、その萌芽は50年代からあった。たとえばギア・ストリームラインX”ギルダ”クーペ(1955)がそれで、特徴的なテールフィンを持つウィンドウトンネルをくぐって作られた最初の車だ。実はこの個体、最初はエンジンレスだったけれど今ではガスタービンエンジンを積んでいる!
ギア・ギルダと同様にプリマスXNRギアロードスター(1960)にも後年のウェッジシェイプへと至る新しいデザインチャレンジが随所に見受けられる。この個体はイランのシャーが所有していたもので、革命時に焼け落ちた納屋で発見され、その後密かに持ち出されてレストアされたという。
60年代半ばから70年代にかけて、ウェッジシェイプへの憧れが次第に現実的になっていく。カンナラ・ロードスター(1966)はアートスクールの学生がデザインしたモデルだ。
一方、ヨーロッパではガンディーニの在籍するベルトーネがムーブメントの最先端を走ったが、他のカロッツェリアも黙っちゃいない。トム・ジャーダがいたギアによるランチア・フルビアHF1.6コンペティツィオーネ・プロトタイプ(1969)やフェラーリ512Sモデューロ・ピニンファリーナ・クーペ(1970)などが登場した。
そしてモデューロと同じ1970年にデビューしたのがクラス優勝を飾ったランチア ストラトスHFゼロ・ベルトーネクーペ(1970)だ。このクラスのガンディーニ作品としては他に、唯一市販モデルとして展示されたランボルギーニ・カウンタックLP400ペリスコピオ(1975)とフェラーリ308GTレインボー(1976)があった。
さらに非イタリア勢としてはメルセデス・ベンツC111(1970)やBMWターボコンセプト(1972)、アウディ・アッソ・ディ・ピッケ(1973)、シボレー・アエロベット(1973)が展示された。ちなみにアッソ・ディ・ピッケはイタルデザインだが、2023年に現代版を作っている。こちらは次のクラス(V2)で展示されていた。
1979年以降に発表されたモデルのV2クラス「Wedge-Shaped Concept Cars and Prototypes Late」 には9台がエントリー。クラス優勝はあまりに有名なアストンマーティン・ブルドッグクーペ(1979)で、実はストラトス・ゼロと同じくビバリーヒルズのフィリップ・サロフィムが所有する個体だ。
日本人として興味深かったのはホンダHP-Xピニンファリーナコンセプト(1984)だ。時はNSX前夜。この時代、ホンダとピニンファリーナは蜜月にあった。80年代のモデルとしては他に、チゼータ・モロダーV16Tプロトタイプ(1988)が展示され、市販モデルとの細かな差異が興味深かった。
90年代に突入すると、ローテックC1000クーペ(1991)やヴェクターW8(1993)が現れ、ウェッジシェイプもそろそろ行き着くところまで行った感に満ちてきた。この頃、ウェッジシェイプは飽きられ始めたのだと思う。
ウェッジシェイプが再び注目されるのは20年後、すなわち現代だ。なかでもユナイテッド・ヌードLO-RESカー(2016)は衝撃的だった。ガンディーニ・カウンタックの現代解釈、再定義というのがデザインコンセプト。ちなみにこの車のクリエーターはテスラのデザインミーティングに呼ばれサイバートラックのプロジェクトに関わったというから然もありなん。
我らが奥山清行さんのケン・オクヤマ・コード0(2017)も言ってみればガンディーニ讃歌。ランボルギーニ現CEOのステファン・ヴィンケルマンが審査中に立ち寄って記念撮影に応じていた。
残念なことが二つ。ひとつはフォードプローブⅠギアコンセプト(1979)が会場へ搬送する途中で火災に遭い全焼してしまったこと。もうひとつは日本の童夢ゼロがそこになかったことだった。招聘されていたとすれば、実にもったいないことである。
文・写真:西川 淳Words and Photography: Jun NISHIKAWA
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