60年以上に及ぶ表現の集大成! 記憶を巡る、田名網敬一の大規模回顧展

60年以上に及ぶ表現の集大成! 記憶を巡る、田名網敬一の大規模回顧展

9月23日(月) 21:00

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ポップなのに狂気や死の匂いを感じさせたり、一見怖そうなのにかわいさが潜んでいたり……。田名網敬一さんの作品の魅力を、ひとことで言い表すのは難しい。国立新美術館で開催中の「田名網敬一記憶の冒険」のキュレーター・小野寺奈津さんは、本展のキーワードである“記憶”について次のように説明する。
60年以上に及ぶ表現の集大成!記憶を巡る壮大な旅の軌跡。

《気配》2022年デジタルカンヴァスプリント、雑誌の切り抜き、インク、アクリル絵具、クリスタルガラス/カンヴァス194×130×4cm©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

「田名網さんは1936年生まれで、子どもの頃の戦争体験の影響が最近の作品にまで及んでいます。同時に、戦後アメリカから入ってきたコミックやB級映画、アニメーションなど身の回りにあったものが作品の主題として取り込まれています。そういった経験と記憶が、姿形を変えて表れるのが特徴といえるでしょう」

デザイナーとして活動を始めた’60年代の作品から新作まで集結し、その形態もシルクスクリーン、雑誌の切り抜きのコラージュ、アクリル絵の具、16mmフィルム、立体作品など実に多彩。まるでそれぞれの時代の田名網さんの脳内を、トリップしているような感覚に陥る。

「非常に多作な方で、とにかく点数が多いのも本展の特徴です。『制作するときに迷うことがない』とおっしゃっていて、その決断力があるからこそ、これだけの作品を完成させることができたのだと思います」

小野寺さんいわく、田名網さんは「とても記憶力が良く、昔のことを昨日のことのようにリアルに話してくれる」そうなのだが、そういった記憶との向き合い方も興味深い。

「時間とともに記憶が変化して、話が噛み合わなくなるような経験は誰しもあると思うのですが、田名網さんはそれ自体も肯定的に捉えて、制作のプロセスに取り入れています。近年はたくさんのイメージが集合した作品が多く、まるで“記憶の曼荼羅(まんだら)図”のようです。時系列に関係なく、記憶が縦横無尽に配置され、塗り替えられていくところに、思考の軌跡を感じることができます」

今でこそデザインや絵画、映像などジャンルや媒体を問わず表現する人は珍しくないが、活動初期からデザインとアートを自由に行き来していた稀有な存在でもある。

「現代におけるクリエイティブ・ディレクターの先駆けといえるでしょう。デザイナー的観点で絵画を制作したり、逆もしかりで、両方あってこそ自身の表現になったようです」

壁を埋め尽くすエネルギッシュな作品に圧倒されつつ、もっと見たいと思わせる吸引力。田名網さんの記憶と、こちらの記憶が溶け合うような不思議な鑑賞体験が待っている。

POINT 1:初期からの膨大な作品を収めた、初の大規模回顧展。

《Gold Fish》1975年アクリル絵具/イラストレーションボード36.4×51.5cm©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

《NO MORE WAR》1967年シルクスクリーン/紙63×48cmタグチアートコレクション蔵©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

展示は、主に「時代」を縦軸、「記憶」を横軸にして11の章で構成。上・金魚は、代表的なモチーフのひとつ。戦時中に祖父の飼っていたランチュウが、爆撃の光を反射させながら水槽を泳ぐ異様な美しさが、田名網さんのなかで戦争の恐怖と結びついている。下・アメリカの雑誌『AVANT GARDE』が1968年に主催した反戦ポスターのコンテストで、優秀作に選ばれた作品。

POINT 2:精力的な活動で生まれた、近年の作品も多数展示。

《ピカソ母子像の悦楽》2020/2021年アクリル絵具/カンヴァス41×31.8×2cm©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

《綺想体》2019年FRP、鉄、アクリルウレタン塗料、金箔301×100×100cm©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

晩年も制作意欲は衰えることを知らなかった。コロナ禍で直近のスケジュールが白紙になったため、ピカソの「母子像」の模写(上)をはじめ、700点以上を制作。「模写を続けるうちに、“絵を描き終える境地”がわかったそうです。模写でありながら田名網さんのユーモアが表れているので、そこにも注目してください」。下・ドクロ、クモ、ニワトリ、金魚など頻繁に登場するモチーフが複雑に組み合わされ、一体化した立体作品。

POINT 3:赤塚不二夫をはじめ、超貴重なコラボレーションも!

《ドカーン》2022年顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル絵具/カンヴァス149×100cm©Keiichi Tanaami/Courtesy of NANZUKA

幼少期、マンガ家に憧れていた田名網さん。敬愛する赤塚不二夫さんの、おなじみのキャラクターが登場する作品も勢ぞろい。コラボレーションのような“お題”はデザイナーとしての感性を大きく刺激。

Who’s Keiichi Tanaami?

武蔵野美術大学在学中にデザイナーとしてキャリアをスタート。1975年からは日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務め、日本のアンダーグラウンドなアートシーンを牽引。絵画、コラージュ、映像作品などジャンルを横断して制作する、現代的アーティスト像のロールモデルとなっていたが、本展開催中の8月9日、88歳で惜しくも逝去。

「田名網敬一記憶の冒険」国立新美術館東京都港区六本木7‐22‐2開催中~11月11日(月)10時~18時(金・土曜は~20時、入場は閉館の30分前まで)火曜休一般2000円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)

おのでら・なつ国立新美術館特定研究員。愛知県美術館、資生堂ギャラリー学芸員を経て、現職。「NACT View 01 玉山拓郎 Museum Static Lights」展、「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」などを担当。

※『anan』2024年9月25日号より。取材、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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