ロータス初のエレクトリック・ハイパーGT、エメヤが同社の次世代ハイパーEVのラインナップに加わった。これは、ロータスが2028年までにオール・エレクトリックのグローバル・ラグジュアリー・ブランドを目指すビジョンの一環だという。エメヤのロータスらしさはどこにあるのか。エランS3 FHCのオーナーである西川 淳が実際にエメヤに試乗してみた。
【画像】ドイツとオーストリアでテストドライブが催されたロータス・エメヤ(写真12点)
ロータスらしさとは
ロータスの市販車といえば、どんな特徴を思い浮かべるだろうか?おおかた軽くてハンドリングが良くて運転の楽しい車、というあたりに落ち着くと察する。私もそうだった。何を隠そう、今ではエランS3FHCのオーナーなのだから…
そういった思いから最新のロータスモデルを見れば、フル電動モデルのエレトレや今回の主役であるエメヤはもちろん、リアミドシップ・エンジンカーのエミーラにしたところで最初のキーワードである軽いをクリアするとは、マニアックな目線からは言い難い。否、ロータスに限ったことではなく、それが現代の最新モデルである限り、軽量化の努力は隅々までなされているけれども絶対的に軽量であると、エラン(シックスやセブンでもいい)目線ではとうてい認めるわけにはいかない。
逆にいうと絶対的に軽いことと、動的に軽いことは今や次元の異なる現象であると言っていい。昨今、重くて速いロードカーの存在など十指に余る。ドライバーが軽いと感じてハンドリングよく運転そのものを楽しめるような車作りは可能であり、ロータスというとやはりそのことの実現に長けたチームでもあった。
もうひとつ、ロータスの伝統として忘れてはいけないことがある。それは厳しい生存競争の繰り広げられたフォーミュラーマシンの最前線において長年、エアロダイナミクスの第一人者であったという事実だ。70年代末にF1界で一世を風靡したグランドエフェクトカーなどはさしずめその際たる事例だろう。
今回、日本初上陸を果たした電動グランドツアラーのエメヤを筆者はすでにドイツのアウトバーンで試しているのだが、その圧倒的なパフォーマンスを支えている技術が、パワートレーンやシャシー&サスペンションの制御にあることもさることながら、エアロダイナミクスの恩恵も絶大であると確信したものだ。
エモーショナルな4ドアサルーン
しかし、そもそも4ドアのミッドサイズサルーンをロータスと呼ぶことに抵抗のある向きも多いに違いない。そういう人たちにはひとつの歴史的な事実を掲示しておこう。
その昔、ロータスは高性能な4ドアサルーンを作ろうとしていた。少なくともブランドの創始者であるコーリン・チャプマン自身がそれを望んでいた。
ヘセルに新たな工場ができた頃のことだ。新工場とオフィスの往復にチャプマンはM・ベンツ450SEL6.9を愛用したという。全幹部をベンツの高性能サルーンに乗せて車内会議を開きながら高速移動をしたという。そこにニーズがあると確信したチャプマン。4ドアの高性能ロータスを真剣にプラニングし始めた。
80年代はじめ、高性能ロータス4ドアのアイデアは元ピニンファリーナの天才デザイナー、パオロ・マルティンに託された。フェラーリ・モデューロやランチア・ベータモンテカルロ、ロールス・ロイス・カマルグあたりが彼の代表作である。
パオロが描いたロータスの4ドアは2000エミネンスと呼ばれた。お世辞にもかっこいいとは思えなかったが、とにかくアイデアスケッチとスケールモデルは制作された。残念ながら経営不振とコーリンの逝去により4ドアプロジェクトは幕を閉じる。
その後、90年代にオペル・オメガベースの高性能セダン、ロータス・オメガが登場するに及んでチャプマンの夢はその時点で半分叶ったのだった。
エメヤはブランド75周年を記念して昨年登場した。デザインコンセプトや基本のメカニズムは電動 SUVのエレトレを踏襲する。けれどもそのスタイリングはよりスタイリッシュでグラマラス、なかでも運転席からの眺めはフロントフェンダーもふくよかでスポーツカーそのものだった。
デザイナーであり上級副社長のベン・ペインは筆者に以前、こう語っている。「(故)ピーター・ホルバリーからは常に美しいデザインが正義だと言われてきた。真横からのデザインを見て欲しい。4ドアでありながらこれほどエモーショナルでダイナミックなデザインはこれまでなかった」
エモーショナルなだけではない。美しいスタイルのなかに最新のアクティブ・エアロダイナミクスを実現するシステムをあちこちに仕込んでいる。BEVにおけるエアロダイナミクスは特に航続距離の延伸に重要な役割を果たすと同時に、強大なパフォーマンススペックを制御するという意味でも大切な機能であった。
基本の設計はエレトレのそれを踏襲するとはいえエメヤの低いサルーンプロポーションと独自のパフォーマンスを実現すべくバッテリーセルの形状そのものを変えた。バッテリーはいわばエンジンだ。カテゴリーが変わればエンジンも替えるというのはこれまでの常識でもあろう。
グレード構成もエレトレと同じ。スタンダードのエメヤ(450kW/ 710Nm)に始まり、パワースペックは同じで装備を充実させたエメヤS、より高性能なモーターとアクティブダンピングシステムを備えたエメヤR(675kW/985Nm)という3グレード構成だ。床下に配された800Vリチウムイオンバッテリーの容量は3グレードともに102kWh。
「チャプマンの夢が今、叶った」
6月に開催された国際試乗会でまずはミュンヘンからオーストリアに向け、アウトバーンの速度無制限区間で試す。交通量も少なく、エメヤの加速と巡航性能を思う存分に確かめるには絶好のコース。オーストリアに入ってからは、街中やカントリーロード、本格的な山岳路までじっくり試すことができた。
0-100km/h加速で3秒を切るスペックを持つハイエンドのエメヤRのパフォーマンスは圧倒的だ。加速フィールというと右足を踏み込んだ瞬間からもう何が何だかわからないと思ってしまうほどの強烈さで、メーター読みだが最高速もきっちりシステム最高スペックの250km/hに達する。21インチの高性能タイヤを履いた仕様ながらアクティブダンピングシステムによる乗り心地は、いずれのドライブモードであっても感動的に良かった。
街乗りと高速道路をメインユースとしたい向きにはエメヤSをオススメしたい。試乗車には22インチタイヤが奢られていたためか街中の乗り心地こそコンフォートモードではバタついたのだが、スポーツモードに変えればぎゅっと引き締まって心地よく思えた。何より加速から高速クルーズの安定感が特筆するレベルで、圧巻だったのは230km/h以上に達するまでの加速フィールがとにかくリニアで安心感に満ちていた。さらに付け加えるならば、4つのライダーと18のレーダー、大小12個のカメラによるADASも優秀である。
ワインディングロードでは果たして実にロータスらしいハンドリングをみせてくれた。ドライバーに絶対的な重量を感じさせることはほとんどなく、2つ3つとコーナーをクリアしていくうちに自在にコントロールできるように。操作に対する動きが正確かつ従順で、しかも適切にクイックだったから恐れ入る。
エメヤに乗れば、それがロータスであることが分かる。たとえフル電動であってもだ。チャプマンの夢が今、叶った。
そう思えるほどブランドの進化の速度は我々車好きの想像を遥かに超えている。英国、ドイツ、中国、ドバイなどに拠点を構え、ビジネスユニットも次世代を担う電動ラグジュアリィカー事業から伝統のスーパーカー&スポーツカー事業、そしてロータス66のようなヴィンテージ・リプロダクション事業まで多岐に渡っている。世界を見渡してもこれほど多様なプロダクト展開を見せるブランドは他に見当たらない。何よりグループ CEOのフェン・キンフェンは大のロータス・ファンだというから、昔ながらのロータス・ファンとしては一安心…
ニューヨークでワールドプレミアを果たし、ドイツとオーストリアでテストドライブが催され、日本では東京・青山で披露された。電動ロータスの旅は今、始まったばかりである。
文:西川 淳写真:ロータスカーズ
Words:Jun NISHIKAWAPhotography:Lotus Cars
ロータス・エメヤ
https://www.lotus-cars.jp/news/news/lotus-emeya/
車両本体価格(消費税10%込価格)
エメヤ¥16,346,000/エメヤS¥17,930,000/エメヤR¥22,682,000
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