ヨルゴス・ランティモス監督の最新作、映画『憐れみの3章』(9月27日公開)のトークショー付きプレミアム試写会が9月22日、109シネマズプレミアム新宿にて開催され、ライムスター宇多丸とフリーアナウンサーの宇垣美里、ライター・編集者の小柳帝がトークショーを行った。イベントは、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」(月~木曜日 22時〜23時55分生放送)とのコラボ試写会で、映画公開に先駆け、35mmフィルム上映を鑑賞できる貴重な機会となった。
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※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。
ランティモス監督最新作には、第96回米アカデミー賞4部門を受賞した『哀れなるものたち』(23)のエマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリーが再集結。ジェシー・プレモンス、ホン・チャウ、ジョー・アルウィンらが共演し、愛と支配をめぐる3つの物語を展開する。物語は、第1章の「自分の人生を取り戻そうと格闘する、選択肢を奪われた男」、第2章の「海で失踪し帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官」、第3章の「卓越した宗教指導者になるべく運命付けられた特別な人物を懸命に探す女」で構成されたアンソロジー(各ストーリーの邦題は順に「R.M.F.の死」「R.M.F.は飛ぶ」「R.M.F.サンドイッチを食べる」)となっており、ランティモス監督らしいユーモラスさと不穏を漂わせながら、予想不可能な独創的世界を描き出す。脚本は『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(18)、『ロブスター』(16)でランティモス監督とタッグを組んだエフティミス・フィリップ。
「人によっては難解と感じるかも」と切り出した宇多丸は、上映後のイベントのためネタバレOKで話ができるとニッコリ。小柳が本作の制作経緯について「VFXの多かった『哀れなるものたち』の撮影後、やることがなくなった監督がポスプロの時間を使って作ったもの」と笑いを誘い、脚本のフィリップとずっと練っていた作品で、「2人で10話くらい作っていた。そのなかの3つが入っている」と明かすと、宇多丸は「10話も!難解だと思っていたけど、この3つはまだまだキャッチーなほうだったのかも!」と笑った。
第1章については冒頭で流れるユーリズミックス(Eurythmics)の『Sweet Dreams (Are Made of This)』に触れ、歌詞の意味が1話の内容を表現しているとし、「親切設定!」とコメント。宇多丸自身の表現で言うと「支配と依存の話。搾取する側とされる側で成り立っていて、それ込みでの世の中でしょ?みたいなことを描いている」と説明し、自身2度目の鑑賞で思ったことだともしていた。難解な物語ながらも、要所要所で読み解けるヒントを出してくれていると話した宇多丸は、3つの物語のなかでは第1章が一番わかりやすいかもとし、第1章の主人公については「ランティモスみがある!なにを考えているのかわからない系」と称した。宇垣も「温度が出ない感じ、冷たい感じ」と話し、観客も大きく頷いていた。
本作制作前にランティモス監督がアルベール・カミュの戯曲「カリギュラ」を読んでおり、それが第1章に投影されているとの小柳の話に、宇多丸は「自分の暴君性、すべてをコントロールする感じがあった」とし、監督のセルフパロディだと思ったとも話し、笑いを誘っていた。撮影にこだわりのあるランティモス監督らしい“画角”も本作の見どころと話した宇多丸は「なんでその角度から!」という謎の画角がおもしろいとし、「普通に撮ればいいのに(笑)」としながらも、それこそが本作の注目ポイントのひとつとし、画角が印象的だったシーンも挙げていた。
一番難解なのが第2章と声を揃えた3人。宇多丸は「自分が思っているアイデンティティと人から見られている自分のアイデンティティ。立ち位置を取られると人間は何者でもなくなってしまうみたいな表現が、非常にランティモス的!」と指摘。第2章は「難解みとグロみがある」とし、注目ポイントとしてはウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』(18)を思わせるシーンがあったとし「サーチライト・ピクチャーズといえば、みたいなオマージュがあるかも!」とも話していた。
第3章は第1章と似ている構成と語った宇多丸は「水をかけているくだりで、聖水系ですか、来ましたかという感じ」だったとし、「支配と依存。第1章を語り直している感じがある」と分析。暴力的な社会構造が広がっている様子が描かれていて、「主人公の暴走には同情はするけれど、人を食い物にすることをなんとも思っていない。お前もそのサイクルの一部になっている。ゆえにR.M.F.という存在が大事」と本作のキーワードでもあり、ランティモス監督はそれがなにであるのか説明することはないであろう“R.M.F.”にも触れる。小柳が「各章の終わりのタイミングが見えないと思った」と話すと、宇多丸は「エマ(・ストーン)が踊り出したところでクレジットが被るところもギャグ」と大笑い。映画全体を通して感じたこととして、「こんな難解でぶっ飛んだ映画を撮る人だけど、意外とランティモス監督ってまっすぐな人なんじゃない?」と話し、「社会と接点がなさそうで、実は考えているみたいなところがある」と自身の感想を伝えていた。小柳は本作のキャスティングを例に挙げ、「ホン・チャウは監督から“あなたが出ていた作品を観ました”という手紙をもらったそうです」と裏話を明かし、ランティモス監督は普段からいろいろな作品を観ていそうと想像し盛り上がっていた。
お知らせのコーナーでは、23日放送の「ヨルゴス・ランティモス監督の独自の世界観を紐解く特集」と題して本作の公開直前企画を告知。ランティモス監督作品が好きな月曜パートナーの山本匠晃アナがどこをポイントに作品を観たのかを予想し、3人で盛り上がる場面も。宇多丸はこの日のイベントで話したテーマには観ていなそうと話し、どのような見方をし、どのような感想を話すのかがとても楽しみだとしていた。
本作は全国で唯一、109シネマズプレミアム新宿のみ35mmフィルム特別上映される映画館。宇多丸はフィルムの入れ替えマークを新作映画では久しぶりに観たとうれしそうに語り、「(入れ替えている)風でやっているのはあるけれど、本物は久しぶりに観た、すばらしかった」と大興奮。さらに映画館に来る楽しみの一つだとして、サーチライト・ピクチャーズ作品おなじみの「SEARCHLIGHT PICTURES issue」『憐れみの3章』劇場用プログラムと、映画公開日より発売される「サーチライト・ピクチャーズ30周年記念号」をおすすめ。
フォトセッション後にも“まだまだ話し足りない”と言った様子で、盛り上がる3人。宇多丸が再び本作のファッションに触れ、第1章でのウィレム・デフォーのタートルネックにハーフパンツという組み合わせを「気持ち悪い服装」と笑うと、宇垣も第3章でデフォーが着ていたオレンジ色の水着姿もキモいと笑顔で褒め言葉を並べる。これこそがランティモス監督の狙いどころだとし、「(鑑賞は)2度目だったけれど、ディテールがおもしろかった。そうだったのか!という気づきもある」と感想を伝え、何度も楽しんでほしいと呼びかけ、さらに「劇中のダンス、マスターするっきゃない!」とノリノリでダンスも披露し、大きな拍手を浴びていた。
全国唯一の35mmフィルム上映を記念してシアター8のある10階メインラウンジにて本作の特別装飾も実施中。映画とあわせて楽しもう!
取材・文/タナカシノブ
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