竹中夏海「アイドルの心や体のケアをなおざりにして未来のエンタメは生み出せない」

竹中夏海「アイドルの心や体のケアをなおざりにして未来のエンタメは生み出せない」

9月6日(金) 19:00

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愛に溢れたポジティブマインドで演者を支える振付演出家の竹中夏海さん。近年はアイドルの健康課題や労働環境に向き合う活動も。新しい分野に前向きにトライする理由を聞きました。
「居場所を作りたい」がすべての原動力に。

国民的アイドルからお笑い芸人まで、ジャンルや年齢、性別問わず、踊り手の魅力を引き出す振付や演出を行う竹中夏海さん。アイドル専用ジムの監修やアイドルとお笑いを組み合わせた舞台をプロデュースするなど活躍の場を広げている。

「これまでたくさんのアイドルと仕事をしてきましたが、彼女たちが置かれた労働環境に疑問を感じるようになって。公開ダイエット企画とか、十分な練習もなく長距離のマラソンに挑戦させるとか。そういう状況に“おかしい”と声を上げても、“まぁ、こういう世界だから”と真面目に取り合ってもらえない。でも、アイドルの心や体のケアをなおざりにして未来のエンタメは生み出せないと思って。業界のトキシックな面を改善して、女性が安心して活躍できる場づくりをしたいと思うようになりました」

そこで、竹中さんはこれまであまり語られることのなかった月経困難症や摂食障害、性教育、体づくりなどアイドルの健康をテーマにした本『アイドル保健体育』を出版。“推し”の健康を考えようと世間に呼びかけた。

「婦人科の医師や臨床心理士、スポーツトレーナーなど専門家に話を聞きに行き、問題の背景に何があるのか、本作りを通して私も多くの学びがありました。せっかく問題提起したんだったら行動しようと思い、心と体と向き合うアイドル専用ジムを作ることにしたんです」

受講者が不調を感じた時、専門医を紹介したり、アイドルのセカンドキャリアをサポートするなど、心と体のケアに向き合ってきた。そして、今年はアイドルによるコントバトルの企画・プロデュースにも初挑戦。

「これまで芸人さんの振付やポージング指導も行ってきたので、私自身お笑いがすごく身近で。アイドルもかわいさだけで評価されるのではなくて、ユーモアも魅力の一つとして発揮できる場を作れたらと思って」

この企画を手掛けることで、仲間を募りたいという竹中さん。その思いの裏には、壮大なプロジェクトの構想があった。

「将来は、歌って踊れて、コントもできる歌劇団を作りたいんです。先に話したウェルネスジムもコントバトルのプロデュースも一見バラバラに見えるかもしれませんが、私の中ではすべて“女性が輝ける場所を作る”という思いで繋がっています。さらに妊娠や出産を経ても戻ってこられるような出入り自由な場所にできたらと」

プロデューサーとして新ジャンルを切り開く竹中さん。自分の未知なる才能はどうやって引き出すことができたのだろう?

「力を引き出したというよりも、我慢しなくなった感覚に近いかも。やりたいと思っていることがあるんだったらやる。おかしいと思ったら変えようと努力するのがモチベーションかな」

いざ行動してみると、肩書が必要と感じる場面にも遭遇。そこで今年の頭から産業カウンセラーの勉強をスタートした。

「振付演出家だからといってアイドルの労働環境や健康を考えちゃいけないわけじゃない。けれど、声を上げるんだったら説得力があった方が耳を傾けてもらいやすい。それで資格を取ることにしたんです。産業カウンセラーは企業に勤める人を対象にした話が中心なので、私たちのようなフリーランスの不安や悩みの解消方法は抜け落ちているところもある。新たな課題も見えてきたからこそ、なおさら自分がやらねば!という気持ちでいます」

慣れない環境では歯がゆい思いをすることもある。そこで心がけていることがあるという。

「感情と言動を切り分けて考えるようにしています。たとえばすごく嫌な目に遭って後ろ暗い気持ちが湧き起こった時、“私って駄目なヤツだな”って、自分のネガティブな感情を否定していたんですけど、そもそも感情はコントロールできないもの。それはいったん脇に置きその分、言動は選ぶよう心がけたらうまく気持ちを整理できるようになりました。私が頑張れるのは、きっと下の世代のおかげ。自分だけのことだったら“我慢すればいい”で済ませていたかも。でも、彼女たちに相談されたり、力を貸してほしいと言われたら適当なことはできない。それが、一歩を踏み出そうと思えるエネルギーになっています」

たけなか・なつみ1984年、埼玉県生まれ。2007年、日本女子体育大学ダンス学科卒業。振付演出家として活動し、500人以上のアイドルを指導。柚木麻子、ゆっきゅんとのポッドキャスト番組『Y2K新書』も好評。

※『anan』2024年9月11日号より。写真・小笠原真紀取材、文・浦本真梨子

(by anan編集部)

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