現在開催中の第46回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)で、世界的に評価されている黒沢清監督が90年代に手掛けた傑作2本『蛇の道』(98)、『蜘蛛の瞳』(98)が、今年のPFF招待作品部門「自由だぜ!80~90年代自主映画」内の企画に選出され、9月11日に同2作の特別上映トークイベントが国立映画アーカイブで開催。黒沢監督が同2作に出演した哀川翔との撮影エピソードや、1月に逝去した映画編集者、鈴木歓氏を偲んでの創作秘話などを語った。
【写真を見る】饒舌に『蛇の道』『蜘蛛の瞳』の制作秘話を語る黒沢清監督1977年にスタートしたPFFは、自主映画コンペティション「PFFアワード」をメインプログラムに据えた、映画監督の登竜門として知られ、これまでに塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子、石井裕也、早川千絵、山中瑶子など、180名を超えるプロの映画監督を輩出してきた。なかでも突出して国内外で活躍しているのが黒沢監督(1981年に8ミリ映画『しがらみ学園』で第4回PFFに入選)で、カンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭等で受賞を重ね、最新作『Cloud クラウド』(9月27日公開)が第97回米アカデミー賞国際長編映画賞部門の日本代表に選出されたことも話題に。
鈴木歓は日本を代表する映画編集者で、若松孝二、廣木隆一、石井聰亙、大友克洋ら名だたる監督たちの作品の編集に携わった。なかでも黒沢清監督とは縁が深く、オリジナルビデオ「勝手にしやがれ!」シリーズ、『CURE』(07)、そして上映された『蛇の道』『蜘蛛の瞳』も手掛けている。なお、近年の鈴木氏は、新たな若き才能を次々と輩出している京都芸術大学映画学科で2011年から後進の指導にも当たっていた。
2作品の上映後に登場した黒沢清監督は開口一番、「自分の作品は必要でなければ観ることがないんです」と語り、「『蛇の道』は必要があったので見返しましたが、『蜘蛛の瞳』は公開以来、数十年ぶりに観ました」と明かした。
2作品の撮影について、「『蛇の道』『蜘蛛の瞳』の順番で、2週間ずつ撮影、間に1日休みをとって、トータル1か月くらいで作っています。2本撮りのシステムで、主演の哀川翔さんとスタッフもまったく同じで、内容やキャストは哀川さん以外はガラッと変えました。哀川さんも楽しんで嬉々としてやられていた印象があります。僕の記憶では、撮影は気持ちよくできで楽しかったのですが、脚本が大変でした。2作とも自分では書く時間がないので、『蜘蛛の瞳』は西山(洋一)さんにプロットをお願いし、『蛇の道』は高橋(洋)さんが脚本を進めてましたがなかなかできない。なんとか撮影にこぎ着けた感じです(笑)」と制作秘話を明かした。
また「『蜘蛛の瞳』は自分自身があっという間に書いた脚本だったけど、プリミティブな欲望が詰まっていると理解してもらい、撮影は自主映画のような自由で楽しい現場でした。いくつかのシーンはアドリブのように撮ったり、シナリオどおりではありますが、現場で変えることもありましたし。なぜ成立したかというと、それは俳優やスタッフたちとの信頼関係です。どんなものができあがるか分からないけれど、必ず完成するという確信がありました。信頼関係だけで作り上げた2作品ですね」と当時の撮影を振り返った。
自身の作品を改めて観た感想を聞かれると、「哀川翔さんはすごい方だと改めて思いました。『蛇の道』の直後に撮った『蜘蛛の瞳』でまったく違うキャラクターとして成立しているのはさすがです。撮影時は『(2作について)全然違いますね』と言いながら、それを楽しんで演じてくれました」と語る。『蛇の道』で主人公が難解な数式を書き連ねる印象的なシーンについては、「哀川さんはあの数式を完璧に覚えて演じていたんです」と驚きのエピソードも明かした。
数十年ぶりに見直したという『蜘蛛の瞳』については、「間違いなく北野武監督の影響を受けていますね。ダンカンさんが出演していることも大きいですが、割とためらいもなく素直に、北野風なことをやりたかったのだろうな、と感じましたね」と告白する場面も。
『蛇の道』『蜘蛛の瞳』などをはじめ黒沢監督作の編集を担当した鈴木氏については、「歓さんには、僕がVシネマをやり始めたころから編集をお願いしていて、『CURE』などもご一緒しました。いつも『どこまで切れるか』の競争を楽しくやってました。ただ、自然に起きた台詞の間は切らないんです。シーンの頭とお尻をどれだけ切れるか。切り方によって、次に何か起こりそうな気がするシーンになって、なるほど!となりましたね」と、鈴木氏との編集作業について語る。
続けて「歓さんがシーンを大胆に切ってくれるから、2本とも80分台の長さに収められました。逆に撮影のたむらまさきさんは、うんと間をとる方だったので、撮影の現場ではたむらさんと『延ばすだけ延ばそう』と言いながら撮って、編集室では歓さんと『どしどし切ろう』って(笑)。そんなことをやって楽しんでいましたね」と、撮影や編集にまで及ぶ映画作りの自由さを楽しんだエピソードを披露した。
文/山崎伸子
※記事初出時、掲載情報に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
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